4-2 『締め切りとクオリティを守る大切さ』

 

 私と心春、それから宮園さん、東雲さんで放課後の寄り道をすることになったのは宮園さんからの提案だった。


『お礼、言葉だけじゃ足りないでしょ。ハンバーガーでも奢るから放課後付き合って。返事はいい、有無は言わさないから』


 びっくりするくらい押しが強くて反論する間もなく宮園さんは自分の教室に戻っていったし、放課後になると教室までわざわざ迎えに来てくれた。どうやらキャスパーさんを気に入った(と誤解している)ことが大層お気に召したようだった。

 キャスパーさん、わりと可愛いから普通に人気ありそうだけどこれまで聞いた覚えはないから知る人ぞ知るってゆるキャラだったのかもしれない。少しだけキャスパーさんについて検索をかけてみると隣町のマスコット的存在らしいけれど、どうやら競争が激しい世界でひっそりと埋もれてしまっているようだった。

 ゆるキャラランキングには一度だけ入ったことがあるけれど、それ以降はランク外が定位置のようだった。ローカル過ぎてなかなか話す仲間ができなかったところに私が興味を持ったと思った、ということなんだろうけど。


「(可愛いとは思うけど……期待に応えられるかな)」


 恐らくお礼と言う名の布教が待っていると思うと、期待に応えられる反応ができるのか考えて少し気が重たくなる。


「それにしても心春までついてくるなんてね。びっくりしたよ」


 今から考えていても仕方ないと切り替えて心春に話しかける。

 正直、心春がついてくるとは思っていなかった。だって確かに心春はあの場には居たけれど、宮園さんは心春を誘ったわけじゃない。あくまでも誘ったのは私だけだった。

 だから誘われてもないのについていくなんて、心春の考え方なら『なんだこいつって思われそう』ってなりそうなものだけど。


「放課後の寄り道なんてとてもお友達っぽいですし、インターネットでもよく見ました。……そ、それに、その、少し恥ずかしいんですが、放課後に一人でいることが寂しいんです。その、最近は真宙さんと一緒にいるのが当たり前になっていましたから」

「あははっ、なにそれ。もう心春って本当に可愛い!」

「もう、真宙さんは本当にすぐ可愛いって言うんですから」

「だって心春は本当に可愛いんだもん。仕方ないよね」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「………………あの、咲良ちゃん。青葉たちはいつまであの二人のイチャイチャを聞いてたらいいのかな?」

「青葉は周りを気にしすぎ。雑音全部拾ってたらしんどいよ」

「とか言ってヘッドホン着けてる人が何言ってるのっ!」

「これは必要なことだから。来週上げるつもりだからちゃんと確認しないといけないし、時間は貴重」

「むー、それはわかるけど。締め切りとクオリティを守る大切さは青葉も重々理解しているけど、それはそれとしてずるいっ」

「……仕方ない。イヤホンもあるから、片耳でよかったら青葉も聴いて。現段階での青葉の感想も聴きたいし」

「この際片耳でも十分っ。聴かせて聴かせて!」




 結局、目当てのお店に着くまでお互いにそれぞれ知り合い同士でペアとなったままだった。

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