大賢者とミスリル
「そうだミスリルを混ぜよう。鉄にミスリルを混ぜたミスリル鋼は、鋭い切れ味を持つと言うし、ミスリルを混ぜると更に強い鋼ができるはずだ」
京都に行くのりでアルフォードはミスリルを探すことにした。この流れは(以下略)。情報属性上級魔法
「御主人様、思いつきで行き当たりばったりするにもほどがあります。いい加減懲りたらどうですか。それよりご飯はどうしたのでしょうか?今日もパンと水しか食べてません」
床を掃除しながらカチュアが言う。いつからお前は俺のおかんになったのだとアルフォードは思った。
「スローライフたるもの、その日暮らしと思いつきで生きるのが基本だろ」
そんなものは基本では無いがアルフォードは断言する。
「私は、楽しいからいいですけどね」
フォローしているのか貶めてるのかよく分からない口調でエリザが言う。
「それより、今からミスリル掘りに行くから準備しろ。思い立ったら吉日と言うだろ」
流石に今から行くと思っていなかったので、啞然とする二人だった。
アルフォードは、魔法で広域探索を探索し、ミスリル鉱床がありそうな場所を特定していた。ここから北西に20km行った洞窟にあるらしいと言うところまで突き止めていたのだ。
そして、荷物を担いで洞窟内の探索をしていた。カチュアとエリザも武装してついてきている。アルフォードが無理矢理つれてきたのだが、攻撃力0の御主人様を放置すると危険だから守らなければならないと言う彼女ら自身の意思もある。
ミスリル鉱床は銀鉱床とマナが濃い場所に発生する事が多い。しかし、そう言う場所は、魔物も好んで住む場所でもある。光属性初級のライティングの魔法で、光を灯し、洞窟の奥深くに進んで行く。このような場所では可燃性のガスが籠もっている可能性があり、火属性の魔法は本質的に危険だからだ。
「大気分析する限りは、危険なガスは混じってない様だが、火は使用禁止ね。分かったか」
「ええ、私はこのボケ猫とは違うが違うから大丈夫です」
「私もこのイカレメイドは違うから問題ないのだ」
相変わらず仲が良いなこの二人。アルフォードは目をそらしつつ洞窟の底まで行くと沢山のスライムがへばりついていた。
この世界のスライムと言うのは、ゲームに出てくるスライムとは全く別の生き物で、ほとんどの魔法が通じず、武器の攻撃も効かない粘性生物の一種だ。しかし攻撃性の高いスライムは少なく積極的に攻撃してくる事は無いので人の住む領域に入ってこない限りは放置している。しかも森林の奥や洞窟などに棲息しているため、見かけることも余りない。
しかし、ここは未到の洞窟の奥、多数のスライムが棲息していてもおかしくはない。魔物が少ないのもスライムが多数生息しているからだろう。スライムと魔物が仮に真正面から戦うと魔物がスライムに飲み込まれて消化されてしまうことも多い。しかし、アルフォードはスライムを排除する必要があった。それは採掘の邪魔になるから。
「やはり、ここはこいつでしょうかねぇ……」
アルフォードが丸くて白い柔らかい金属塊を荷物袋から取り出すと、近くにスライムに向かって投げつける。丸い塊がスライムにあたるといきなりスライムが爆発し、火柱を上げてゆく。
「やはりスライムにはこいつが一番効きますね。二人も手伝ってください。あ、こいつは、素手で触ると危険なので手袋をして、仮面を付けけてくださいね。下手に付着すると身体が溶けますから。こいつを弾代わりにして、スリングでスライムにぶつけてください」
そういうと二人はわたされた手袋と仮面をつけて、金属塊をスリングでスライムにぶつけていく。白い塊がスライムがぶつかると、爆発音と火柱があがる。洞窟の中は蒸気で白くなっている。
「これぐらい減らせば十分でしょうね。後はまとめて処理します。メタル・ソーダ・ストリング」
大賢者が魔法を唱えると隙間と言う隙間に白い金属の糸が飛んで行き、洞窟の隙間に居るスライムを一瞬で焼いていく。
