5-5 『もしかしたらこの気持ちが、そういうのかな』
「はっ──す、すみませんつい調子に乗って! 真宙さんにわかってもらえたと思うと嬉しくなっちゃって……!」
「あはは、むしろそれくらい本気で好きなんだって伝わってくるからよかったよ」
目を輝かせて一生懸命に喋る姿も可愛かったし、むしろごちそうさまでした、という感じだ。
それにしても──今でこそ私は心春のことを天性のアイドルだと心から信じているけれど、それはそれとしてどうして心春がアイドルになろうと思ったのかは正直なところ、不思議には思っていた。誰にでも優しくて、なんでもできて、お淑やかで上品で、誰もが認める優等生のお姫様である心春がどんなきっかけでアイドルを目指そうと思ったのか、想像ができていなかった。
きっとどこかで心春の存在にフィルターを掛けていたんだと思う。お姫様のような心春が志す、崇高な理由のようなものを。
だけど実際はなんてことのない──そして何よりも大切な、当たり前のものだった。
『アイドルが大好き』だからなりたい。
野球の試合を見て野球が好きになった。だからプロ野球選手を目指す。ドラマを見て演技する姿に憧れたから役者を目指すように。大好きという気持ちをテレビの向こうから与えられて、自分も夢を叶えたいと望む。それは私のような普通の人間では忘れがちになってしまうような、当たり前の、普通の想いだ。
だけど、だからこそ崇高で素晴らしい理由なんかよりも、ずっと応援したくなるのかもしれない。身近でわかりやすくて、ハッキリとしている。
……もしかしたらこの気持ちがそういうのかな。
「ねえ、心春。尊いって何なのか、ちょっとだけわかったかもしれない」
「あれ、さっきはわからないって言ってませんでした?」
「さっきはね。そうだなぁ、たぶん私には身近なほうがわかりやすい、ってことなのかもしれないね」
「えっと……つまりどうしてなんです?」
「心春が可愛いおかげってことだよ」
「もう、またそうやってすぐに可愛いって言います……真宙さんは可愛いと一言言えばそれだけでいいと思っているみたいですが、私はそれほど甘くありませんよっ」
いよいよ本当に頬を膨らませながらぷいっとそっぽを向く。
本音のつもりだったけど、どうやらいつもの軽口だと思われたらしい。うーん、いつでも本音で言ってるんだけどな。
ムキになってる心春も可愛いなぁ、じゃなくて。
「違うんだって。本当に心春を見ていてわかったってことなんだ。ユメガクを見て掴みかけた感覚を、心春が補填してくれたんだ。だから心春が可愛いおかげってこと」
「むう、わかったような、よくわからないような……だって私がしたことって、ただ大好きを一方的に早口で喋っただけですよ。やっぱりごまかしてませんか?」
「あはは、そんなことないって。私ってそんなに信用ない?」
「い、いえっ、けっしてそういうわけではないですけど!」
「ごめんごめん、冗談だよ」
まあ私が信頼できる人間かと言うと疑問はあるけれど。
心春に信頼される人間にならないと、とは思うけどね。
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