4-4 『前向きに検討することを善処する』
「地域密着型でやってる幸せセットなんてあるんだ……」
私たちの手元にはそれぞれ人数分のプラスチック製キャスパーさんが置かれている。尻尾を引っ張ると脚がばたばたと動いて歩くことができるという、今も昔も変わることなく残り続けている古典的なおもちゃだ。この手のセットについてくるおもちゃは大体安っぽい塗りで原型から少しズレた表現が味なんだけど、妙にクオリティが高くて原型をそのままおもちゃ化している。
もしかすると今はこれくらいのクオリティが当然なのかもしれない。だとしたら企業の努力には感心する。
さて、それではなぜキャスパーさんがそれぞれの手元にあるかと言えば宮園さんが注文したのは子供向けのセット商品、幸せセットだった。
どうにも宮園さんは本気で私がキャスパーさんを気に入ったと思っているらしい。これでいっそ凄く微妙で気に入る要素がないというならハッキリ言えるんだけど、確かに可愛いとは思っているから否定もしづらく、なんかもういっそ沼に沈んだほうが得なんじゃないかとすら思えてきた。
実は私、押しに弱いのかもしれない。推しに弱いし。
「咲良ちゃん、青葉は白身フライバーガーがよかったんだけど」
「青葉、そういうのは自分で払ってから言うもの」
「青葉が一緒に並んでたら自分の分は払ってたよ! というか、そもそも自分で払うって選択肢を用意してくれなかったよね!? なんなら咲良ちゃん、最初からこれが目的だったよね!?」
「なんのことかわからない」
別にいいけどねー、と渋々東雲さんは引き下がる。何だかんだと言いつつも慣れた様子だ。遠慮のない二人の距離感が見えるようで、なんとなくほっこりとする。
「青葉はともかく、鷺沢はそれでよかった?」
「私は大丈夫ですよ。セット自体がプレーンな内容なのと、特にこれが食べたいってものもありませんでしたから」
「そう、よかった。鷺沢にはさすがに申し訳ないと思ったから」
「ふふっ、私にも大好きだから止められないって気持ちは少しわかりますから。だけど次からはきちんと許可を取ったほうがいいですよ。もちろん、青葉ちゃんにも」
「うう、心春ちゃん優しい……! 天使天才鷺沢心春だよぅ」
東雲さんが心春に抱きつくので、よしよしと心春は東雲さんの頭を撫でる。子供のように小柄な東雲さんだから、姉妹のようにも見えて羨ましい、もとい微笑ましい絵面だ。
「……青葉に関しては前向きに検討することを善処する」
「それは一切やる気のない政治家の台詞だよね!」
「青葉ちゃん、それではやる気のある政治家さんがいるみたいな言い方になってしまうのでよくありませんよ?」
「いや心春ちゃんのほうがよっぽどよくないこと言ってないかな!? いるよっ! きっとやる気のある政治家だって!」
ところでこの二人、私と宮園さんが並んでる間に呼び方が変わってるんだけど何があったんだ。だめだまた脳が壊れそう。
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