「取りあえず中和もしておきましょう。アジット・ミスト」
水滴が飛沫しスライムの残骸にあたると、白い粉を吹いて地の底へと落ちていく。
「しかし、凄い攻撃魔法ですね。御主人様」
「いや何の攻撃力も無い錬金術に過ぎないけど、塩を分解しただけだし」
「それで、スライムから吹き出ている白い粉は何でしょうか?」
「それも塩だけど?」
スライムに向かって、金属ナトリウムを投げつけたのだ。スライムの組成の大半は水分だ。そこに金属ナトリウムをぶつけると化学反応を起こし、水酸化ナトリウムと水素と熱が発生する。熱により水素が燃え、スライムのコアは水酸化ナトリウムに溶かされ内部と外部から破壊される。後で中和剤を撒かないと行けないのが面倒なぐらいだ。金属ナトリウムは扱いが難しく数を用意できなかったので途中から塩を分解することにした。塩を分解してナトリウムと塩素にし、中和材として残った塩素を水に溶かして塩酸を撒いたのだ。そのさい、塩素ガスが生じるので風魔法で気流を閉じ込めて、洞窟外に放出しないと非常に危険だ。
※ この実験は、訓練された大賢者がやっています。危険過ぎるのでよい子はマネしちゃいけません。
「「へっ」」
さすがの二人もびっくりして、硬直していた。
「やはり、ここにはミスリル鉱床がありそうな感じだな」
「御主人様、ミスリルは何処にあるのでしょうか?」
「この黒いシミがそうだ」
アルフォードは、岩石の中に埋まった黒ずんだ小さいシミを指す。硫化ミスリルだ。アルフォードによる仮説では硫化銀が大量のマナを取り込んだものがミスリルだ。黒ずんでいるのはミスリルが硫化しているから。この黒いシミは水にふれた瞬間に還元されミスリル戻る。理由は不明だが銀は硫化しているときとしていないときで魔力の吸収量が大きく変わる。その状態で魔力濃度が地上の10~100倍の場所に1000年単位で放置しないとミスリル化しないようである。このプロセスを短縮し、人工的にミスリルを作るのはまだ難しそうだ。銀がミスリル化すると化学特性が大きく変わる。まず融点が4000℃を超える。つまり鉄の高炉ではミスリルは溶解しない。錬金術による加工が必須。そしてイオン化傾向は金より小さくなる。これが意味するところは熱に強く、錆びにくく、酸に強いのだ。そして比重は水より若干軽い。ミスリル分子が銀より軽くなる原理に関してはまだ分からないことが多い。しかし銀とミスリルでは魔法特性関しては大きな違いがある。
※ 大賢者は、セルシウス度を使っている。氷った水を0にして、沸騰した水を100にして100分割すると温度計が作れるかららしい。どうやって百分割したかって?五分割は五芒星がかければできる。五分割を五分割し、四分割すれば百分割になる。
「随分小さいですね」
「そりゃ希少金属だもの。100人のドワーフを投入して、年1kg取れれば良いぐらいだと思うけど」
※ 大賢者は、度量衡の単位にSi単位系を使っている。しかしキログラム原器もメートル原器も存在しないので、推測に基づいて作られている。なお、基本的な身体尺1キュビット=45cmから逆算している。キュビットは、肘から中指先までの長さのことである。そのため大凡2.2キュビットを1メートルと定義し1メートル四方の水の重さを1tと定義している。アルフォードはヤードポンド法が嫌いなのだ。
「たった1kgですか?」
「ミスリルは軽いから100gでロングソード一本作れるから10本は作れるかな」
「それは一財産になりますね。これで御主人様も苦労せずにすみますね」
苦労しているのは、ほとんどお前等の所為なのだが——いつ気がつくのかな……。アルフォードは意識が少し遠くなったので気合いで現実に引き戻した。
「ただ余りに軽すぎると使いづらいし、高すぎると買い手がいないから鉄を混ぜたミスリル鉄が一般的だな。鉄9にミスリル1を混ぜると重さは鉄の剣やや軽いぐらいで鋼より丈夫な剣が出来るな。タングステン鋼やモリブデン鋼より丈夫だ」
