第22話 男の話、女の話①

 針葉樹の植木と生垣、飛び石に、赤と白の観賞魚を放した池。

 ノーカを連れたバンは、大昔の庭園を模したその片隅で立ち止まった。

 家の中から聞き耳を立てようと、誰も聞こえないであろう距離を確認して、懐から取り出したタバコを口に咥えて、指先から光線で火を点けた。

 一服、ゆっくり十秒、紫煙を吹き出し銘柄のクセを堪能してから、面倒臭げにノーカに振り返り、

「オメーよ、本気か?」

「何がだ」

「本気でアイツに惚れたってのか? ……嘘にしか見えねえな?」

「……そうか?」

「おいおい、せめてもうちょい否定しろよ。そんなだから曲がりなりにも自分の女に気を利かせる事も出来ねえんだよ。嘘だってお世辞だってだなぁ夫婦の間には必要なんだぜ?」

「――そうか?」

 本当に隠す気も嘘を吐く気も無さげなそれに、笑っていいのか怒っていいのかバンは苛立ちをケツから吐き出した。悪気はなく単に馬鹿正直であるという、だがしかし、それなりに信頼を得ているそれを理解し、

「――そうだよ、嘘だって分かってたっていいの。女はそんなことわかった上で愛想笑いだって本気で嬉しいって言ってくれるんだよ。真面目過ぎんだよおまえ」

「……そんなものか?」

 銀色のモヒカン頭は更に非常に煙草交じりの親父臭い息を大きくはぁあああ、と吐き出した。そしてまた思い切り煙草をぷわぁ~と吹かす。

 半ば侮辱されている、しかし彼なりのアドバイスであることも分かるもので。ノーカも目の前の人物は迂闊ではあるが口が軽いわけではない男と理解し、必要以上に誤魔化すことはしなかった。 

 並んで連れションでもするよう、もう顔も合わせず前を向いているそれをノーカは無表情に見つめる。彼ら親子がここに引っ越したのはノーカより僅かに後だ。そしてそれ以来師を通しての付き合いである。バンはその品性と素行と言動はともかく、人間としては信頼出来る者だと思っていた。

 友人、とまではいかないが、親しい隣人、と唯一認識する男だった。

「そんなもんなんだよ。じゃあなんだと思ってたんだよ、女心はあれか? ちょっとでも触ったら傷付くとか、力を込めたら壊れそうとかか? そんなやわじゃねえぞ? もっと図太くて意地汚くて――うちの娘だってそうだろうが。お前に振られただなんだかんだ言ったって図太くお前の所に行ってるだろうが」

自分の娘になんて評価をするんだと、ノーカは素直に、

「……それはどうなんだ?」

 だがバンはケラケラあっけらかんと笑みを浮かべ、

「さあな。実際のところなんて俺は知らねえよ、男だからな。……で? おまえどんなつもりでアレを背負い込んだんだよ」

「……ただの成り行きだ」

 言った瞬間、表情を変えないまま殴る準備に拳を軽く握り込んだバンに、気付いているが全く顔色を変えず、前を向いたまま、

「だが、見捨てたり、手を離していいとは思っていない」

 嘘を吐いているわけではない――偽らざる本音を感じたバンは、静かに人懐っこげな笑みを浮かべ、

「……それで? 責任は取る・・・・・つもりかよ?」

 もうやったのか、いずれやるつもりかと揶揄のそれに、

「責任は取るものではなく持つものだ」

「チッ。……あ~あ、ホンっとにつまんねえなおめえは」

 しかし下品に笑いながら、バンは笑み以外何も云わず、ズボンのポケットから吸い終わっていないにも関わらず一本煙草を取り出し無言でそれをノーカに勧めるが、ノーカはそれに眉間をピクリと動かし微かに顰めるだけで、

