3-2 『あなたストーカーさんですか!?』


「うーん、ちょっと考え方甘かったかな」


 ボールチェーンに繋がれた黒猫を人差し指にぶら下げながら私は自分の見通しの甘さにため息をつく。

 昨日は学校で探せば見つかるだろうと思って軽い気持ちでいたけれど、こうやって探してみると学校って意外と広い。ましてや学年がわからないとなると、休憩時間を利用して探すのには限界がある気がしてきた。


「目立ちそうな子だからすぐ見つかると思ったんだけどなぁ」


 首に掛けた大きなヘッドホンに猫耳フードがついたパーカーを着た子なんて、どう考えたって目立たないはずがない。

 いや、さすがにヘッドホンは通学路以外だと鞄の中だろうけど。でもパーカーはたぶん着たままのはずだ。パーカーを着ること自体は校則的に禁止されているわけではないし。

 聞き込みをするまでもなくすぐに見つかるだろうと思っていたけれど、そんなことはなかった。昼休みの時間は限られている。それほど長くもないからここからは聞き込みしながら探すことにしよう。

 ちょうど目の前にいる子にでも聞いてみようかな。後ろ姿だけどなんとなく話しかけやすそうな雰囲気だ。コワモテとか、そういう感じはしない。昨日の子とそう変わらない背丈だけど、背筋は丸まっていてより小さく見える。図書室で借りてきたのだろうか、図書室印のトートバッグを持っている。厚めの本を複数借りる生徒にサービスで提供されているものだ。

 本が好きなんだろうけど、その重さのせいで少しふらついていて心配になる。左右にわたわた振り回されているんだもん。

 ……話を聞くついでに運ぶのを手伝おうかな、危なっかしくて見てられない。


「ねえ、大丈夫? もしよかったらその本運ぶの手伝うけど」

「あ、ありがとうございまうわ知らない人だ……えっとその、大丈夫、大丈夫ですよ。これくらいの重さ、慣れてるの……でっ」


 喋りながら既にいっぱいいっぱいだ。全然大丈夫そうに見えない。 

 しかし前髪が長いなこの子。視界が狭そうだ。余計に危なっかしい。


「大丈夫、こっちも聞きたいことあって話しかけてるからさ。全然気を遣わなくていいよ」

「なるほどわかりました、どなたか知りませんが私で良ければ聞きたいことの返事はします。でも大丈夫です、大丈夫ですから」


 絶対に知らない人に借りを作りたくないという強い意志を感じる……パッと見ると内気そうに見えるけど、案外我が強いのかもしれない。


「仕方ないな……」


 まったく大丈夫には見えないけどここで立ち止まっていると余計に負担がかかりそうだ。さっさとこの黒猫の持ち主を知っているかだけ尋ねて立ち去ったほうがいいだろうな。


「ねえ、これの持ち主に心当たりない? 猫耳のついたフードパーカーを着た女の子なんだけど──」

「それは咲良ちゃんのですっ! はっ、それを持っているということはつまり、あなた咲良ちゃんのストーカーさんですか!?」


 あはは、随分と妄想が逞しい。


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