第43話 再会した家族

龍弥が美紀と結婚をして、式を挙げた。

まぁやんをはじめ、家族が勢揃いして、さらに昔の仲間たちも大勢集まった。

昔の悪ノリで、まぁやんが酔っ払って倒れてしまうハプニングがあったものの、みんなが笑ってふたりを祝福した。

「まぁ兄、大丈夫?」

まぁやんは気を失っていた。

恋はまぁやんを膝枕して寝かせていた。

ふと、まぁやんが目覚めた。

「ん…?恋?」

目が覚めて、すぐそばに恋の顔があった。

「わぁ!ごめん!」

まぁやんは慌てて飛び起きた。

「そんなびっくりすることないでしょ?介抱してあげてたんだよ?」

まぁやんは照れたのか、オロオロしながら

「いや…その…ごめんな…」

「ううん。大丈夫」

恋はまぁやんの顔に手を当てた。

「あ…あぁ…なんつうか…大丈夫…」

「そ!良かった。じゃあわたし、会場戻るね。落ち着いたら戻ってきて?」

「お…おう…」

恋は出て行った。

「はぁ〜」

すると今度は龍弥が心配して見に来た。

「まぁやん、大丈夫か?」

「あぁ…大丈夫だ。あいつら…マジで飲ませやがって」

「あれ?恋は?」

「つい今さっき出てった」

「なんだよ!せっかく二人っきりにしてやったのに」

「はぁ?な…なんだよそれ」

「お前…恋の気持ちに気づいてるんだろ」

「…なんとなく…」

「歯切れ悪いな」

そう言うと龍弥は持ってきたお茶をグラスに注いでまぁやんに渡した。

「サンキュー」

「俺も少し飲みすぎたから、逃げてきた」

「そっか」

「で?どうなんだ?恋とは」

「どうったって…」

「あいつさ、最近めちゃ綺麗になったと思わね?」

「さっきさ…目が覚めたら恋が俺を膝枕してて、恋の顔が近くて…ドキッとしちまった…」

「わお!恋のやつ、なかなかやるな!」

「なんだよそれ!」

「俺は…お前も次は恋かなって思ってたんだ」

「次って…」

「お前よぉ、一生マイマイの事引きずって生きてくわけじゃないんだろ?だったら…」

「わかってるよ。お前が言いたい事は。だが恋は…あいつは妹として接してきたし…今更恋仲になるなんて」

「まぁな…でもな、血の繋がりはねぇじゃん!俺だって美紀とはひと回り歳違うんだぞ!要はお前次第だ」

「……」

「すぐにとは言わねぇ、でも真剣に考えてみろ」

「あぁ…」

「おっと!主役がサボり過ぎたらまずいな。俺行くわ!早く戻ってこいよ」

「あぁ」

そう言って龍弥は出て行った。


龍弥と美紀が結婚したのち、元気な男の子が誕生した。

名前は翔央(しょう)と名付けた。

名付け親はまぁやんだった。

「これから過酷な世の中になるけど、勢い良く羽ばたいて、何にも負けないように強く生きて欲しいとの想いを込めて考えた」

龍弥をはじめ、美紀も、恋もみんな気に入ってくれた。

「まぁやん、次の子が生まれたら、頼むな!」

翔央は元気に育っていった。


それからは、家族それぞれが色々と忙しくなり、以前に比べて会う機会がめっきりと減った。

まぁやんは地方へ転勤となり、マンションはしばらく恋が住むことになった。

住居兼管理人という感じであった。

恋は舞華と同じ仕事に就くことを目標にして、めでたく大手の広告代理店に就職。

康二は勤めていた弁護士事務所を辞めて、独立果たした。

もっと困っている人に手を差し伸べることが出来る様に、安く依頼を受けれるようにした。

龍弥は建築事務所で一級建築士になった。

自らの家を設計した。

美紀のお腹には、翔央の妹が宿っていた。


そして月日は流れて…

4年後…


「恋!早くしろよ!遅れるぞ!」

康二が恋を呼んでいた。

「ちょっと待ってよ!真珠のネックレスが確かここに…あった!」

「ったく!前日に用意しておけ!」

「ごめんって!わたしだって昨日東京から戻ってきたばっかりなんだから」

この日は舞華の七回忌にあたる。

久しぶりに家族全員が集まる日だった。

康二は恋を迎えに来ていたが、準備が遅い恋にイライラしていた」

「もう置いてくぞ!」

「やーだー!わたし車無いんだもん」

「ったく…」

なんとか準備が終わり、恋と康二は出発した。

「恋、お前…また別れたのか。あの彼氏と…」

「うっ…どこでその情報を…」

「この間、美紀ちゃんが翔央と妃沙莉(ひさり)を連れて遊びに来たんだ」

「美紀のやつ…」

「お前この5年で何人と付き合ったんだ?」

「えっと…」

恋は指を折って数えた。

「お前…そんなに…」

「だってぇ。仕方ないでしょ?何か違うんだもん」

「何かって何だよ!」

