大賢者と料理
解体した肉のうち一塊もあれば、夕飯には十分な量になる。のこりは乾燥させたり、塩漬けにしたり、燻したりすることにするとして、取りあえず今晩の飯をどうするか考える必要がある。
最初は、ミートパイを焼こうかと思ったが、その場合、竃を作る必要があるし、それを今から作るとなるとかなり時間がかかる。パンを焼くためいずれは竃を作る必要があるが、保存用のパンが出来るまでは作る必要はないだろう。その理由は、柔らかいパンを今作ってしまうといつまでも硬いパンが消費されないからだ。そう言うわけで、焼き餃子を作ることにした。ファーランドで前世の食べ物を自重する必要もなかろうと言う訳で、小麦粉を取り出し水でこねて寝かした。それから、肉を細かく刻む。次に肉をこねる。この作業には臼が使える。この場合には石臼ではなく搗き臼を使う。菜園から薬草とキャベツと西洋ネギとニンニクを摘んできて、これも細かく刻む。それから肉ときざんだ野菜を合わせる。寝かしておいた小麦粉をちぎって餃子の皮を作り、種を包んでいく。作るのは焼き餃子なので皮はやや薄めにしてある。この付近にも餃子に近い食べ物はあるがラビオリの様なもので水餃子の親戚なので、焼いて食べる食べ方は不思議な食べ物にみえるかもしれない。
それからコンロに火をいれる。コンロは魔道具で、火属性初級
アルフォードはフライパンの上で獣脂を溶かしてその上に餃子の種を並べていく。皮が焦げたのを確認すると湯を流し込み、蓋をして蒸し焼きにする。その間に副菜と汁物も作る事にした。肉を薬草と一緒に煮込んで塩と香辛料で味付けする。そして菜園で摘んできたハーブのサラダである。これにはドレッシングをかける。ドレッシングに使う油とレモンも菜園で取れたものを使う。やはり菜園は一家に一つ必要だとアルフォードは考えていた。
アルフォードは育ち盛りが二人も居ることを思い出しもう少し餃子を焼いておくことにした。
「そこの二人、厨房をじっと眺めてないでテーブルを並べて食器を並べなさい」
この屋敷は、一つの部屋で全てを兼ねているので食事の時間だけテーブルと椅子を並べてそれ以外は片付けるのだ。したがって、テーブルや椅子は普段は部屋の隅っこに置いてある。食事をするときには部屋の真ん中に並べる必要がある。
「そのニンニクは抜いてくれるとありがたいにゃ」
エリザは、お前はこの猫か、もしかすると猫人は、葱、ニンニク、ニラの類は苦手なのかもしれない。猫に取っては毒だからな——などと思い聞いて見ると。
「単に苦手なだけにゃ」
——などと猫人弁丸出しで言っていた。どうやら考え損だったようである。エリザがマタタビに反応するのか一度試してみたいな。確か蚊除けに使えるので菜園でも育てている。王国は涼しいので出番が無かったがファーランドでは使う機会があるかもしれないなどとアルフォードは考えた。
食事が終わると次は風呂だ。いつでも入れる掛け流しの風呂が既に準備してある。すなわち風呂に入りたいと思ったときが風呂に入るタイミングだ。ただし風呂は屋敷の外に作ってあるので屋敷の外にある。つまり丘を降る必要がある。アルフォードは屋敷から飛び出すと飛行魔法で風呂場まで一直線に飛んでいき、そのまま服を脱ぐと風呂にダイビングした。
やはり風呂は良い。一日の疲れが癒される。前世に引きずられているのか風呂に入るとホッとしてしまう。空を見上げると星と月が煌めいている。この風呂は露天風呂にしてある。その理由はファーランドは、あまり雨が降らないので露天にしておいて十分なのだ。しかし上を見上げると星空だが、横は壁しかみえないのである。
それはともかくーー。
「なんで、お前らがこっちに入っているのだ。女湯はあっちだぞ」
「なぜなら御主人様の身体を洗うために決まっているじゃ無いですか」
「カチュアがおかしな事をしない為に、見張るためです」
エリザに至っては取り繕う気すら無い。しかも何も身につけてないのだけど、この娘達には恥じらいなるものはないのですか。精神年齢的に言えば、父親が娘と一緒に入ると考えればギリギリセーフか——じゃねぇ。俺的にセーフでもポリコレ的にはアウトな気がするので、うるさい団体が押し寄せてくる前に取りあえず湯気さんと謎の光さんに仕事してもらうことにする。大した仕事では無いのだがエリザの方が大きいのか。着痩せするタイプなのだな——でなくてこの場を何とかしないと落ち着いて風呂に入っていられないわ——アルフォードは思案した。
「カチュア、エリザ、風呂に入るなら向こうに入れ」
女湯の方を指さす。
「ああ、これ邪魔ですね。除去しておきます」
エリザはそう言うと男湯と女湯の間の敷居をガンガンぶち壊していく。昼間の苦労が台無しではないかとアルフォードは頭を抱えた。
「これで、お風呂が広くなりましたね」
(そうじゃない。そこらに浮いている木片を片付けるのは誰だと思っているのだ)
「それでは身体を洗いますので御主人様は、こちらへ」
いつの間にか横にすり寄ってきたカチュアがアルフォードの手を引いている。カチュアは気配を消してアルフォードの背後に近づいていたのだ。
「駄目です。御主人様は私のものです。このツルペタ」
エリザも風呂の中に飛び込んでくる。
「こら、お前ら、風呂で暴れるなら出て行け」
——などと言っても話を聞かない二人にもみくちゃにされるのだった。
「つかれた……」
それからもみ合うこと小半時、アルフォードは風呂から這い上がると疲れがどっと出てきた。カチュアとエリザの二人はなぜか艶々している。若いって良いなとアルフォードは感慨にふけった。実際のところ精神年齢はともかく実年齢は1歳ほどしかかわらない。アルフォードは今日は早めに寝ることにしようと服を着ながら考える事にした。ちなみに着ているのは専用の寝間着である。ちなみに王国には夜と昼で服を変えると言う発想が無いので、この服は特注品だ。そもそも貴族以外は古着ぐらいしか買えないので単純に着替える服が無いだけともいう。ちなみに寝床は藁にイグサを縫い込んだもの。所謂、畳だ。その上に布団を敷いてある。イグサに近い草が王国内にも沼地などに生えており、それをこっそり集めて作った代物だ。この畳使わない時は部屋の隅に立てかけておけば良いのでスペースの節約になる。多目的部屋一つだけの環境ではこういった小物があると使い勝手が良いのだ。
朝起きると大変な目に合ったのは省略しておく。
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