5-4 『大好きだけだといけませんか?』


『動き出したから止まりたくない。走り出したならまっすぐに進み続けたい。──だって私は、アイドルが大好きだから!』


 私の部屋のテレビが映し出しているのは心春が持ってきたアニメだった。高校生のアイドルたちが『大好き』な気持ちを胸に青春のトキメキを描き出す、そんなお話だ。以前アイドルについて調べたときにも学生が部活動のようにアイドルをするアニメがあるという情報を知識としては入れていたけれど、実際に見てみると、確かにこれは面白い。ちょっとハマりそうだ。

 何本かシリーズがあるらしいけれど、今回は心春が特に思い入れの強い作品を持ってきてくれたみたいだから、機会があれば他のシリーズも見てみようかな。


「うう、何度見てもいいシーンです……! 幼馴染とのすれ違いからアイドルを続ける理由を見失った西亜せいあちゃんが、それでも『アイドルが大好きだから』という気持ちを思い出して立ち上がるこのシーン、泣けます……っ!」


 隣で画面に食い入るように見ていた心春は、今はほろりと涙を流している。毎話一喜一憂しながら最後には笑顔になるから、本当にこの作品が好きなんだろうと伝わってくる。

 童女のように瞳を煌めかせて楽しむ心春を見ていると、釣られてこちらまで頬を緩めてしまう。誰かを楽しませるにはまず自分が楽しまなくちゃいけないなんて言葉は標語のように誰もが使うけれど、本当にそのとおりだから誰もが使うんだろう。

 一人で見ていたとしてもきっと好ましく思っていたんだろうけど、隣で心春なりの解釈や感情を付加した情報が加えられることでより物語への理解が深まってさらに楽しめるようになっている。それも心春が楽しそうに、嬉しそうに話すから話をより深く理解できるように聞こうと思うのだし、心春の存在は大きい。


「どうでしたか、真宙さんっ。アイドルの尊さ、わかってきたんじゃないでしょうか!?」


 それにしてもテンションが高い。敬語で喋っていて、あらあらうふふと聖女めいたお姫様な一面もあるけれど……


「心春って、案外はしゃぐタイプだよね」


 弾けるような笑顔も跳ねるような語尾も、まるで幼い少女のように無邪気だ。そんな意外性のある一面もまた可愛い。


「むう、今は私の話ではなくユメガクのお話ですよっ」


 急に自分について触れられたからか、或いはユメガクこと『Dream Live! 夢ノゆめのしま学園アイドル部』とは関係のないことを言われたからか、心春は露骨に不機嫌になる。なんだかぷくりと小さな心春が頬を膨らます姿が浮かんできて、噴き出しそうになった。可愛すぎる。


「ごめんごめん、はしゃいでる小春も可愛いから、ついね」

「そんにゃごまかしにひっかかりません」


 もう少し押せば誤魔化せそうな気がする。


「そ、そんなことよりっ、どうでしたかっ! アイドルの尊さはわかりましたか!? できれば真宙さんにはわかってほしいです、共有したいです、そしてできることなら推し語りしたいです……!」


 心春は勢いのまま捲し立てて強引に起動修正した。まあ別に誤魔化そうと思っていたわけじゃない。ただはしゃぐ心春も可愛いなっていう素直な感想だっただけだし。


「うん。尊い……って言うのはよくわからないけど、みんな可愛いし、それぞれが自分の大好きを持っていて、その大好きにまっすぐに頑張っているから応援したくなって、もうすっごくトキメいちゃったよ。これは心春がのめり込むのもわかる──」


「──ですよねっ! そうなんですよっ! 彼女たちは大好きなことを一生懸命にやっていることでキラキラ輝いて、大好きを伝えてくれるんです。大好きなことをしているから楽しい気持ちが伝搬してきて、みんなが笑顔になれる。私も大好きになっちゃって、同じように大好きを届けたい──こんなに大好きになったから、同じように大好きを届けられるアイドルになりたいって、そう思ったんですっ!

 何かになりたいと願ったときにはよく理由を求められると思うんですけど、この作品はただ『大好きだから』頑張るんです。そこがいいんですよね。誰かを笑顔にしたいとか輝きたいとか、そういうのを全部ひっくるめて大好きの中に詰め込んでいるんですよ。大好きってそういうことじゃないですか!?


 大好きだけだといけませんか──いや、そんなことはないです。大好きだけでいいんです、そこから始まるんです! そういう『大好き』を肯定するお話を全十三話の中にこれでもかと詰め込んでいるのが、もうほんと、尊いんです……っ!!」


「…………………………」


 心春がユメガクを本当に好きなのがよくわかった。

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