10-6 『なんだかすっかり心春の色に染められている』


「そう言えば由芽ちゃん、今日は学校どうしたの?」


 夕食中にふと疑問が浮かんだ。今日は平日だ。学校があったはずなんだけど、当然のように我が家へ泊まりに来ているけれど大丈夫なんだろうか。もしかして学校に居づらいとか。そんな素振りは見せていないが、見せるような子でもない。

 しかし心配する私を見て由芽ちゃんは「ふふ」と笑う。「姉さんは心配性ですねぇ」なんておかしそうに頬を緩めながら話し出すから、どうやら私の心配は杞憂だったらしい。


「安心してください、学校には私を敬う信徒しかいませんよ」

「どういう学校生活を送ってるのか心配になってきたよ」


 普通の中学生には信徒なんていない。さすがに本気で言ってはいないのだろうけれど、由芽ちゃんの前に列をなして頭を下げる敬虔な信徒風の同級生たちの姿を想像すると少しビビる。


「だから心配しなくても大丈夫ですよ。友達もいて学校もそれなりに楽しくやっています。それに、学校なんて少し行かなくても問題ありませんよ。私は天才ですから休みたいときに休みます」

「それはだめだよ。学校はちゃんと行かなくちゃ」


 由芽ちゃんの言葉に、思わず反射的に口が出てしまう。


「体調が悪いとか、学校に行くことで心がしんどくなるとか、事情があるのならどんどん休んでいいし、むしろ勧めるし、私に出来ることなら力にもなるけれど。だけど行きたくない理由がないのなら、ちゃんと学校に行ったほうがいいよ」

「むう……姉さんらしからぬ真っ当なことを言う」


 もちろん無理強いをするわけではないけれど、出来ることならきちんと学校には通ったほうがいいと思う。

 別に学校で集団生活が学べるからだとか、協調性を育むために、なんて聞き飽きたつまらない御託を並べたいわけではない。そんなものはいくらでも後から学べる。取るに足らない、ただの詭弁だ。

 だけど、少なくとも学校が楽しいんだと思える場所なら、そこで過ごせる時間は大切にしてほしい。……なんて、そんなことを考えるような人間ではなかったよなあ、とも思うけれど。

 姉さんらしからぬ、と言われたのもわからなくはない。

 確かに少し前の私ならこんなこと言わなかったと思うし。

 たぶん、退屈だと思っていた時間が楽しく思えるようになってきたからこそ、精いっぱい思い出を残してほしいと思えるようになったのかも。今という時間は短くてあっという間だから。

 つまり心春のおかげで私は変わった・・・・・・・・・・・・・、ということかな。出会ってからせいぜい二ヶ月も経っていないのに、なんだかすっかり心春の色に染められている気がする。


「まあまあ、あまり言ってあげないの。単に照れ隠しなのよ」


 と、母さんが間に入ってくる。……照れ隠しって?


「学校は単に創立記念日よ。ちゃんとおばさんにも確認済みよ。それよりも由芽ちゃんね、真宙が最近全然連絡寄こさないからって気になって飛んできたんですって。可愛いわよね。それが恥ずかしいからって適当言って誤魔化してるのよ」

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