「……よくそんな不味いものを口に入れられるな」

「ケッ、」

 後足で砂を掛ける態度に、また、まごうことなき本音に、バンは満足げに煙草を吹かす。

 それで話は終わりなのか、それ以上アンジェについて何も訊ねないバンに――吸うなら外で、という他家のルールに、ノーカはしばらく付き合うことにした。





二階の私室、夫婦の寝室とは別に誂えたセツコの部屋、家財を入れたら床は六畳も無いだろう個人の空間。

 そこでセツコは小さな座卓から、今淹れたばかりの紅茶、ティーカップを手に取り一口、喉に通した。

 その繊細かつ豊潤な香気に、ふと息を抜き、肩の力を抜く手本を率先するようアンジェに見せ、

「――まったく、いい歳した男二人で何を話しているんだかね?」

 余所の男――ノーカがいない上、旦那も居ない、女だけの空間であることを念頭に、半音上がった気取った声を止めやや地声に近づいた女の声で話し掛ける。

 母のそれを既に知っているレナはまったく意に介さず、むしろ行儀を崩しだるげに股を開いて足裏を合わせ、

「絶対エロいこと話してるに決まってる」

「こら、お父さんあれで純情なんだからね?」

 レナは無視して甘いお菓子をバリボリ喰らう。味わいもしない、色気も慎みもないそれを母は一度目で窘めるもやはりそれ以上のことはしない。

 アンジェは自分が淹れた紅茶に、目を見開き、香りを嗅ぎ、大切に一口ずつ、コクリ、こくりと喉へ送る、その姿にこれはいいお茶仲間が出来るかもとセツコが相好を崩していると、その合間、彼女は時折り窓の外――自身の夫が居るであろう方向を見ている。

 そんな、健気にまばたきすら禁じるようなアンジェを微笑ましく思う。若いわぁ~、と、

「……貴方の旦那様が心配?」

「……はい。ノーカが失われることは、私にとって致命的な事象となります」 

 セツコは好感を覚えた。無機質な表情のわりになんとも情熱的慕情だ、きっと彼女の心情は顔に出ないだけなのだろうと。それを聞く自分の娘が、拗ねたような訝し気な表情をしているのは失恋の恋敵だからだろうかとま、無視して。

「大丈夫よ。うちの人見た目はあんなだけど、意外としっかりしてるから」

「しっかり、ですか?」

「ええ。ちょっと捻くれ者だけどね? 不思議と本当に悪いことだけはしないの。ただバカだから横道逸れたり遠回りすることは多いんだけど。不思議と……いえ滅多にしないだけね」

 地声で。ゼロとは言わない――意図的ではない本当の失敗バカなら多々あるというそれにアンジェは、まだ湯気の立つ紅茶片手に悪意、害意はないと察し、

「……要所を押さえていらっしゃるのですか?」

 自分の夫への上方評価は気分が良い――棘のある真面目と柔らかなそれとがあるが、彼女は前者なのかとお茶の片手間その内面を情報収集しつつ、

「――ええ。そうかもしれないわね? ……本当に人に迷惑を掛けないとは口が裂けても言えないけど……」

 子供の頃は悪戯でよくいじられ虫を入れられてその被害の第一人者だったそれを思い出しつつ、そんな自分と自分の夫を更にどう論評するかと思えば、

「夫共々ご心配して頂き、感謝に堪えません。ですがご安心ください、そういったことを思慮しているのではなく、ただ何を話しているのか――その内容が気になっていただけです」

「――あら、そうなの?」

 変わっている。大概、男同士の会話なんて関与するところではない仕事の話か、週末のギャンブルの予定か、スポーツ観戦の結果か、コメディアンがどうのこうの胸が尻がと女が相槌交じりに耳を素通りさせるようなものだ。

