第4話 腐レグランス
晩御飯を平らげた後はお互いにスマホをいじる。大学での話なんかも時々したりする。
お互いに沈黙が生まれる。
こう言う時にテレビが欲しいんだよな。
まああっても大して見ないんだけど…
ちなみに今は佐々木の家でくつろいでいる。
「佐々木ーひまー。」
「安心なさい。私もよ」
「だよねー。」
佐々木は最近気になるyoutuberを見つけたらしく、充実した暇つぶしをしていらっしゃる。
一方、僕はというと、暇すぎるあまり床と壁の違いについて哲学していた。
「壁も床も板なのにどうして役目違うんだろ?理不尽だよなぁ。うんうん。………。」
暇すぎてフローリングの床から生える雑草とか探してみたけど、幸いにも見つからなかった。佐々木に報告してみる。
「隊長!フローリングに蔓延る奴らは今日も発見されておりません。安心してください。」
「そう。」
遂に佐々木も雑になってきた。
もう雑草となってしまえ。
じゃあ自分の部屋に戻れよと言われるかもしれないが、自分の部屋でも暇なのであります。
余暇とよかよかしてると時間を戻したくなったので僕が佐々木料理長にお世話になる事になった経緯でも回想してみることにする。
あれは暑い夏の夜だった。
一人暮らしを満喫しつつ、大学生らしく部屋を散らかしていた僕は親が視察しにくるという、高難易度ミッションを達成すべく部屋を綺麗にしていた。
夜の11時に連絡が来てしまったため、その日は徹夜でゴミ部屋掃除を行なった。
しかし、これがいけなかったんだな。
睡眠不足が原因で、夜明けごろにうっかり眠ってしまい、ゴミを出しそびれてしまった。
勿論、起きてすぐにゴミ出ししようとしたのだが、ゴミ収集車は移動する寸前。
「待ってくださーい。」と叫んでみるが、僕の声はエンジン音にかき消され、気付いてすらもらえない。
走るゴミ収集車、全力で追いかける僕。
もちろん、追いつけるわけもなく。
夏の暑さと寝起きの気だるさの相乗効果で死に絶えたミミズみたいな顔をしていると、偶然アパートの2階の部屋から佐々木さんが出てきた。
「どうかしましたか?」
「えっとーゴミ出し損ねちゃって。
今日、うちの親が視察しにくるのに…。」
いま思うと、必死な形相の大学生に声かけれるのすごいよな。いいやつだな佐々木。
「あーそれは大変ですね。」
少し考えて、これしか無いと踏み切った。
「申し訳ないんですけど、今日その時間だけこのゴミ達をあずかってもらえませんか?」
何とも厚かましいお願いを初対面さながらの佐々木にしてみた。
割と本気で嫌そうな顔をしていていたが、その後顎に手を当て一考する佐々木。
およそ30秒ほどの葛藤の末…
「300円」
「え?」
「一袋300円で預かりましょう。」
まさかのOKが出た。
「いいんですか?」
「今回だけですし、その時間が終わり次第返却しますが、それでもいいなら。」
「助かります。」
かくして、佐々木の部屋をゴミ袋だらけのゴミ屋敷へと変貌させつつ、視察をうまく誤魔化したわけです。
しかし、数時間後にピンポンを押してゴミを回収しにいくと、部屋のオーラが一変していた。流石に6袋のゴミを女子大生の部屋に預けるのはヤバいよな。なんか申し訳ない。
部屋のフレグランスの香りは腐レングランスへと変わり果て、女子のお部屋はただのゴミ溜めへと豹変していた。
苦悶の表情を浮かべる佐々木はリストラを食らったサラリーマンのような顔をしていた。
「え、えーと。お世話になりました。
これ、1800円です。お納めください。」
「あぁ、はぁ。ゔぁー。」
女子部屋を汚部屋にされた女子大生はゾンビのようになっていた。
返答からも人間味を感じられない。
「えっとー佐々木さん?
ご健在でしょうか?」
突然、手首を掴まれた。
そして、急に泣き出しそうな顔をして一言。
「責任とってくれますよね?」
「え、えっとー、代金はそちらに。」
「こんなにめちゃくちゃにして、金だけ渡して帰るっていうの!」
確かに部屋は酷い感じにしてしまったけど誤解を招く言い回しはどうにかならないんですかねぇ。
もう完全にアレで何したみたいになっちゃってるじゃ無いですか。
ゴミ預けただけなのに。
「ひどい!酷いわ!乙女の純情を弄んで‼︎」
会って2回目の男にこの台詞ってのもどうかと思うんですよね。てか乙女の純情とか自分で言うなよ。恥ずかしい。
「責任って言われてもですねー。」
「実は最近お金に困ってるの。」
うわもう嫌な予感しかしねぇ。
「はぁ。僕もあんまり金無いですよ。」
「一応確認だけどあなた自炊とかするの?」
脈絡のない質問に疑問符を浮かべつつ返答していく。
「いや、コンビニ弁当ばっかりですけど。」
「なら丁度いい。」
「明日から私が作ってあげる。
その代わり2人分の材料を買ってきてちょうだい。」
「それでこの汚部屋事件はチャラよ。
どう?」
責任とかいうから何かと思ったらお互いに利のあるいい提案だった。これぞ、相利共生。
「それなら、よろしくお願いします。」
こうして、佐々木食堂は開店を迎えた訳です。
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