8-3 『べ、別に優しいとかじゃなくて』
廊下を歩きながら申請用紙の中身を確認する。
申請用紙には部長と部員、そして部活名および活動目的を記載する箇所がある。そっか、部長にしても部活名にしても、まずはみんなに相談しないといけないなぁ。私の一存では決められないし、活動目的について正直に書くべきかは一番の当事者となる心春と絶対に相談しなくちゃいけない。
咲良や東雲さんにこそ話したけれど、まだ他の誰かに明かしたわけじゃないから、心配なことに変わらない。たとえば文化研究会として誤魔化して、心春の準備ができるまで適当に活動内容をボカすことだってしてもいいと思っている。それくらいのでっちあげならそう難しくはない。
焦るような時間じゃない。今はまだ、準備中なんだから──
「ちょっとあなた、廊下では前を見て歩きなさい。危ないわよ」
と、考え事をしていたら前から歩いてくる女子生徒に声を掛けられた。金色に近い明るい髪色だ、よく目立つ。瞳がガラス玉のような透明感のある青色だ。小顔なのに目ばかり大きくてこれもまたよく目立っている。カラーコンタクトだろうか、髪の毛もブリーチして色を抜いているのかもしれない。
どちらも天然だとすればちょっとした奇跡だ。顔つきは日本人、それもとびっきりの美少女だ。童顔だが各パーツが均整の取れた配置をしている。まさにアニメから飛び出してきたような女の子だった。
見覚えはある。クラスは違うけれど同級生のはずだ。それから全校朝会で生徒会長の横に並んでいる何人かの中に混ざっている姿も目立っていたから、たぶん生徒会役員なんだろう。
しかしまあ、心春といい顔がいい子の多い学園だ。
「ごめん、つい気になっちゃって。注意してくれてありがとう。気を付けるよ」
申請用紙を鞄に仕舞ってから軽く頭を下げる。
さっきから色々な形で頭を下げてるな、なんて思いつつ。
「……素直ね。たいていの生徒は嫌そうな顔するものなのに」
注意をしたわりに謝られることをとても意外そうにしていた。
正論は人を苛立たせることもある。彼女もそういう経験が積み重なっていて、少し構えていたんだろうことは雰囲気でも伝わってきた。
まあ、反抗したくなる人の気持ちもわからなくない。それくらい見逃してくれよ、ぶつかったわけでもないのに──まあ大方そんなことを考えるのだろう。
「悪いのは私だからね。素直に聞いたほうがいいことと、反抗してもいいことの違いくらいはわかってるつもりだよ」
ただまあ、正論は正論。正しいのはどちらか、明白だ。
「ふ、ふーん……素直なのはいいことね。何にせよ今後は気を付けることよ、ぶつかってからじゃ遅いんだからね」
「うん、気を付けるよ。優しいんだね、
「べ、別に優しいとかじゃなくてこれは生徒会役員としての仕事だし、民を導くのは皇城としても当然だし、何より私は──って危なっ、余計なこと言いかけたじゃない!? まったくもう、まったくもうっ! 変なことを言わないでちょうだい!」
と、皇城さん──
……なんとなくだけど、キャラの方向性は違うけれど心春みたいな子なのかもしれない。民を導くのは──ってつまり、誰かのために何かをしようとしているってことなんだから。
なんて。なんにでも心春に繋げちゃうな、最近の私。
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