 いちいち耳の奥まで入れるのは告解の部屋くらいだろう。

 逆に本当に悪い話で限り女はそれほど気にしないもの……反して、そんなアンジェの事を礼儀正しく、そしてやはり愛情の深い女性なのだとセツコは思う。

 新婚の熱量もあるのだろうけど、だからこそ自分の夫が言う余計なお節介、否、世間話を、夫には悪いが少しだけ濃い目に入れさせて貰おう。

 セツコは、また紅茶を一口――そう決意した。



 さて、では何を話すべきか。

 いや、まず何を聞くべきか。女の世間話の争点を取り纏めるべきだろうと、

「……それで、うちの娘からは夫婦らしいイチャイチャの仕方――ええっと、新婚夫婦の新婚らしい常識的な生活? を教えてあげて欲しいって聞いたのだけれど……アンジェさんが知りたいのはそれで間違いないのかしら?」

「――はい。その通りです」

 どうやら間違いない様子である。

 もしかしたら、夫の言う通り娘が失恋相手に余計な首を突っ込んで掻き回そうと思ったのかもしれないという可能性もあったが、その当人からの意向の確認は取れた。

 そこでセツコは自身のまだ若干若い頃、結婚直後を思い出す。範例としてあの頃、自分たち夫婦がどうコミュニケーションを取っていたかと言えばと――

「……そうねえ、例えば肩でくっついたり? 手を握りながら一緒に座ったり、膝を撫でたり……意味も無く抱擁ハグしてみたり?」

 紅茶の香りと湯気に、自身の鎌のよう垂れ下がった角を数々の思い出に浸し、健全な範囲でサルベージする。他は子供の前では言えない事が多々ある――特に新婚時はその割合の方が大きいというか。

 そこに文句があるのか、娘がつまらなさげに唇を尖らせ、

「……なにその、恋人居たことない人の妄想みたいなの」

「――あら詳しいわね? そこの淑女様は経験がお有りなのかしら?」

「くそー! ちくしょ~!」

 ジタバタごろごろ寝転がり抱いたクッションに寝技と打撃を与えながらもんどり打つ娘。しまった、つい出来心でつい最近出来た娘の急所をつい抉ってしまった。しかしこれだけでは新妻の参考資料として少なく、世間話として面白みがないのも事実なので。

「……じゃあ他にも。夫婦らしく仲を深めるといったら……そうね、やっぱり一緒にスポーツしたり、どこかに行楽レジャーに出掛けたり……家で楽しめるようなテレビゲームもお手軽よね?」

「ねえ、さっきからそれ全部夫婦でなくともできることじゃない?」

 不屈の闘志で立ち上がった娘の意見である。まあ確かにと思うもの、しかし母は母として持論を揺らがせるつもりはなく、

「――夫婦だからよ。夫婦だからそんなことでも特別に感じるのよ。……というより“夫婦になった”っていうそれを感じながらだからこそ、そう感じるものなんだけど。

 だからこそ、って言うのかしらね……それこそ恋人の時だって。恋人が恋人になっただけでやたら面映ゆかったり、片想いの時もそう、『好き』とか『愛してる』って、たとえ両想いじゃなくったって幸せだったりするでしょう? だから――“特別”って事を気にしてるわけでもなく、“普通”を意識しているわけでもないときこそ、感じられるっていうのかしら……?

 誰かの模倣や、理想をなぞろうとすると、その所為で自分達の合致する瞬間が来なくなると思うのよね。……だから特別な誰かや何かの真似や、特別な事をするって意識は特段必要ないと思うわ。精々適当に構えて、それはそのとき自然と訪れる、くらいに意識せず構えていた方がいいんじゃないかしら?」

「――おお、なんか夫婦って言うより年寄りっぽい」

「お黙りなさい」

 娘が一々つまらないことに突っ込むのは間違いなく父親の血だとセツコは思う。

 それはともかく、

「結局さじ加減の問題なのよねぇ」

「左様でございますか……」

 途方もなし、と言いたげに、新妻が遠くを見つめる様な顔をする。

「……でもさ、普通のことしか出来ないって地味じゃない?」

「何言ってるの、それでいいのよ。毎日イチャつきたいからって毎日特別なサプライズをするの? 普通にそれとなく傍に居て、思い切り体でくっついたり離れたりする方が男にはよっぽど分かりやすいのよ? ちまちま遠回しに『構って?』なんて伝えるよりも」

