4-3 『は? 脳壊れそう』


「鷺沢と青葉の分も買っておくから先に席を取っておいて。それから高空は運ぶのに付き合ってもらうから残って」

「え゛、咲良ちゃん、それは青葉によく知らない人とふたりきりになれと言ってるのと同義だけど!?」

「大丈夫だよ、東雲さん。心春はいい子だから。ね、心春」

「いい子と言われるのは少し子供っぽくて気恥ずかしいですが、そうですね。悪いことはしませんよ。ふふっ、よろしくお願いしますね、東雲さん」

「うううっ、風の噂には聞いていたけれど本当に本の中から飛び出してきたみたいな美少女で緊張するよぅ……」

「東雲さんも可愛いですけどね。東雲さんの言葉を借りるなら、アニメの中から飛び出してきたみたいな愛らしさですっ。あの、失礼ですけど少し抱きしめてもいいですか?」

「は? 脳壊れそう」

「え、この人なんか距離の詰め方凄くない!?」

「青葉、うるさい。騒がしくしてると迷惑だから早く行って」

「咲良ちゃんはもう少し青葉のことを助けてくれないかなぁ!」

「脳壊れそう」

「あとさっきから高空さんが脳壊れかけてるのもすっごく気になるからやっぱり私が残ったほうがいいんじゃない!?」


 なんていう一悶着があったけど、結局宮園さんは東雲さんの陳情にまったく折れることはなく私と二人で商品を注文する列に並ぶことになった。

 お互いに無言のまま、順番が来るのを漫然と待っていると気まずいというわけではないけれど、なんとなく落ち着かない。放課後ということもあって、私たちと同じように寄り道してきている学生の数が多く、順番が来るまでしばらく掛かりそうだ。

 きっと何か話すことがあるから私とふたりきりになろうとしたんだと思ったんだけれど、宮園さんから特に喋りだす気配はない。それどころかヘッドホンを装着してしまい、自分の世界に入っている。……掴みどころがないというか、マイペースな子だ。

 見た目から中身まで、本当に猫みたいだな。


 それにしても、フライヤーから聴こえるフライドポテトの揚げる音や独特の匂いが空腹を誘う。家に帰ると晩ごはんもあるからあまり食べるのはよくないけれど、注文量を少し増やしてしまおうかなんて考えてしまうな。体重管理で後から泣きを見るのはわかっているんだけど、その場にいると我慢が効きにくい。

 本当はハンバーガーひとつにしようと思ってたけど、もうひとつくらいなら追加しても大丈夫かな。悩む。どうしよう。

 いやでも、そう言えば今日は自腹じゃなかった。

 宮園さんに悪い……ただでさえ奢ってもらうなんてこと自体に罪悪感があるというのに、さらに追加でなんて。遠慮は過ぎれば駄目だけど、そもそも遠慮しないというのは美徳にならない。デリカシーがないだけだ。


「高空」


 なんて思考を明後日に飛ばしていると、いつの間にか宮園さんはヘッドホンを外していて、私のことをじっと見ていた。


「そろそろ順番が来るから先に言っておく。高空たちの注文内容は、悪いけどわたしが注文は決めさせてもらう」

「え、ああ、うん。それは別にいいけど。お金を出してくれるのは宮園さんだから。私が何か言える立場でもないよ」

「ありがとう。それと安心して。高空には損をさせない──キャスパーさんが好きなら大丈夫」

「へ、へえ……そっか」


 私、キャスパーさんが好きなことは確定しているんだ……。

 それにしてもなんだろう。随分と自信たっぷりだけど。

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