第34話 別離の兆し

まぁやんと舞華が結婚して1年が経ち、初めての結婚記念日を迎えた。

ふたりはお互い仕事が忙しく、共にいる時間を作るのは難しいが、この日だけはふたりとも休みを取った。

外食することも考えたが、ふたりっきりの時間を大切にしたいとのまぁやんの提案で、いわゆる【おうちデート】にした。

「舞華、今日は何にもしなくていいぞ」

「えぇ!やだよ。私も何かするぅ」

「いや、マジでいいんだ。掃除は昨日のうちに全て終わらせてあるし、買い出しも終わってるから」

実際、部屋はすごく綺麗で、飾り付けまでやっていた。

昨日、まぁやんは休みを取って、恋や康二、龍弥に手伝ってもらい、掃除や買い出し、料理の仕込み、装飾などを行っていた。

「ねぇ、まぁやん。今日は家でデートなの?」

「そうだよ。今日はな、お昼はもう頼んであって、夜は俺が作ってやる。そして明日の朝は例のパンを作ってやるからな」

「パパパンだね!」

「お前、好きだろ?」

「うんっ!今日はいたでりつくせりだね!」

「記念日だしな」

舞華は好きな読書を満喫して、まぁやんはそんな舞華を微笑ましく眺めていた。

「なぁ、舞華」

「ん?なぁに?」

「こんな日がさぁ、ずっと続くけばいいなぁ」

「なに?突然」

「いや…さぁ…俺知ってるんだ。最近お前、胸が苦しいの頻繁してるだろ?」

「え?そんなことないよ…」

舞華は最近になって、発作的に胸の苦しみを発していたが、まぁやんに心配かけさせないように黙っていた。

「隠すなよ。頼むから病院に行ってくれよ」

「わかってるって。もう。心配症だなー」

「だってよ…俺、もしお前がいなくなったら、正気じゃいられない…」

「バカ!」

「バカってことないでしょ?俺はお前が…」

「まぁやん、もしもだよ!もしも私がいなくなったとしても、まぁやんには家族がいるんだから!数日落ち込むのは許すけど…それ以上は絶対に許さないからね」

「舞華…」

「ねっ!はい!この話はおしまい!せっかくの結婚記念日なんだから、まぁやん。ぎゅってして?」

「…わかった。ごめんな…」

そう言ってまぁやんは舞華を後ろから抱きしめた。

「やっぱ落ち着くな…」

「うん…」

「舞華?」

「ん?」

「愛してる…」

「私も…愛してるよ…」

ふたりは見つめ合い…そして深いキスをした。

「舞華…俺…ダメだわ…」

「クスッ…しょうがないなぁ…」

舞華はまぁやんを抱きしめて、愛し合った。

……


「ん?今何時だ?」

「17時ちょい過ぎだね…」

「お腹…空かない?」

「まだ大丈夫。もうちょっとこうしていたい…」

「俺も…」

まぁやんと舞華はソファの上でお互い裸で抱き合っていた。

「なんか…こういうのもいいね」

「んもう。エッチ」

「今…誰か来たら…やばいな」

「鍵…かけてるよね?」

「多分…」

「みてきてよぉ〜」

「舞華から離れたくなーい」

「もう!また甘えん坊になって!」

舞華がまぁやんの好きなところのひとつがこのギャップだった。

普段はビシッとして、ちょっとオラオラ系っぽいところがあって男らしいけど…ふたりっきりになると、ちょいちょい甘えん坊なまぁやんが顔を出す。

「じゃあ一緒に行くよ」

「うぃー」

舞華にがっちりまぁやんがくっついて、玄関まで行った。

「ちょっと!鍵開いてんじゃん!」

「えへ!」

「まぁやん!えへ!じゃないよ…」

っとその時であった。

玄関の外から声が聞こえた。

「あれ?まい姉?いるの?」

恋の声である。

「れ、恋ちゃん!どうしたの?」

「今日結婚記念日でしょ?お祝い持ってきたの」

と言いながら、ドアノブを回そうとした。

「ちょーっとストップ!恋ちゃん、ごめんちょっと待って?」

っと言ったが遅かった。

