9-6 『孤高にして唯一無二』


「皇城さん、ずいぶんとタイミング良く現れるんだね。もしかしてどこかから様子を見てた?」

「まさか、それほど暇じゃないわよ。私もあなたたちと同じように飲み物を買いに来ただけ」


 皇城さんはあらかじめ決めていたのだろう、紙パックの紅茶をよどみなく購入する。どうやら飲み物を買いに来ただけという言葉は事実らしい。

 まあ、タイミング良くとは言ってみたけれど、ほとんど王城さんは言いたいことを言った後だ。ギリギリ間に合っていない。


「ほら、愛奈。今日も仕事は残ってるんだから行くわよ」

「あ、うん……ごめんね美琴ちゃん、余計なことしたかな」

「もう、いいわよ別に。怒ってるわけじゃないわ。愛奈なりに考えがあってのことでしょう。あなたは昔から私の交友関係を心配していたもの」


 悪いことをしたところを見られて怒られているときの子供のようにしゅんとする王城さんに対して、皇城さんはけっして怒りはしなかった。それどころか、むしろどこか嬉しそうにしている。それはきっと、王城さんが本当に皇城さんのことを想ってした行動であることを彼女も理解しているからだ。

 たとえそれが意にそぐわないことであったとしても、自分のために動いてくれる事実のほうこそ大事にしているんだ。王城さんが皇城さんのことを大好きだと言ったように、きっと皇城さんも王城さんのことが大好きなんだろうな。


「そういうことだから、私たちは行くわね」


 軽く告げて、背中を向ける──と、思ったら立ち止まった。

 そのまま皇城さんは振り返る。


「……ああそうだ、高空さん。この子が言ったことは忘れてちょうだい。皇城は──私は、孤高にして唯一無二。仲間・・なんて必要のないものだから」


 はっきりとした拒絶をされ、なんとも言えない気持ちになる。告白をしたわけでもないのに、先んじて振られたような。でもまあ、本人が望まないのならと頷きかけたけれど、皇城さんの言葉を聞いた王城さんの表情が曇るのを見て、頷くことを止める。

 きっと勇気を出して言ってくれたんだ。その勇気を蔑ろにすることは、たとえ本人が望んでいようとも出来はしない。


「そう言われても、一度言われたことを忘れるなんて難しいよ」


 だから、どうしようとか、そういうことは一旦後回しにして減らず口で応対をする。

 それにまあ──うん、そうだな。


「私自身は、皇城さんと友達になりたいと思うよ。反対されたときは腹も立ったけれど、あなたのこと自体は嫌いになれない、好きになれるタイプだと思ってるから」

「……そう、なら好きにしなさい。私の気持ちは変わらないけどね」


 今度こそ皇城さんは背中を向けて立ち去る。

 ……さてと、つい勝手に決めてしまったけど心春たちは頷いてくれるかな。勢いに任せて行動したことを後から考えて見るけれど、「まあ大丈夫か」と結論付けた。

 さて、飲み物を持って帰らないとな。

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