大賢者と冷室
温室と冷室に必要と思われる分のガラスを製造した。まず設計図を書き起こし必要なガラスの枚数を計算し、それに破損率をかける。この数字は20%と設定した。そこから必要な材料を計算して材料をかき集める。珪砂に関しては砂浜にいくらでもあるのでただすくってくれば終わりなのだが、他の材料が足りないので付近から調達しなければならなかった。探索魔法で近くの資源を調査していたのだが、ソーダ灰は海藻から精製することにし、残り材料は海底から見つかったので海底から調達した。
調達した材料を
こうして適切な調合を解析すると実際に作成し、何度か調整を繰り返し板ガラスは完成した。
その作業には一週間ほどかかり、その間、エリザは牛の世話をし、カチュアは付近の掃除をしていた。ついでに食べられない獲物を狩ってきてくるので、そのたびアルフォードは解毒してから焼却する羽目になった。
ガラスが出来てしまえば組み立てるだけだ。整地と基礎工事、組み立ては全てゴーレムにやらせる。ガラスを割らないかと心配したが意外にガラスは頑丈に作られており、そのまま組み上がった。
ただ、ガラスの家を建てただけでは温室、冷室にはならない。そこに温度調整機構と温度管理機能が必要になる。この二つを元素魔法と錬金術で解決することにした。温度調整に関しては加熱と冷却の機能を使う魔道具を利用する。加熱に関しては風呂を沸かす時に出てくる廃熱があるのでそれを利用することにした。エコと言うより魔力の無駄遣いを避けるためだ。魔力の消費を減らせば魔石を入れかえる手間が省ける。言い替えると魔石を入れかえる回数が減ったの分だけ自堕落に生活できるのだ。アルフォードは楽するためには手間を惜しまなかった。
冷却による廃熱を利用することにした。錬金術でペルチェ素子の様な物体を作り上げた。この冷却体は一定方向から魔力を流し込むと周囲の熱を奪い、逆方向に蓄熱する性質がある。その熱も温室に回す様にした。この仕組みを作るのに謎の魔法陣を大量に書くことになったが、計算上、必要な魔石量を1/4に減らせることに成功した。つまり魔石を入れかえる回数も1/4に減る。将来、そのぶん楽できるのだ。
ついでに冷却施設を土壁で作ることにする。壁を分厚し石で内側と外側を囲う。とても大きな氷室だ。更にその内部も分厚い壁で八つに分割していく。一番後ろに冷却装置を通して氷室の中を冷却する。一番奥はマイナス60℃、そこから手前にマイナス21℃、マイナス18℃、マイナス3℃、0℃、4℃、8℃、16℃前後になるように調整しておく。冷却する魔道具はスターリングエンジンを応用することにした。スターリングエンジンを応用したスターリングクーラーはヘリウムを利用した場合、原理的に絶対零度近くまで冷却可能だ。ただマイナス60℃だと窒素でも十分だと考えられるので大気から窒素を分離して詰め込むことにした。そしてポンプを動かすのにも当然魔力を利用する。魔道具そのものは錬金術で良い具合に出来るが、冷却施設がやや大きめなので魔道具もかなり大きくなってしまった。ポンプには強化魔法を念入りにかけ、疲労による破損や窒素の流出を避ける様にした。
最後にこれらを監視するシステムの構築をした。水晶球を覗き混むことで菜園の様子を可視化するのだ。まず菜園のあちこちに映像を取る魔道具を設置して水晶球とリンクする。ピンホールカメラの様に見えるが映像を撮影する魔道具だ。温度監視については、温度により魔力の流量が変化する金属を錬金術で合成した。この金属は1年ほど前に気温を測る魔道具として商用化しており在庫もある。ただ魔道具そのもの数が足りていないので、魔法陣を書いてそこにその金属を埋め込んで量産する必要があった。魔法陣の働きは、魔力量を数値化するだけだ。仕組み的には簡単だが数値が極小なので精度が重要になる。精度は見本の温度計を見ながら調整する必要がある。
水晶球を城の中に設置して動作を微調整を行うと完成だ。しかし、最後の微調整が大変でこの作業は恐らく一月ほどかかるだろう。
なお同時並行でバターとチーズ造りをしていたアルフォードである。ちなみにバターは絞りたての生乳を容器に入れてぶん回すだけだ。殺菌した方が安全そうなので先に魔法で殺菌しておく。ぶん回すのは、面倒なのでエリザにやらせることにしたのだが楽しそうに回していた。「高速回転しすぎて怖すぎるし、遠心分離の魔道具を作った方が良いな」とそれを見ながら思うアルフォードだった。
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