3-3 『なんて想像通りの反応するんだろう』


「す、ストーカーなんて疑ってごめんなさいでした……!」

「あはは……気にしないで」


 女の子は頭を九十度直角になるほど……いやそれどころか本の重みに釣られて前屈みたいになるほどに下げて謝られた。

 簡単に事情を説明したら驚くほど素直に謝ってきたから、自分が少し妄想逞しいことを自覚しているのかもしれない。しゅんと萎れる姿は庇護意識を生まれさせる。その小柄な容姿も相俟って肉食動物に睨まれた小動物のようだった。

 ……となると私は肉食動物なのか。

 がおー、なんてね。


「そういえば、これを見て誰のものかすぐにわかったみたいだけど、どうして?」


 黒猫のぬいぐるみを見せる。私は詳しくないけれど、きっと何かしらメーカーの作ったものだろう。そうなると見ただけで特定の誰かのものとわかることはないと思うけど。


「ええっと、それはハンドメイド……手作りなんです。あ、ハンドメイドって言っても咲良ちゃんが自分で作ったわけじゃなくてSNSで有名な人に依頼をしたものでして」

「なるほどね。つまり世界に一つしかないものってことだ」

「ですです」


 コクコクと女の子は首を縦に降る。世界で一つしかないならすぐわかるし、何故かそれを他人が持っていれば慌ててもおかしくないか。

 それでもストーカーは少し妄想が過ぎる気もするけれど……


「その、本当にごめんなさい。咲良ちゃんは大切なお友だちだからつい居ても立っても居られなくなって……!」

「あはは、いいよ。さっきも言ったけれど気にしてないから。むしろ友達のためにそこまで本気になれるなんて凄いよ」


 はたしてどれほどいるだろうか、友達のストーカーだと思った相手に対して面と向かって叫ぶことのできる女の子が。

 そこまで想われるなんて、あの子が羨ましいくらいだ。

 ……ってそうだった、あの子の話だ。咲良ちゃんというらしい女の子にこのぬいぐるみを返さないといけなかった。


「ねえ、これ咲良って子に渡しておいてくれるかな」

「それはもちろん。あ、でもそうするとおねえさんのお名前とクラスを教えて欲しいです。咲良ちゃん、義理堅いところがあるからきっとお礼を言いたいと言い出すと思うんです」

「ああ、うん。それは構わないけど……」


 おねえさん、か。うん、ずっと敬語を使っている時点でなんとなくそう思われているんじゃないかなーとは思ったけど。完全に先輩と思われていたっぽいな。敬語女子なんて珍しい子が同じ学年に、私の周りだけで何人もいるはずもないか。

 事実を伝えるといよいよこの子は地面とおでこをつけそうだなあ、と思い頬を掻く。きっと私の顔は苦笑いが浮かんでいる。私の反応に女の子は不思議そうに首を傾げる。小動物めいたその仕草がよく似合っている。

 ……まあ、ずっと黙っているわけにもいかないし。沈黙が場を埋め尽くす前に私は観念して喋りだすことにした。


「一年三組、高空真宙だよ」

「はい、一年三組の高空さんですね──ってあれ同い年!?」


 なんて想像通りの反応をするんだろう。


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