4-1 『つまりあなたも気に入ったということ?』
「高空さん、二組の
クラスメイトからそんな声を掛けられたのは、昼休みも中頃に差し掛かって陽気な日差しに負けかけていたところだった。ヨダレなんて流してない。心春が自席から苦笑いを浮かべながら口元を指差しているけれど、それはたぶん昼ご飯に食べた米粒がついていたとか、そういうことだ。
まあ心春の指摘を無碍にするのも心苦しいし軽くハンカチで口元を拭ってから立ち上がり、教室の入口に視線を向ける。特徴的なフードパーカーを着た小柄な女の子が立っている。黒猫のぬいぐるみの子だ。あのときの女の子──確かあのあと
律儀というかなんというか。
「おまたせ、宮園さん。東雲さんから聞いてきた?」
「そう、青葉から聞いた。高空、あなたがわたしのぬいぐるみを拾って届けてくれたって。ならお礼を言いに来るのは当然でしょ」
「そっか。宮園さんってとってもいい人なんだね」
「違う、別にいい人なんて思われたいわけじゃない。わたしがスッキリしないってだけだから、勘違いしないで」
つまらなさそうに髪の毛をくるくると弄りながら視線を逸らされる。照れ隠しなのか、本当につまらないおべんちゃらと思われたのか。どちらもかもしれない。気持ちが混ぜ混ぜになってしまって難しくなったからあらためて判断しているんだろう。
ざっくばらんと言ってしまえば私が敵なのか、そうではないか。なかなか人に懐かない猫のように。ふふっ、心春ほどじゃないけど私もプロファイリングが出来ているんじゃないかな。
……まあ、あまり話したことない人から唐突に君はいい人なんだね、なんて言われたらそれなりに警戒心のある人間なら警戒するかもしれないけど。プロファイリング以前の問題だ。
そういえば心春にも軽薄な人だと思われてしまうと言われたばかりだったな。どうやら私は自分で思う以上に軽薄な物言いをしてしまう人間らしい。だいたい本音なんだけどな。
宮園さんは思考の海を泳いだままなかなか視線をこちらに戻してくれないのでじっくり観察してみることにした。
この間は気づかなかったけど、首元にも黒猫のチャームがついたチョーカーを巻いているんだ。爪は凄く深く切ってある。少し神経質なくらいだ。短めの丈のスカートから覗くガーターベルトが幼い見た目と反対にちょっとセクシィ。脚が細いから黒のニーソックスが良く似合ってる。というか脚に限らず全体的に線が細い。プリッツか。女子としてその細さは羨ましくなる。
うーむ、トキメいちゃう。やっぱり可愛い。愛でたくなる。
「あの、見すぎですよ、真宙さん。そんなにジロジロと人を見つめたら失礼です」
「あ、うん。そうだね」
いつの間にか隣に来ていた心春に窘められる。確かに人のことをジロジロと品定めするように見るのはよくなかったかな。
「ごめんね、宮園さん。可愛くてつい見ちゃった」
「……別に気にしてない。それよりも──高空、それはつまりあなたも気に入ったということ? このキャスパリーグのキャスパーさんのこと」
と、宮園さんは黒猫のぬいぐるみを示しながら聞いてきた。
…………キャスパリーグのキャスパーさんって言うのか、あの黒猫。
随分とイカつい名前してるんだなぁ。
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