3-5 『まいったねこりゃ』
『こほん、そういう話ではなくてですね。この間お話されていた件で少しお話がしたくて電話をさせていただいたんです』
話を逸らしたつもりはなかったけれど、心春からの用事は何も聞けていなかった。この間話した件というとなんだろう。さてはお泊まり会のことかな。楽しみで仕方なくて電話をかけてきたということだろうか、心春はやっぱり可愛いな。
『その、真宙さんは私に協力してくれると言ってくれていますが私は真宙さんが応援してくれるだけで十分嬉しいですよ』
どうやら違ったらしい。想像していたものよりもずっと真面目なトーンの口調だ。
「なるほど。つまり私の協力は必要ないってことだ?」
『ああいえっ、違いますそういうことを言いたかったんじゃなくてっ。ただ、その、真宙さんには一人で無理をしてほしくないと思っただけです。本当ですっ』
私の茶化した言葉に対して心春は慌てた様子だ。電話の向こうでわたわたと手を動かしているんだろうなと想像すると微笑ましい。
……まあ、正直なこと言うと結構ドキッとしたし、茶化したように言ってみたものの言葉の半分くらいは本音だった。だって心春の役に立ちたいなんてことは私が勝手に言い出したことだし、心春にとって不要だと思われても仕方ないことだ。
だから、心春の慌てた様子にホッとしたところもある。それから意地の悪いことを言ってしまったかもしれないと少し後悔。心春を困らせて、そんなつもりはなかったと言わせたかっただけ。そんなことはない、つもりだけど。どこかで思っていなかったかと言えば言い切ることはできなくて自己嫌悪に陥りそうだ。
──なんて、そんな様子を見せたら余計心春を不安がらせるだけだ。うん、大丈夫。切り替えていこう。
『真宙さんが私のために調べてくれたことはとても嬉しいです。でも私は、真宙さん一人に背負わせたくありません。衣装を作るのも、作曲するのも、頑張るときは一緒に頑張りたいんです。それをあなたに伝えたかったんです』
この子本当にいい子だな。それから、案外思いつきで行動するタイプ。だってそんなこと明日にでも言えばいいのに、きっと考えて結論が出たからすぐに電話してきたんだろうから。
「あはは、そんなに一人で無理しそうに見えた?」
言っちゃなんだけど私の振る舞いは結構無気力だ。授業中は前を見ているよりも頬杖をついてそっぽ向いていることのほうが多いし、活力の薄い表情をしている自覚はある。
『言ったその日のうちに学生がアイドル活動するのに必要なことのおおよそを調べるなんて、そんなの絶対に睡眠時間を削ってますよね。それで思ったんです。この人はきっと、やると決めたら一人でどこまでもやってしまう人なんでしょう、と。だから先んじて釘を差しておくことにしました』
「…………………う、うん。そっか」
相変わらずのプロファイリング能力でまいったねこりゃ。
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