4-5 『今からわたしはひとり言をするから』
「ふう、みんな楽しそうでよかった」
みんなが話している中、少しだけ抜け出してお手洗いに向かった。手を洗いながら鏡に向かう自分の顔はゆるんでいる。気の抜けた炭酸のように覇気がない表情なのは生まれつきだけど、これは楽しさから来る弛みなんだろうなと思うと同時に鏡の向こうの自分は嬉しそうに微笑んだ。こいつわかりやすいなあ。
みんなが楽しそうに談笑していてホッとした。友達がいないと言っていた心春に新しい友達ができたこともよかったし、宮園さんも東雲さんもいい子だ。まあ、心春って本来コミュニケーションを取ること自体は苦手じゃないんだよな。むしろ得意なくらいだ。価値観がやや独特というか、小学生で止まってるだけで。
だけど──なんでだろう。
宮園さんは何かを隠している。そんな気がした。
「……なんて、さすがに考えすぎかな」
「何が?」
げっほげっほ。咽せた。漏れたひとり言を誰かに聞かれて、恥ずかしくなる──しかも当の本人にだ。
宮園咲良が隣に立っていた。
「高空、今から私はひとり言をするから気にしないでほしい」
「……うん。わかったよ」
と、返事をするのもおかしいかな。何せこれから宮園さんがするのはひとり言なんだから。どうやら、宮園さんはこのタイミングをずつと狙っていたらしい。私がどこかで一人になるタイミング。その理由は、これからするひとり言にあるんだろう。
宮園さんはヘアピンを鞄から取り出して前髪に留める。相変わらずキャスパーさんだけど、他のものと比べると少し年季が入っているように見える。よく見るとデザインも少し異なっているような気がする。もしかするとデザインのマイナーチェンジが繰り返されているのかもしれない。
「これは昔、子供の頃に青葉がくれたもの。確か大した理由はなかったと思う。たまたま買い物に行ったときに見て、私が好きそうだと思ったらしい。青葉は昔からそんなところばかり聡いから。本当、人のことばかり見ててバカみたい」
言葉とは裏腹な柔らかな微笑みはその本心を表している。東雲さんからのプレゼントギフトが嬉しかったんだろうな。
「……これはつまり私がキャスパーさんを好きになったきっかけのアイテム、原点なわけだけど。青葉の話は余計だった──あの子はいつも私の片隅に勝手に住み着いて、話を横道に逸らすから困る。まったく、そんな話をしたかったわけじゃないのに」
表情ゆるっゆるだよ宮園さん。さては幼馴染を自慢したかっただけなのかという疑惑が出てきたぞ。
「実はキャスパーさんのPR動画を撮ろうと思っている。どこかに優しくてお人好しでキャスパリーグさんが好きな人がいて、撮影に協力してくれると言い出さないかな」
………………………。
この場には優しくてお人好しなのかも怪しくて、ましてキャスパーさんが好きかもわからない人しかいないんだけど。
でもまあ、うん。頼られてることは悪い気がしないかな。
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