第44話 まぁやん危篤…

舞華の七回忌法要が終わり数ヶ月が経ったある日。

まぁやんから恋に電話が入った。

☎︎「もしもし!まぁ兄」

☎︎「あぁ…恋か?今話せるか?」

☎︎「いいけど…どうしたの?声小さいよ」

☎︎「そっか?まぁ…色々あってな…」

☎︎「どしたの?仕事の件?」

☎︎「俺、恋の近くに転勤になるわ」

恋は正直嬉しかったが、それ以上にまぁやんの元気の無さにとても心配になった。

☎︎「そっか…うん!帰っておいで?」

するとまぁやんは泣いているようだった。

☎︎「まぁ兄?」

☎︎「グス…あ…あぁごめんな?アレルギーでな」

まぁやんは必死に誤魔化した。

おそらく、恋の「帰っておいで」という言葉が響いたのであろう。

☎︎「まぁ兄?あのね?わたし達は家族なんだから、何の遠慮もいらないんだよ。だから…ね?」

☎︎「あ…ありがとうな…」

☎︎「うん…いつ頃戻ってくるの?引っ越し手伝うから」

☎︎「9月の中くらいかな」

☎︎「わかった。また連絡ちょうだい?」

☎︎「うん…じゃあな…」

まぁやんの仕事は過酷であった。

仕事時間中は部下の仕事のフォロー、お客様へのクレーム対応に追われ、みんなが帰った後に夜遅くまで自分の仕事を行う。そんな日々が毎日続き、とうとう精神を病んでしまった。

当時のまぁやんの唯一の救いは、まぁやんが好きなグラビアアイドルの推しの活躍を応援すること、同じファンの人たちとの交流で、それだけがまぁやんの心を繋ぎ止めていたものであった。

もし、何もなかったら、まぁやんはもしかすると、自ら命を絶っていたかもしれない。それほど追い込まれていた。会社もそれに気づき、今回部署異動となった。


そして9月…

まぁやんは転勤して、恋が住むM市へ引っ越してきた。

「まぁ兄!お疲れ様!」

恋は出来るだけ明るく接していこうと思った。

「おう。今日は悪いな」

「いいの!もう少ししたら、お兄ちゃんも来るから」

「康二もか?」

「それとね、夜には龍兄たちも来るよ!今日はパーチーだね」

「パーチーって。ふふふ…恋にはほんと…」

「ん?なに?」

「いや…なんでもない…」

まぁやんは気づいていた。恋はきっと、自分を元気づけようと、そして家族がついているんだという事を自分に解らすために、みんなに声を掛けたのだと。

「あいつ…俺のことをよく見てるな…」

引っ越しが一通り終わり、康二と恋で家の中の片付けをしていた。

まぁやんは車でみりんのお世話をしていた。

「なぁ、恋。まぁやんのやつ、精神病んでるってほんとか?」

「みたいだよ。ここだけの話ね。相当やばかったみたい。何度か首吊ろうかと思ったみたいだよ」

「やばいな…本当良かったよ。こっちにきてくれて」

「うん…何かね、大好きなグラビアアイドルさんがいるんだって。その女の子が頑張ってるのと、その…何だっけ…何か交流もできるみたいで、それが支えだったみたい」

「お前…詳しいな…」

「まぁ兄からね。聞いたの。結構電話で話したから」

「お前のおかげでもあるぞ。まぁやんが無事なのは」

「そっかな…そうだといいんだけど…」

「れーん!ちょっときてくれー!」

まぁやんが外から恋を呼んだ。

「はーい!待ってねー」

恋が外に出ていった。

「恋の結婚相手…まぁやんだったらいいのにな…」

康二はぼそっとつぶやいた。


夜には龍弥ファミリーが到着した。

生まれたばかりの次女「神楽」(かぐら)も一緒だ。

「まぁやん、久しぶり!」

「龍!お前もしっかりパパだな」

「お前も早く結婚しちゃえよ」

「ばーか!相手がいないよ」

「相手なら…れ…」

龍弥が恋と言おうとしたら、美紀が龍弥の頭をパーンと叩いた!

