5-6 『一緒に寝ないんですか?』


「ふぁあ……んっ、んんっ、失礼しました」


 心春が小さく控えめな欠伸をしてから恥ずかしそうに俯く。きちんと手のひらで口元を隠しているし、気にすることないのに。これが女子力ということなんだろうか。欠伸する心春も可愛い。

 時計を確認すると既に日付変更線を大きく上回る二時だ。食事やシャワーの時間に加えて、ぶっ通しでアニメを十三話まで観続けたうえその後に感想を話して、楽しい時間はあっという間に過ぎるとはよく言うけれど、時間が吹き飛ばされたようだった。

 さっきからちょくちょく心春はうつらうつらとした様子で頭を揺らしていたから、眠たいんだろうなとは思っていたけれど。今日は不思議と目が覚めているけれど、私だって普段なら既に眠っている時間帯だ。


「心春、眠たそうだね。気が付いたらもうこんな時間になってるし、もうそろそろ寝たほうがいいかな」

「う、今夜は寝ずに遊ぶつもりだったんですけど……確かにこれ以上起きているのは少ししんどいかもです」

「うん、そうしよう。心春は私のベッドを使ってね」


 朝少し早めに起きて学校に行く前に掃除してから消臭スプレーも吹きかけてそれから日干しもしたし、汚れはない。心春が泊まりに来るにあたって、準備は万端にしてある。


「わかりました。では真宙さん、お先に失礼します」


 心春が私のベッドに入る。何故かベッドの奥側に寄っていき、狭そうな位置に身体を置いている。真ん中で広々とするよりも狭いところに身体を置くほうがよく眠れるという人もいるらしいから、心春もそのタイプなのかもしれない。


「私はもう少し起きているつもりだけど、気にせず寝ててね」

「え、一緒に寝ないんですか?」

「うん。ちょっとだけまだやりたいことがあるからさ。大丈夫だよ、一時間もしたら私も寝るから心春は気にしないで」

「むう、なんだか私だけ子供みたいです」


 なんて言いながらむくれる心春は本当に子供みたいだ。あんまりにも可愛くて漏れ出しそうな笑い声を飲み込んで、私は机に向かう。宮園さんの動画について、企画書をどれくらい現実に落とし込んでできるか考えないと。

 タブレットを起動すると、宮園さんから受け取っていた企画書のデータをあらためて読み込むことにした。宮園さんの企画書、結構ファンシーな感じだけどもらった曲データを聴いたところ、ポップスというよりはエレクトロニックダンスミュージックだから曲の雰囲気に合わせるとなると結構構成で弄らないといけないかもしれない。

 なるほど、こういう欠点を自覚していたから私──というよりは自分以外の誰かを頼ろうと思ったのかもしれない。

 というか、動きを出せないと考えるとキャスパーさん一匹で絵が持つかな……あまり映えないかもしれない。目立つ何かを足し算してしまえば相乗的な効果が狙える? いや、そう単純じゃないのかな。わからない。ううん、構成って複雑怪奇……

 そう言えば動画作成について調べたけれど、絵コンテなんてものも書かないといけないんだっけ。こういうふうに動かしたいっていう具体的なイメージとして。単純なお絵描きならまだしも、絵コンテなんてやったことないけど大丈夫かな。


 ……考えても仕方ないか。大丈夫、私はこれまでの人生、大体のことはやってみればなんとかしてきた。今回だって同じだ。どっちにしても今後必要な技術なんだ。ならやるだけ。


 今はそれよりもどんな内容にするか考える方を優先──


「──あの、真宙さんっ」


 考え事に没頭しかけた瞬間、小春の声が静かな部屋に響く。


「お泊まり会と言えば一緒のお布団に入り、色々お話するものではないのでしょうかっ?」


 ………………………。

 心春、たぶんそれアニメのお話だと思うよ。


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