「うーん。こう…一緒にいて、しっくり来ないというか、安心感がないというか…」

「お前の歴代の彼氏がかわいそう…」

「大丈夫!ちゃんときれいにさよならしたから」

「はぁ…もういいわ…ところで、今日はまぁやんも来るぞ」

「えぇ!まぁ兄が!」

恋の顔がはにかんだ感じになった。

「やっぱり…わかりやすっ…」

「ん?何か言った?」

「何でもねぇよ…」

「まぁ兄かぁ…久しぶりだなぁ」

「ほら、もう着くぞ」

「はーい」

康二の車は法事会場の駐車場に着いた。


「あっ!恋!こっちこっち!」

美紀が恋に向かって手を振った!

「美紀〜!お兄ちゃんにチクったな…」

「う…ごめん…」

「まぁいいや。体は?辛くない?」

「うん。大丈夫」

美紀は龍弥との間に3人目の子供を孕っている。

「3人目って大変でしょ?」

「まぁね…でも龍ちんが結構面倒見いいから助かっているけどね」

「そっか…」

「あぁ!恋ちんだ!」

「おぉ〜翔央!いい子にしてるかぁ」

恋は翔央を抱きしめながらこそばした。

「や…やめろぉ〜あはは…やめ…」

「元気そうだね!よかった」

そしてみんなの後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「にしてもよぉ。お前太ったなぁ」

「それよ…マジ勘弁だよ。ストレス太りだな」

恋が振り向くと、まぁやんと龍弥が歩いてきた。

「まぁ兄…」

「何してんの!早く行っといで」

美紀が恋の背中を押した。

「まぁ兄!」

「おっ!恋か?久しぶりだな」

「久しぶり!元気だった?」

「まぁまぁだな。さっき龍弥からも太ったって言われた」

「うふふふ!確かにね」

そうしていると、会場の方からスタッフさんが

「そろそろ始めます。会場へどうぞ」

「まぁ兄!いこ?」

「あぁ」

恋はまぁやんの腕を掴んで、一緒に会場に入った。


舞華の七回忌…

あれからもう6年の月日が流れていた。

まぁやんをはじめ、月日の移り変わりと同時に、色々と変化があった。

その中でも、まぁやんはかなり大変であった。

会社で急遽役職者となり、人を管理する立場となった。

不慣れな環境で責任のあるポジションになったこと、まぁやんの直属の上司が助けてくれないこと、部下の嘘の報告に混乱してしまう事、成績が悪くて会社から叱責されること、取引先とのトラブルなどがまぁやんの精神を蝕んだ。

結果、過労とストレスによって、依然より15キロも体重が増えて、依然の引き締まった体はもうなかった。

「まぁ兄、大丈夫?」

「あぁ…大丈夫…とは言えないなぁ」

「絶対無理しないでね。仕事辞めて戻ってきてもいいんだからね」

「アホ!仕事辞めたら生活出来んだろうが」

「大丈夫。わたしが養ってあげる」

「ど…どこの世界に妹に養ってもらう兄貴がいるんだよ!それだけは絶対に嫌だね」

「養ってあげるのは冗談として、ほんと心配なんだって。だからお願い!無理しないでね」

「…わかったよ。大丈夫!」

そう言って、まぁやんは恋の頭を撫でた。

「へへ…これ…久しぶり」

「撫でられるのか?相手いないのか?」

「違うわよ!まぁ兄に撫でられるのが!」

「なんだ…お前付き合ってるやついないのか?」

「いないわよ。悪い?」

「悪かねぇけど。お前もお年頃なんだから、早く康二を安心させてやれよ」

恋はムッとした。

(人の気持ちも知らないで!この鈍感男!)

恋はまぁやんのすねを蹴った。

「痛!何すんだよ」

「ふん!まぁ兄のバカ」

恋はスタスタとまぁやんの元を去った。

「何カリカリしてんだ…あいつ…」


そして会食も終わり、会場を後にするとき。

「みんな!龍弥の家に集合な!」

康二がみんなに伝えた。

「あっ!俺ちょっと寄るとこあるから、先行っててくれ。少し遅れるから¥

まぁやんがみんなに伝えた。

「恋…さっきは悪かったな。ごめん。機嫌直せよ」

「……仕方ないな…許してあげる…」

「サンキュー」

そう言ってまぁやんは恋の頭を撫でた。

そして一言だけ、恋だけに聞こえる声で

「その…なんだ…お前…綺麗になったな…」

「え?まぁ兄?」

「あ!いや〜じゃあ!俺行くわ!また後でな」

まぁやんはそそくさといなくなった。

恋はさっきのまぁやんの言葉に、頭の中が真っ白になった。

(え?今?え?綺麗になったって…言った?)

「恋!行くぞ」

龍弥の呼びかけにも反応せず、しばらく恋は機能停止状態になった。

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