「って!なんだよ」

「バカはあんたよ!」

龍弥はチラッと恋のほうを見ると、物凄い形相で龍弥を睨んでいた。

「あ…悪りい」

ただ、やはりまぁやんは以前の元気がなかった。

すると康二は

「恋、お前しばらくまぁやんの家に住み込め」

『はぁ?なんで?』

恋とまぁやんは同時に反応した。

「恋の仕事はリモートだからどこでも出来るし、俺もまぁやんが心配だし。それなら信頼できる恋の方がいいだろ?まぁやんのサポートしてやれよ」

「おいおい!康二!お前、年頃の自分の妹によ、男の家に住み込めって!何言ってんだよ!」

「なんだ?お前。恋に手を出そうとか、そうなるのか?」

「ばっばか!あるわけないだろ」

「じゃあ安心だ!恋もいいな!兄命令だ」

「わ…わたしは…別に…やってあげてもいいけど…」

美紀は恋の態度に

「ツンデレかよ!」

っとツッコんだ。

「はぁ…わかったよ…恋!頼めるか?」

まぁやんがそういうと、恋は満面の笑みで

「うん!いいよ」

「じゃあ頼むな」

そのやりとりを見ていた龍弥と美紀は、康二にグッドのサインを出した!

その夜はみんなでまぁやん宅に泊まった。

みんな寝静まったこと、まぁやんはみんなの寝顔を見ながら、

「寝顔って歳重ねても変わらないんだな」

特に翔央の寝顔が可愛く、いつまでも見ていた。


その日から、まぁやんと恋の同居生活が始まった。

恋はグラフィックデザイナーとしてまだ駆け出しだが、リモートで仕事をこなし、月に1〜2回東京の本社へ行っていた。

まぁやんは異動のため、降格となったが営業に戻り伸び伸びと仕事ができた。

異動先の人間関係もよく、新しい上司は以前と違い、しっかりフォローしてくれる人物であった。

生活は二人で楽しく生活していた。

「ちょっとまぁ兄!耳汚れてる」

「あっ!そっか?」

「ちょっと、こっちきて?」

恋はまぁやんの耳掃除をした。

「気持ちいいけど…恥ずいな」

「そぉ?わたしは平気よ」

「お前はやってる方だからだよ」

「ちょっと動かないの」

「へーい」

徐々に昔のまぁやんに戻りつつあった。

恋はそれが嬉しくてたまらなかった。


ところがある日…

恋の元に一本の電話が入った。

登録されていなく、知らない番号だったので警戒した恋は電話に出なかった。

しばらくすると、また同じ番号からの電話が。

警戒しながらも、恋は電話に出た。

☎︎「はい…」

☎︎「あっ出た!突然申し訳ありません。上田様の携帯でよろしいでしょうか?」

☎︎「はい…そうですが…」

☎︎「お世話になっております。私、高崎雅志さんの職場のもので、新山と申します。今よろしいでしょうか?」

☎︎「あっまぁ兄の…はい…大丈夫です」

☎︎「実は、高崎さんが先程営業先で倒れたとの連絡を受けまして…」

☎︎「えぇ!どういうことですか!?」

☎︎「私も詳しいことはまだ解りませんが、先程救急車で病院に搬送されたとの事です。上田様の連絡先が緊急連絡先になっておりましたので…」

恋は呆然としてしまった。

というよりも、なんでそうなったのかわからず、頭の中が真っ白になっていた。

☎︎「……し…もしもし…」

☎︎「あっ!すみません!病院はどこですか?」

☎︎「市立病院になります」

☎︎「わかりました!すぐ向かいます!」

恋は電話を切ると、大慌てで財布と携帯だけを持ち、家を飛び出した。

タクシーを捕まえると、すぐに病院に向かった。

タクシーの中で、龍弥と康二電話をするも、出なかったので、LINEですぐに折り返すように送った。

病院に着いて、受付に向かい

「すみません!救急車で運ばれた人はどこですか!?」

「患者様のお名前は?」

「高崎雅志です」

