10-1 『そうです、私が天才です』
「真宙、明日からしばらく由芽ちゃんが泊まりに来るわよ」
「明日からってまた急だね……いいけどさっ」
帰ってきて早々の母さんの発言に呆れ半分ながらも少しだけ嬉しくなる。くすりと母さんが笑うから、言葉が跳ねてしまったことを自覚していたこともありやや顔が熱くなるのを覚えた。
由芽ちゃんこと
わかりやすく言えば
とは言っても懐いてくれているのは間違いないし、甘えているだけだということもわかっているから、怒ることもないけれど。むしろ可愛いくらいだ。一人っ子の私にとっては妹のようなものだから、ついつい甘やかしてしまうこともあった。
そうそう、由芽ちゃんは小さい頃からお人形遊びが好きで、小さな頃は着せ替え人形を欲しがったあの子に私は自分の人形を譲ってあげたこともあったっけ。
会うとなると、だいたい三年ぶりだろうか。由芽ちゃんの母親が仕事の都合で転勤となり、この街から出て以来だからそれくらいにはなるはずだ。連絡はたまにアプリで取っているから、まったく疎遠になったというわけでもないけれど、それでもやっぱり久しぶりに対面することは楽しみだ。
大きくなってるかなあ。伸び盛りの時期だ、もしかしたら私の身長も抜かしているかもしれない。
「と、いけない──そろそろ配信の時間だ」
最近、動画配信サービスでとある衣装作成者の配信を見るようにしている。同好会が承認されるにしても、衣装の問題はまだ解決していない。部費を貰えたとしても、貰えなかったとしても費用は抑えないといけないから自作できるようになっておいたほうがいいに決まっている。もちろん簡単ではないことはわかっている。以前に心春と話した通り、今から勉強したところで中途半端なものしか作ることができないだろうってことくらいは。
だけど、何もしないよりはいいかなと考え直している。
やるべきことをやりながらでも勉強することはできる。だから衣装の作り方も勉強し始めている。幸い、家庭科の成績は悪くない。手始めに参考書のとおりにワンピースを作ってみたところ、一応人が着ることが可能なものは作ることができた。……問題は自分のサイズで作ったから、誰が着るんだこれをってことかな。
普段ワンピースなんてものを着ないから、完全に持て余していた。大体何も考えずに真っ白な生地を買ってきてしまったものだから、まるで似合いそうにない。私は夏のお嬢さんなんてガラじゃない。まあ、麦わら帽子に白のワンピースなんて服装は心春なら似合うかもしれないけれど。
ということで少しでも何か役に立てばと思い、検索で一番目に出てきた自作衣装を公開している配信者の配信を見るようにしたのだ──とは言え動画を見ることが勉強になるのか、それはなんとも言えないけれど。少しでも本で読む以外の知識も蓄えることができたらいいな、なんてね。それに必要のない知識なんてない。あればどんなことにだって役立てられるものだ。
『配信の時間となりました。それでは早速今日も作っていきましょう。今日はこちら、アニメ『プラネットサンシャイン』の主人公、アンナちゃんの衣装を完成させちゃいますね』
機械的に加工された声と共に画面から配信が流れ始める。まるでテレビの犯罪者インタビューのように加工された声は何故か奇妙な中毒感を覚えさせる。首より上は映されていないが、身体から察せられる。まだそれなりに幼く、どう見ても私よりいくつも年下だ。
だというのに、よどみなく腕を動かしていきどんどんと衣装を完成へと進めていく。作る上での注意点もわかりやすく説明しているし、しっかりしている。
『そうです、私が天才です。当たり前じゃないですか』
年齢相応に自尊心は高いみたいだけど。凄い、天才、なんてコメントが流れてくるたびに配信者である少女(推定)が同じ返しをしているのは最早お決まりの伝統芸らしく、視聴者も半分くらいはお決まりの反応を期待してコメントを投げているみたいだ。
とは言えまあ、自分で誇るだけはあるのだろう。私はまだまだその道に明るくないから、その技量レベルに対して言及することはできないけれども、それでも凄いということくらいはなんとなくわかる。
このレベルまでとは言わないけど、私も心春が輝ける衣装を用意できるようになれたらなあ、なんてね。
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