1-3 『それならさ、まず私と友達になろうよ』
鷺沢小春は孤高というわけではない。人当たりはいいし、誰にも分け隔てなく笑顔を振りまける。八方美人と言えば聞こえは少し悪いかもしれないけれど、よく言えば誰にでも優しく親しげにしている。
だけど、私は彼女が特定の誰かと一緒にいるところを見たことがない。いつだって何人かに囲まれていてその中で抽象的な笑顔を浮かべているだけだ。
だから鷺沢さんの言葉はわりとすんなり入ってきた。お姫様はあくまでもお姫様──そういうわけだ。
「……すみません、誤解を招いたかもしれません。クラスの皆さんとは親しくさせていただいています。友達はいない、と言い切るのは申し訳ないくらいに皆さんいい人たちです」
「だけど友達ではないんだ」
「……ええ、一緒に遊びに行ったこともありません。どうも誰も遊びに行こうと誘ってくれたことがなくて。距離を置かれているような気がするんですよね」
「あー……うん。そうなんだ」
お姫様の友達観はわかりやすい。一緒に遊びに行くことがあればお友達、小学生みたいな考え方で可愛らしい。
だがしかし、クラスのお姫様である鷺沢さんに近づくのは男女とも少し憚れるのだ。高嶺の花である彼女には男女ともに迂闊に近づけない。クラスでの当たり障りない会話であればまだしも遊びに誘うとなると途端に難易度が跳ね上がる。
だいたい同級生にも敬語を使う女子なんて絶滅危惧種だ。それだけでも「え、この人お嬢様か何か?」となって一歩引いてしまうのは仕方ないところがある。
「だからって自分から誘うのって難しくないですか? いきなりなにこの人怖い、みたいになりそうですし」
「ええ、そうかなあ……?」
「なるんです。知ってますよ、インターネットで見ましたから」
ましてや本人がこの考え方だと、そりゃ友達できないか。
……だけど、お姫様の残念なところや可愛いところを見られてむしろ私としては凄く親近感が湧いてきている。
だから私は決めた。
「……それならさ、まず私とお友達になろうよ」
鷺沢さんと友達になろう。
「本当ですかっ? 本当の本当ですねっ?」
鷺沢さんは私の言葉に嬉しそうにもの凄く食いついてきた。
ああもう、本当に可愛いな。やっぱりこの人は天性のアイドルだ。
私の心に春をお届けしてくれたのかもね、なんて。
「本当だよ、鷺沢さん……じゃ他人行儀か。なら、心春」
「こ、こはる……名前呼びですっ、名前呼びですっ!」
「あ、もしかして嫌だったかな?」
「いいえむしろ理想的です! 秘密を知っている唯一無二のお友達。インターネットで見ました、素敵な関係です……!」
「あははは、なにそれ」
案外何かに影響されやすい子なのかもしれない。もしかしたらアイドルを目指そうと思ったのも同じように何かから影響を受けたのかもしれない。
「それじゃああらためて自己紹介しよっか、クラスメイトだしお互い面識はあるだろうけど。こういうのって必要じゃない?」
「ええ、必要だと思います。素晴らしいです。あ、私は鷺沢心春です」
「あはは、なにそのタイミング。私は
「はい、よろしくお願いします。真宙さんっ」
──こうして、私と心春は友達になることになった。
ここから、私と心春の物語が始まっていく……のかもしれないね。
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