4-6 『私の曲で世界を変える』
「あー、えっと。そうだ、私が手伝うよ。お人好しでも優しいとも思わないけど、手伝ってほしそうな人が目の前にいるのに協力しないなんて、そんなの目覚めが悪いからね」
「なんと。たまたま聞いていただけなのに高空はいい人」
素直に頼むのが恥ずかしかったんだろうけど、少し無理がある気がするその言い方に笑いそうになる。まあ、気持ちとしてはわからなくはないけれど。正面からお願いするには関係性もまだ構築できていない。関係性ができていないからこそ正面から頼むべきではという反論も浮かびはするけれど、人を頼ることが苦手な人間というのは得てして変化球を投げてしまうものなのだ。
私もまあ、人を頼りにするのはさほど得意じゃない。だいたいのことは自分でどうにかしようとしてしまい、頼る言葉を飲み込んでしまう。幸いなことに自分だけではどうにもできない、なんて大きな壁がなかったから、結局人に頼ることは今でも苦手だ。
だから、変化球だろうと誰かを頼ろうと実行できる宮園さんが凄いと思うくらいだ。
それにしてもキャスパーさんのPR動画製作の手伝いか。映像製作のノウハウは今後、心春の役に立ちたい私には必要な技術になってくる。むしろ願ったり叶ったりと言ったところだ。
とは言え具体的に何をどう手伝うんだろう。力仕事だと自信はない。さすがに宮園さんよりは力あると思うけど……
「高空には私の企画をベースにした動画内容の構成、撮影、編集をお願いしたい。……あとキャスパーさんの中の人も」
「待って、仕事多くない? あと最後のやつ」
「私は曲を作ること以外できない。それに、青葉も似たようなもの。だから人を探した。これでも結構頑張ったほう。企画書を作ったのは初めてだったから、難しかった……」
う、ううん……そう言われると困る。企画書を作るってだけでもとても大変だというのは事実だろうから反論がしづらい。そんなもの簡単にできるだろうなんて、口が裂けても言えやしない。
自分の頭の中にしかない言葉を文書として纏めることの難しさはどんな人間だって一度は経験していることだろう。他人が作ったものに対して自分の意見を述べるだけの読書感想文ですら難しいんだ。人に見られるものに対するアイデアを企画書という形にすることが大変だったというのは想像に難くない。
とは言え、正直なところ荷が重たいのが本音だ。特に構成なんて、宮園さんの満足が行くように作り上げられる自信がない。それに撮影にしても編集にしても私は素人だ。いずれは必要だとは思っても、一人で一からとなると尻込みしてしまう。
「……やっぱり忘れて。ごめんなさい、高空。焦ってめちゃくちゃなことを言った。気にしないでほしい」
私が怖じ気付くのに気がついたのか、宮園さんが言う。
申し訳なさそうに俯く宮園さんの姿に、私は自分の性分が存外捨てたものじゃないと思った。
「なんとかするよ。大丈夫、宮園さんのことを手伝わせて」
もしかすると私は宮園さんが言うように本当に優しくてお人好しなのかもしれない。落ち込む姿をほっとけないなんて。
だけどまあ、さっきも思ったことじゃないか、小春の役に立つためには必要な知識だ。若干のスパルタ感はあるけど、これくらいでちょうどいい。これくらい
……なんて、これだと自分のため過ぎてお人好しでも優しくもないな。いいか、そのほうが気楽だ。お人好し、優しいなんて言葉を当てはめるのは自分で思うだけでも気恥ずかしい。
というか、ちょっと宮園さんが気になることを言っていた。それも、結構重要な──最近必要だと思っていたことを。
「あの、宮園さんってもしかして作曲できるの?」
「うん。そもそも動画を作ろうと思ったのはキャスパーさんのための曲ができたからだし──私は、私の曲で世界を変えるつもり。キャスパーさんがゆるキャラランキング一位になる世界」
これは、チャンスが来たと見るべきだ。
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