9-5 『──そこまでよ』


 羨ましいと思ってるだけだからという王城さんの言葉をすんなりと受け入れられるほど、私は皇城さんについて知らない。

 悪役令嬢のように高慢で無邪気に我儘を言うけれど、誰かのために頑張ろうとしている。そういうところは少しだけ心春みたいだと思った。私が知る皇城さんはそれくらいだ。

 だから知った気になることはできないけれど、それでもあれほど強烈に反対をされて、羨ましいと思ってるだけだと言われてもへえそうなんだとは真に受けることはできない。

 だけど、王城さんが嘘をつく理由はない。悪気が無いと言ったことも、羨ましいと思っているだけと言ったことも、きっと本当のことなんだろう。少なくとも彼女のほうが皇城さんについてはよく知っているのだから。


 そんなことを考えているうちに自販機の前まで着いた。

 元々は心春と咲良の飲み物を買おうと外に出たからと王城さんとは会話をしながらここまで来たのだった。スポーツドリンクとミルクラテを選び、一つずつ購入をする。ついでに自分の分のミネラルウォーターも買っておく。

 ここまでついてきてもらったからと王城さんの分も何か買おうとしたけれど「じ、自分で買うからっ」と固辞されたので、ここは素直に引き下がることにした。どれにしようか自販機とにらめっこして悩む姿は、その幼い容姿も相まって子供のようだ。

 王城さんはしばらく考えたあとに、決意して押したのはミルクセーキだった。缶を開けて空気の抜ける音をさせてから、両手に持って飲む姿がこれまた小動物じみている。


 私も釣られてミネラルウォーターを一口だけ飲んでから、ふと「ああ、そっか」と気付いたことを伝えることにした。


「王城さんは皇城さんのことが大好きなんだね」


 思えばこの二日間、彼女はずっと、皇城さんのことをちゃんと知ってもらおうと話している。自分が好きな友人のことを誤解されたままでいてほしくないんだ。


「う、うん。美琴ちゃんとは幼なじみだから、ちょっと強引で意地っ張りで素直じゃないところもあるけれど、責任感があってとっても優しくて、そして誰よりも頑張り屋さんで大好きだよ!」


 眩しくなるほど素直な言葉だ。王城さんのような可愛くて健気な子にこんなに好かれている皇城さんが羨ましくなる。


「だからその、高空さんも美琴ちゃんと仲良くしてほしいんだ。ううん、高空さんだけじゃなく、アイドル同好会の人たちみんなと美琴ちゃんが仲良くなれたら、いいなって──」


「──そこまでよ、愛奈」


 後ろから突然声をかけられ、王城さんがビクりと反応する。

 話題の本人、皇城さんがそこにはいた。

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