9-4 『羨ましいと思ってるだけだから』


「ご、ごめんなさいでしたっ。高空さんたちがあの部屋に入って行くのが見えたから、何をしてるのか気になって……」

「別に怒ってないから大丈夫だよ」


 ペコペコと何度も頭を下げる姿に、特に悪いことをしたわけでもないけれど良心がとがめる。どんな大罪を犯していたとしてもこの姿を見れば思わず許してしまう、どころか守ってあげなければいけないと思わされるかも、そんな危険性すら感じる。

 王城さんにはとても悪いことなんて出来そうにないけれど。


「えと、高空さんはいつも旧視聴覚室で何をしているの?」

「前までは心春の練習を眺めてたかな。咲良と東雲さんが参加してからは咲良に音楽の勉強を教えてもらったり、あとは東雲さんにおすすめされた小説を読んだりしてるかな」


 二人が参加してからそれほど日は経っていないけれど、充実してきたという感覚はある。

 特に咲良から音楽の基礎を教えてもらえるのは良い経験になっている。教え方が意外と上手だからすんなりと知識として頭に入ってくるし、もしかするとそのうち私が曲を作って心春が歌うこともできるかもしれない……なんてね。

 もちろん目標ではあるけれど、簡単なことじゃない。難しさって教われば教わるほど、余計にわかってくるものだ。

 これからどんどん壁だって出てくるだろうし。

 でも、悲観的になり過ぎはしないように。頑張る理由があるってそれだけでモチベーションになるからね。


 それはともかく、私の言葉を聞いた王城さんの様子がおかしい。「あ、あれ?」と困惑の声を漏らしてそわそわとしてる。どうしたんだろう、何かおかしなこと言ったかな。


「それってつまり、アイドルをしようとしてるのって高空さんじゃないってこと……?」


 言われて、なるほどと頷く。王城さんからすれば私がアイドルを目指していると考えてもおかしくないんだ。同好会の申請用紙を持ち込んだのは私だし、それに皇城さんに対してムキになっている姿を見たら勘違いをしてもおかしくはない。


「私はアイドルになりたいって頑張る人を応援したい側だよ」

「なりたいって、そう思ったりはしないんだ」

「考えたこともなかったけど、うん。ないかな。夢を追いかける人を応援する、そのほうが性に合ってるみたい」


 それも正確かどうかはなんとも言えないけれど。私はただ、心春がキラキラと輝くために力になりたいだけだから。夢を追いかける誰かじゃなくて、夢を追いかける心春を応援したい。それはたぶん、これからも変わることはない。


「あんなに美琴ちゃんに怒ってたのも、その応援したい人──鷺沢さんのためなんだ。……あっ、その、鷺沢さんだと思ったのはさっき練習を見てたって言ってたからで、間違ってたら言って」

「いや、合ってるよ。心春のことを応援してる。それよりもごめんね、応援してくれたのに」


 王城さんがあの時応援してくれたのはアイドル同好会の設立もだけど、たぶん私が皇城さんに対して怒るほどアイドルになりたいと思っていると考えたからだろうし、そんなつもりはなかったけれど、騙すみたいになってしまった。


「う、ううんっ、そんな、私が勝手に勘違いしただけだし、それに今だって応援してるよ。アイドル同好会のこと、美琴ちゃんだって、本当は──その、羨ましいと思ってるだけだから」

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