9-1 『認めないったら認めないわ!』
申請用紙を持ってやってきたけれど、いざ生徒会室前に来てみると、少しだけ緊張する。主張が控えめの標識プレートに印字された『生徒会室』という文字からも圧が放たれている、気がする。
普段寄ることのない場所に踏み入れるというのはそれだけでも意外と二の足を踏んでしまうんだなぁ。なんてことはない、生徒会と言っても結局は同じ学生が集まる場所のはずなんだけど。
生徒会が強力な権限を持っているわけでもない。創作のように凄い能力を持った人たちが集まっているわけでもない。ただ、生徒たちのために働いているというだけだ。つまるところ善人の集まりのはずだから、そう固くなる必要はない。
だからこれは単純に、私が必要以上に緊張をしているというだけだ。申請用紙を持つ手のひらから汗がじんわりと滲んで、湿らせていないか心配になって確認するけれどクリアファイルに包まれていた。
そうだ、折れ曲がったり汚したりしないようにきちんと封筒に包んでからファイリングしていたんだった。
ブラスチックのサラサラとした手触りで思い出しそうなものなのに、そんなにビビっているのかと思いもしなかった自分の意外な繊細さに苦笑いが浮かぶ。
でも、新しく部活動や同好会を立ち上げるなんてことって普通に学生生活を送っているとあまりない機会だ。だから多少の緊張は仕方ないことかもしれない。自己分析をしていると少し落ち着いてくる。どうしてという疑問に対して自分なりでも理由がわかると安心するものだ。
それに、心春と出会わなければきっと高校生活の間にこんな経験をすることはなかった。無気力なまま、なんとなく時間を過ごしてそれなりに無難に高校生らしい生活をしていたんじゃないかな。そう考えると良い経験だと──青春らしい思い出になりそうだとすら思えてきた。
よし、行こう。そう決めて引き戸の取っ手を掴み、引く。教室の傷んだものとは異なり、引っ掛かることなくスムーズに開く。
広がる視界には三人の女生徒が自席に座り作業をしていたが、戸の開く音が聞こえて一斉にこちらへ視線を向ける。その中にはこの間たまたま遭遇した皇城さんもいる。一際目立つ容姿をしているから、すぐに見つけることができた。
書記の腕章をつけており、彼女もまた生徒会役員の一人であることを主張している。
あれ、あともう一人見覚えのある子がいる。あの子は──
「あれ、あなたはこの間の……どうしたのよ、生徒会に用事?」
と、意識を割きかけたところで皇城さんがこちらへ近寄り声を掛けてきたので一旦切り替える。皇城さんなら一度顔見知りとなったから比較的話しやすい人だ。スムーズに話を運ぶのにちょうどいい。
「同好会の設立申請を持ってきたんだ、確認してもらいたくて」
ほらこれ、とクリアファイルを持ち上げる。すると皇城さんはニヤリと楽しげな笑みを浮かべてから「へえ」と頷いた。
「同好会の設立。いいじゃない、あの日書類を見つめるあなたの目は輝いていたもの。何かを成し遂げたい、そういう目だったわ。きっと問題ないものでしょう、もちろん受け取るわ」
「あ、あの、美琴ちゃん。そういうことは会長さんが決めることだよ?」
「あはは、いいのよ愛奈。美琴の女王様気質は今に始まったことじゃないし、それに楽ができるから助かるわ。それに、もちろん受け取ることを断るつもりもないしね」
ともすれば不遜な態度と取られそうだが嫌味を感じさせない皇城さんに対して、控えめに意見をするハムスターのような小柄で愛らしい少女──以前、咲良の動画でもお世話になった王城愛奈さん、そして王城さんの心配に対してはあっけらかんとした態度できっぷの良さそうな生徒会長さんがサラッと流している。
なんというか、バランスよく見えないけれどうまく纏まってはいるんだろうな、と想像させるのが容易な三人だ。
というか、三分の二が知り合いだった。緊張することなかったかもしれない。部活動をしている姿しか知らなかったけれど、王城さんも生徒会役員だったんだ。会計の腕章が表している。朝会でも並んで立っていたんだろうけれど、小動物のように小さくなって目立たないようにしていたのかもしれない。何せそばには皇城さんや生徒会長さんのような目立つ存在がいるんだから。
「──と、身内で話していると申し訳ないわね。ほら、高空さん。その用紙をその子に渡してちょうだいな」
三人のやり取りをぼうっと観察をしている様子を見てだろうか、生徒会長さんが気を利かせてくれた。「皇城さん、よろしく」とクリアファイルから申請用紙を取り出して手渡す。
「確かに受け取ったわ。ええと。なになに、同好会申請、同好会名は学生アイドル同好会──」
用紙の中身を見た途端にピタりと皇城さんが固まる。王城さんがアワアワとし始めて、生徒会長さんは「美琴、どうしたー?」とよくわかっていない様子だ。
とは言え私もどういう反応なのかよくわかっていない。なぜ皇城さんは急に固まったんだ。もしかして「アイドルなんてけしからんわ!」と思っているのだろうか。それでも、あまりきちんと皇城さんのことを知っているわけじゃないけれど、そんなことを言うようなイメージは持っていないけれど。
「……認めないわ。アイドル同好会なんて、認めません。なんと言おうと私の目がある内は、認めないったら認めないわ!」
皇城さんは肩を震わせながら、魂の
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