10-7 『ふふ、ちやほやされるの気持ちいい……』


「誤解です。私はそんなこと一言も言っていませんから。ここのところ連絡をしてこないからもう生きていないのかと思っていたとは言いましたが、それだけです。心配してたわけじゃないですから。どちらかと言えば皮肉です」

「あら、似たようなものじゃない。ねえ、真宙?」


 ねえ、と言われても。どう答えたら正解なんだ。曖昧に笑ってみると、じいっと睨みつけていた由芽ちゃんの視線がふたたび母さんのほうに戻った。肯定も否定もせず、玉虫色の選択は生きていくには必要だ。積極的に使いたい手法ではないけれど。


「いいですか。あれはただ、義理に欠ける姉さんへの嫌味をこぼしただけです。まったく、おばさんは相変わらず適当なんですから。姉さんも本気にしないでくださいね」

「あ、うん。由芽ちゃん、なんだかごめんね」


 必死に弁解するものだから、なんだか思わず謝ってしまう。

 私が連絡を取ってなかったのが原因のようだし、そういう意味でも謝ったほうがいいんだろう。確かにここのところ、由芽ちゃんとはなかなか連絡を取れていなかった。元々毎日のように連絡をしていたわけではなかったけれど、それでも何ヶ月も連絡を取らなかったのはもしかしたら初めてだったかもしれない。

 由芽ちゃんのことを寂しがらせてしまったのは事実だ。まあ、きっと本人は認めたがらないだろうけれど。


「別に謝られることではありません。元を辿れば私が勝手に嫌味を言っただけですし、姉さんに非があるわけではありませんから。ずっと忙しかったんでしょう。それに私もそれなりに忙しくしていましたから、都合がよかったですよ」


 ですから、とさらに由芽ちゃんは続ける。


「心配をしていたわけでもありませんし、ましてや寂しく思っていたなんてこともありません」


 視線をこちらに向けず空になった皿を見ながら言う。由芽ちゃんの白い肌がうっすらと赤らんでいるのに気付かないふりをしてあげるのも年長者としての役目だろうか。

 悟られないように笑みをこぼしてみると、ムスッとした顔になった。狭い食卓では表情を隠すことはできないみたいだ。


「そうだ、由芽ちゃんも忙しくしていたってどうしたの?」


 ヘソを曲げられてしまう前に話題を変えようと、先ほどの会話から題材を拾いあげてくる。


「趣味に関する動画配信を少々。天才系LANEtuberとしてそれなりに人気があるんですよ。ふふ、ちやほやされるの気持ちいい……将来的には収益で不労所得を得たいところですね」


 おや、従姉妹がいけない道に踏み込みかけている気がする。

 しかし天才系LANEtuberか、どこかで聞いたような設定だけど……まあよくあるのかな。尊大な態度はいつの時代であれ、良くも悪くも映像映えするものだからね。

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