「ええー? お父さんも……ノーカさんもその辺鈍感だし、特別なことしなくちゃいけないと思うけど……」

「――いいえ」

 それはおまえが色気の無い内からべったり張り付いていたからもう雌として見られていな――いやいや。夫婦の時間というそれは、家族という時間の中で実質、お互いの休憩時間であることが多い。

 仕事とお金、家族という自分以外の個々人と、家庭という全体の和、その最後に自分の事と、やらなくちゃいけないことがたくさんある中で、夫婦の時間というのはある意味でそのどれにも属さない……優先順位として下から数えた方が早いものだ。そんな家族の合間の合間の微かな時間でLOVE味を感じ合うにはまだるっこしい駆け引きではない――阿吽の呼吸が必要になるのだ。つまり、

「夫婦になると、愛は駆け引きじゃなく、一瞬、一秒の時間の勝負で密度で愉しむものなのよ」

「ほうほう――たとえばどうするの?」

 クッキーを煎餅のようにバリボリ零しながら食うのを止めろ、というのを人前グッと堪えて。

 セツコは先程から口数少なく聞いているアンジェを見る。母娘の会話に染まりつつある場に口を挟みづらいのか、いや、どうも静観しながら食い入るよう真剣に脳でメモを取っている様子である。

 そんな生真面目な顔して、そこまで自分の旦那様を誘惑しようなんていう演技でない天然の初々しさは――私にはもう無いなと思いつつ。いや、そもそもあったかな?

 記憶が曖昧な(?)歳食ったおばちゃんから見てこうも“女の子”が現役である姿に興が乗って来る。

 さて、夫婦の密度――蜜度、または糖度とも云われる駆け引き無用の甘ったるい時空間それだが、

「そうね……、例えば、腕を抱いたり、挨拶のキスとか。

 ちょっと工夫するなら肩で寄り掛かれるところに座って、さり気なく手のひらを相手の膝に乗せて……当然のように振る舞えばそれがもう夫婦の距離として“普通”になるでしょう? こっちから膝枕して耳掃除して上げたら次からは自分から頼んで来るしね? ――自分がどうすればいいのか、どうしたいのか分かって。

 あとは――わざと触れない距離に座れば、女が近くに居ていままで自分が嬉しかったのか、今日は疲れているのか、……相手にどうしたいのか、自分でどうすればいいのか、それをそれとなく意識してくれるかしら?」

それで間違っていない筈、と、セツコは自身の体験からそう言葉を紡ぐ。

 駆け引きに似ているがやっていること自体は非常にシンプルで、どれも手本として実例を示すか、無駄を省く公式化、記号の啓発行為に近い。

 そこに自分やりたいこと、してあげたいことを上乗せしている。

 最初の内は戸惑うのは間違いないが、お互いの仕草や距離感の意味を理解し合えば一緒に生きていくのがちょっと楽になる。お互いにお互いを助け合える。言い換えるなら、そう自分達の関係を育て上げておくのである。それがもう直球でセックスであってもいいしそうでなくても好い関係に。

 先の展望を見通して。休憩を楽に取れるように。

 そうでなければ一緒に家族などやっていられない。ただでさえ自分以外のそれの世話や面倒を、人生を、二人どころか家族全員総掛かりで回すというのに、今更夫婦二人だけの時間に余計な手間暇をかけてどうするのか。

 いつまでも恋人気分でいるんじゃねーぞ、という奴であるそれに、

「……それ、本当にお父さんにやって効果あったの?」

「――ええ。もちろんよ?」

 アンタが出来たもの――とは流石に言えないが。


 結局のところ……自分の夫があの場のノリで感情的に言っていたようなことがまとを射ていたのであるとセツコは思う。

 他人を参考にしても頼ってもどうにもならない部分……二人の幸せな関係を築き上げるという地道な作業、そこでお互いの事を理解する余地に、とやかく言う他人の言葉はむしろ邪魔と言える。

