10-8 『首を縦に振るだけでも構いませんが』


「姉さん、この休みはもちろん・・・・私と過ごすんですよね」


 由芽ちゃんがお泊まりに来て初日の朝、ルーズに着崩した寝間着姿のままでの第一声がこれである。布団の上から跨がる形で乗っかっていて重たい。小柄で平均的な中学生と比べると凄く軽いだろうとは思うけれど、そもそも小学生サイズだとしても人が一人乗っかっていると重たいことに変わりはない。

 しかし昨日から思っていたことではあるけれど、傍若無人なわがままっぷりは変わっていない。もちろんって、私にも用事があるかもしれないということを考えているのだろうか。……別に用事らしい用事なんてものはないけれど。

 休日に出掛けることはそれほどない。心春たちと仲良くなった今でもそれは変わっていないのは、私自身がそもそも出不精な人間であり、休日を家で過ごすことを苦にしないタイプであることもあるのだけれど、他の子たちも揃って結構なインドア派だから自ずと籠もりがちになってしまっている。

 一度みんなに休日は何をしているかと聞いたこともあるけれど、心春は『予習と復習をしたり、それからアニメを見たりでしょうか。あっ、そうです、最近は筋トレも頑張っていますよっ!』なんて力こぶを作りながら言っていたし可愛いし。

 咲良は『楽器やパソコンを触っていたら終わっている』と俗世間には興味が本当に無さそうだし。

 東雲さんに至っては『昼前に起きてご飯食べて布団に寝転がりながらスマホ触って、あと漫画や小説を読んだりもして、寝落ちして気付いたら夕方……あれ!? もしかして私の休日ろくでもない!?』と、頭を抱えてショック受けていた。せめて朝起きたほうがいいとは思う。


「返事はどうしました? 首を縦に振るだけでも構いませんが」


 横に振らせるつもりはないらしい。首筋に添えられた手のひらに圧力を感じる。横に振ろうとした瞬間にガッツリと固定された上に強制的に縦に動かされるのではないだろうか。


「大丈夫だよ。せっかく遊びに来てくれたんだから、由芽ちゃんを置いて行ったりなんてしないよ」


 元々由芽ちゃんが泊まりに来ると聞いた時点で予定を入れるつもりはなかった。急ぎの用事があるわけでもない。現状、技術らしいものを何も持ち得ていない私が時間を無駄にしている場合ではないのかもしれないけれど、従姉妹との時間を無駄と切り捨てることはできないし、したくない。

 なんてね。重たく言ってみたけれど、実際のところは大したことではない。時間は長くはないのかもしれないけれど、だからって明日や明後日に何もかも終わってしまうほどに短いわけでもないんだ。

 だからまあ、由芽ちゃんと遊ぶことはただの日常の延長線上だ。お泊まりに来てもらってる分、少しだけ特別なイベントってくらい。


「よろしい。それでは朝食ですよ、姉さん。おばさんは朝から出勤のようですので、まずは朝食の用意をお願いします」

「はいはい、そのためには退いてもらわないとね。それに、さすがにいいかげん重たいから──あいたたた」


 口を滑らせてしまい、無言のままほっぺたを引っ張られた。

 いつの間にかそういうことを気にする年頃になっていたらしい。ある程度自由に引っ張り回したあと、「姉さんのばか、いいから早くご飯作ってください」と言い残して部屋を去っていく。

 うん、確かにデリカシーがなかった。反省しよう。

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