「タングステン鋼やモリブデン鋼ってなんにゃん?」
エリザがクビを傾げている。
「すまん忘れてくれ」
この世界で、タングステンやモリブデンが発見されてもミスリルの方が楽に精製できるから使われる気がしないのだが、特殊な魔法特性があるかも知れないと密かに考えるアルフォードだった。
大賢者はその場にパイプラインを製造していく。スティールゴレームにドリルを持たせて岩盤の掘削をおこなわせる。砕いた石は、Uの字上のパイプに載せられる。パイプは出口に向かって石を転がしていく。ベルトコンベアの様な挙動をしているわけだ。パイプの切れ目には破断用の魔道具が置かれ、石が通過すると更に細かく砕いていく。段階的に砕かれた石は、出口に出る頃には砂に変わっている。出口にはこの砂を振る魔道具が置いてあり、重さやマナに反応して一瞬だけ風魔法が作動する用になっている。この魔道具により砂が複数に分類されていく。大きく、ミスリル、銀、金、銅、それ以外に分類される。残った砂(ほとんど二酸化珪素)は簡易浄化装置に送られ遺棄される。
「しかし、放置しておくと 海に捨てるしか無いかな」
「それだとお魚さんが困りませんか?」
エリザが聞いてくる。
「ここに積んでおくわけにはいかないだろ。崩れたら危ないぞ」
ミスリルが採掘できる洞窟だけあって、マナ濃度が高いため、洞窟内から供給される魔力だけでこの装置は動作可能だ。しかし、監視と定期的なメンテナンスは必須だろう。取りあえず、監視カメラの様な機能を持つ映像を送信する水晶をパイプラインをカバーする用に取り付け、受信先を
それより異常を検出するための魔法陣の設計の方が面倒な気がする。アルフォードはそれに菜園で使っている魔法陣を転用することに決めた。
(これ画像認識AIそのものだよな)
洞窟から運び出すのには地下道を掘るのが一番良いだろう。そう考えたアルフォードは、洞窟から真っ直ぐまでゴーレムに穴を掘らせる。大型ドリルを利用し、魔力は洞窟から供給することにした。
ついでに先日作った人工魔石を洞窟内の魔法陣の上に置いておく。そうすると魔力が自動的に充填されるのだ。人工魔石は天然の魔石と違い、壊れるまでは繰り返し魔力の充填が可能だ。特に魔力の強い場所に置いておけば何度も繰り返し使える。魔力を充填する理由はもう一つあり、あまりに強いと魔物が生み出されてしまう。余分な魔力を人工魔石に吸収させることで魔力濃度を最適化するためだ。
しかし、持ってきた人工魔石を使い切ってもまだ足りない。
「もう少し作ろうか」
アルフォードは白い粉を握りしめ錬金術を使った。しかし出来たのは透明な人工魔石ではなく赤い宝石だ。
(あれ、クロムが混入したのかな?もしかしてクロムが混入したのかな?やはり錬金術を使う前にちゃんと手を洗わないと駄目だなぁ)
反省するアルフォードだった。
「御主人、どうしたのだ?」
近くで鉄パイプを持ったエリザが聞いてきた。因みにエリザは資材運びをやっており、カチュアは施設の清掃をしている。
「いや、魔石の作成に失敗した」
赤い宝石を見せる。
「その石は綺麗なのだ」
エリザが猫撫でで声で言いながら尻尾を振り回している。
「これ欲しいか?」
「くれるなら貰うのだ」
「まぁ、失敗作だけどな。居るなら適当に持ってけ」
後からカチュアにエリザだけずるいと言われるので他の失敗した石を揚げることにした。こちらは、うっかり鉄を混ぜてしまい青くしてしまったやつだ。
完成したミスリル鋼に試しに雷属性中級魔法の磁化をかけてみた。そうすると周囲に置いた鉄が引き寄せられていった。どうもミスリル鋼を磁化すると強い磁石になるようだ。危険すぎるので、取りあえず消磁することにした。
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