 多分、理屈で分かって言ったんじゃないだろうなあと自分の夫の評価を下げつつ、

「それでどう? 一先ず参考になったかしら?」

「いえ、よく分りました。早速ご教授してくださった内容を、夫共々実践してみます」

「そ、そう? それならよかったのだけれど……」

 素直すぎる生徒に逆に怖くなる。娘も旦那も分かるまでに二度三度は同じ話を繰り返さないと覚えられないタチの挙句の感覚派だから。

 再度訊ねるどころか、むしろセツコの様子を窺ってくるようなアンジェに、申し訳なく不安に思い、再度要点をまとめて、

「とにかく……夫も言っていたけれど、貴方たちは貴方たちらしく、今は他人からの評価なんて気にしないでいいと思うわ。誰が何と言おうとも、もう夫婦なんだから、そう深く考えずに気楽にやってみたらどうかしら? 私達夫婦だって最初は蹴躓いてばっかりだったんだから」

「――そうなのですか?」

「ええ。私達だって最初から仲が良かったわけでも、ずっと仲が悪いわけでもなかったのよ? ……でも理想を見てたり、夢を見たりしてて、それが上手く行かなくて、失敗したり、苦労したりしていて。他人に聞いたら、みんな同じように上手く行ってなくて……それでも夫婦としてやって行ってるってだけなんだって気付いたの」

「……それでよろしいのでしょうか?」

「いいのよ。だからその合間合間に、一緒に息抜きをしたりしてね?」

「……仲良く、していらっしゃるのですね?」

「ええ。……それからこうして、一人の趣味のお茶を飲んだり……」

 セツコは自分のカップを手元に引き寄せる。その中身はもう既に冷めているが、それを大切に、上品に飲み干し、柔らかく音を立てずに受け皿に戻した。

 その姿、行動に、

「……一人の趣味、ですか?」

 夫婦で仲を深めるのに? という疑問に、

「結局そういう時間も大切になるのよ。……あ、もう空ね。――気に入った?」

「?」

「――紅茶、注ぎ足すわね?」

 多分気に入ったのだろうと、空のカップにティーポットから茶葉から浸出したそれを注ぐ。すると湯気の所為か、アンジェはほこほこと頬に熱を浮かべているような。その事に関しては今日ここで個人的に一番良かったことだと思う。

 もしかしたら、夫共々、この夫婦と友達になれるかもしれないと思った。

 アンジェは、再び満たされたカップの内側に、自身の飲み方を思い返す。

 はたして、そうなのだろうかと、きょとんとした顔で自分の手元を見る。

 その後、もう一度自分の記憶を参照し、類似する他の飲食料と比べてから、手の中にある紅茶をコクリと口に入れ、こくりと飲み込み、

「……おいしいです。……ノーカが淹れたコーヒーミルクより、ずっと」

「ふふふ……もしよかったら、旦那様抜きで、今度また一緒にお茶しましょう?」

 セツコが微笑みながら、夫には知られず相談したいことがあれば、というそれに何を思い浮かべてか、アンジェは、申し訳なさげに背中で翼を窄めたあと、

「はい。よろしければまた、伺わせて下さい……」

 云うと、また一口、紅茶を丁寧にこくりと喉に落した。


 一人菓子をサクサクと抓んでいたレナは大人にしか分からない話に非常につまらなさげに、

「……ねえ、他にもっと何か無いの?」

空になったお菓子の篭を催促されたマザーは、大人も子供もおねーさんも、共通して楽しめる話は何かと鑑み、

「……じゃあそろそろ本格的女子会でもしましょうか……議題は男を落す手札と手管について」

 ここからは、ただの女同士――礼儀はいるけど遠慮は要らない。

 男の前では決して話せない女の内幕、ぶっちゃけトークにワクワクした、娘とその母親のギラついた笑みを静かに見つめ、今度は彼女が孤独感を漂わせながら、アンジェはただ一人、湯気の立つ紅茶をこくりこくりと飲み始めた。

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