「お待ちください…今救命救急センターにいらっしゃいます。こちらの通路を…」

「わかりました!」

恋は走って救命救急センターに向かった。

ナースステーションで

「あの!高崎雅志の家族です!まぁ兄…雅志はどこですか?」

「あっ高崎さんのご家族の方ですね!こちらです」

恋はICUに案内された。

ICUで、チューブに繋がれたまぁやんが横たわっていた。

「まぁ兄!」

「今まだ意識が戻っておりません。ご説明致しますので、こちらのカンファレンスルームへ」

恋はひとり、カンファレンスを受けることになった。

すごく不安で心細かった。

「えー高崎さんですが、急性心筋梗塞を起こしました」

「心筋梗塞…」

「はい…まずは患者様の生命に危険が御座いましたので、緊急オペになりました事、ご了承ください」

「はい…」

「とりあえずは一命は取り留めました。大変危険な状態でしたが。ただまだ意識は回復しておりませんので、予断を許さない状況です」

「え…それはどういう…」

「はい…」

医師はまぁやんの病状を詳しく説明した。

「兄は…助かるんですよね?」

すがる様な想いで医師に問うた。

「後はご本人次第でしょう」

「そんな…いやだ…お願いします!助けてください!」

恋は狼狽した。

「落ち着いてください!」

看護師に制止された。


恋はまぁやんの病室のガラスを挟んで見ていた。

そして連絡の取れた龍弥が駆けつけた。

「恋!どういう…」

恋は龍弥にしがみついた。

「龍兄!どうして連絡取れないのさ!どうしてもっと早く来てくれないのさ!」

「ごめんな!恋!不安だったろ?ほんとごめんな!」

恋はその場で号泣してしまった。

……落ち着いた恋から龍弥は状況を聞いた…

「…心筋梗塞…か…」

「わたし、どうしたら…」

「恋…信じよう…まぁやんの…あいつの生命力を…」

そして美紀が慌てて走ってきた。

「美紀ぃー」

恋は美紀に抱きついた。

「恋…ごめんね…龍ちんを責めないで?これでも大事な会議、途中で抜けてきたんだから…」

「龍兄…ごめん…」

「俺のことはどうでもいいんだ」

そして康二も後から到着した。

「なんでだよ…あいつが…」

皆…突然のことで、状況を受け入れられなかった。


「申し訳ありません。本日は付き添いが出来かねます。お帰り頂けますか?何かございましたら、こちらからご連絡致します」

「すみません…わたしだけでも…だめですか?」

「申し訳ございません。規則ですので…」

恋たちは看護師より帰るように促された。

「どうしたの?」

救命救急センターの医師が来た。

「あっ!佐々木先生。ご家族の方に退館してもらうようにお願いを…」

佐々木医師が恋達を見て。

「代表者1名だけならいいですよ」

「せ…先生!」

「いいから!」

「本当ですか?」

「ただし!静かにすること、患者さんにしっかり寄り添うこと!守れる?」

「はい!」

「じゃあ!恋!頼むな」

「うん!わかった」

そして恋以外は病院をあとにした。

「いい…ご家族ですね?」

「家族なら当然です…」

「そうでしょうね。でも今の時代はその当然のことも出来ない方が多いですよ。残念ながら」

「そうなんですか?」

「えぇ…大変申し訳御座いませんが、高崎さんとのご関係、存じております。血の繋がりがないことも」

「はい。わたし達は孤児院で育ったもの同士なんです」

「それゆえでしょうかね。血の繋がった家族よりも結束が強く思います。おっと!すみません。話長くなっちゃいましたね。高崎さんの近くで見守っていてください。

「ありがとうございます!」

恋はまぁやんの手を握り、回復を祈った。

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