5-3 『少しだけ嫉妬しちゃいます』
宮園さんを手伝うことはあの日、すぐに心春にも伝えた。宮園さんが立てた企画に心春は関係がなかったし、心春の役に立ちたいと言った矢先なのに他の人のことばかりになるから正直に言うと黙っていようかとすら思っていたけれど、どちらにしても心春には見破られると思ったから正直に伝えることにした。
察しの良さは心春の凄いところだけど、隠し事ができないというのはデメリットにもなり得る。
記念日にサプライズができない。
まあ、私がわかりやすい人間なのかもしれないけれど。
「今日はごめんね、心春。ハンカチ駄目にしちゃって……」
「止まってからすぐに水洗いをしましたし、大丈夫ですよ。それよりも真宙さんに大きな怪我がなくてよかったです」
私の小さな見栄のせいで余計ハンカチを汚してしまったので猛省しよう。だけどおかげで着ぐるみの動きにくさは確認できた。足回りは想像以上に動かず、気を抜くと掬われる。運動神経というよりも認識能力、想像力のほうが大事かもしれない。
練習すればもっとまともに動けるようになるだろうけれど、今回は期間が短い。宮園さんから提示された期間は二週間後だ。撮影、編集だけでもギリギリだ。なるべく動きが少なくなるように構成しよう。宮園さんの企画書では曲の盛り上がりに合わせて大きな動き──踊ることまで求められていたけれど、実現性という点で考えると難しいことはよくわかった。
いや、そもそもあの体型で踊るのは無理があるって。無理がある部分は弄って、動ける範囲で映像を作る……企画と構成は違うから現実との擦り合わせに頭を働かせないといけない。
「真宙さん、随分と真剣なんですね。今だって考えている様子でした。ふふ、少しだけ宮園さんに嫉妬しちゃいそうです。でも私だけの真宙さんではありませんから仕方ありませんね」
涼やかに笑顔を浮かべながら心春が言う。本当に嫉妬しているのだろうか、その表情からは読み取ることができない。どちらかと言えば少し嬉しそうにすら見える。嬉しそう……いや、自慢気かな。よく見るとどことなくドヤっとしているような。
いや、心春が自慢気になる理由はないから気のせいかな。心春のように人の機微を読み取ることは私には難しい。
「手伝うって言ったからには真剣にやらないと宮園さんに失礼だからね。精一杯できることをやるよ」
「はう、ちょっとキュンとしました。真宙さん、格好いい!」
「あはは、惚れちゃった?」
「そうですね、本気になっちゃいそうです。でも私はアイドルになるんですから、この恋は叶いませんね」
「残念、振られちゃった。今夜は失恋の傷を癒やすためにやけ食いだ」
「ならお菓子をたくさん用意していきますね。元々今夜は寝かせるつもりはありませんでしたから、ちょうどいいです」
なんて冗談を言い合いながら、帰り道を歩いていく。
そう、今日は前から約束をしていたお泊まり会の日だ。
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