恋がドアを開けると、裸の舞華とまぁやんが抱き合っている光景が…

「きゃー!ごめん!」

「れ、恋ちゃん!ちょちょっと待っててね?」

「見られたな!」

「『見られたな!』じゃないでしょ?早く服着て!」

ふたりはそそくさと服を羽織った。

「恋ちゃん、ごめんね!大丈夫だよ」

ドアを開けると、顔を真っ赤にした恋がいた。

「…んと…あの…」

「ごめんね。いやーでも恋ちゃんだけでほんとよかったよぉ〜!龍くんとかいたらどうしようかと…」

恋は申し訳なさそうな顔をして

「いや…あの…ね…」

「ん?まぁ、早く上がったら?」

その時である。

「いや〜昼間っからお盛んですな。まいまい!」

「そ…その声は…」

龍弥である。訪問していたのは恋と龍弥と美紀であった。

「う…うそ…でしょ」

「まいまいぃ〜おーい!大丈夫だぞ。ちょっとしか見えてないから」

「まぁ〜や〜ん!」

奥からまぁやんが出てきて

「龍…マジか…」

「まぁやんが鍵かけないからぁ〜」

ちょっとした騒動になってしまった。


まぁやんの家に恋と龍弥と美紀、後から康二もきて、結婚記念日お祝いパーティーとなった。

「いやーはははは!それにしても、さっきはおもろ過ぎだったなぁー」

「う〜…龍くんのバカ…」

すると美紀が龍弥の頭をパシーンっと張った。

「龍ちん!舞華さんの恥ずかしいのを笑わない!」

「だってよぉ〜…」

「龍…頼む…忘れてくれ…」

まぁやんもうなだれていた。

「ほ…ほら!今日はまぁ兄とまい姉の結婚記念日なんだし…ねっ!」

「そうだよ。まぁやんさんと舞華さんだって…ラブラブしたかったんだし…」

美紀がフォローしようとしたが、逆効果だった。

まぁやんと舞華は恥ずかしそうに下を向いた。

「美紀ぃ〜あはははは!逆効果だってーの」

「うっ…うっさい!バカ龍!」

「よし!お祝い始めるぞ!まぁやんも舞華ちゃんも」

「お…おう…」

「うん…」

ふたりは顔が赤いのはしばらく続いた。

「でもみんな…今日はありがとう…来てくれて嬉しい」

「ほんと?最初はお邪魔かなって思ったんだけど」

「全然!ほんと嬉しいよ」

「約1名はお邪魔だって思ってるよな」

「う…うっせい」

『わははははは』

「まい姉、体調は?変わりない?」

「うん!この通り!大丈夫だよ」

「よかったぁ〜ねぇ?美紀」

「うん!ほんとよかった」

すると康二がゴソゴソと何かを取り出して

「じゃあそんな舞華ちゃんに、プレゼント!」

「え〜!なに!おっきいんだけど」

「まぁやんのよりか?」

龍弥が下ネタを言った途端、恋と美紀に袋叩きにあった。

「アホは無視して…開けてみてよ」

舞華は包みを剥がした。

「これ…最新バージョンのノートパソコンじゃん!」

「ちゃんと、フォトショップとイラストレーターも入ってるよ」

「こんな高いの…もらえないよー」

「舞華、もらってやれよ。康二は金持ちだから」

「でも…」

「俺も、舞華ちゃんが喜んでそれ使ってくれた方が嬉しいよ」

「ありがとう…大切に使わせてもらいます」

「うん!よかった」

「まぁやんにはこれだ!」

「おお!めちゃいいソムリエナイフ!」

「あと、間に合わなかったんだけど、近々スーツ届くから」

「康二…俺は良き弟を持ったよ…」

そう言ってまぁやんは康二を抱きしめた。

「わたしたちからはこれね」

恋たちはコーヒーメーカーを渡した。

「これ…前に俺が欲しいって言ったやつじゃん!」

「覚えてたんだ!えらいでしょー」

「でかしたぞ!恋!」

まぁやんは恋の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「もう!小ちゃい子じゃないよ!髪の毛崩れるぅ」

「ははは!悪りぃ悪りぃ」

でも、恋はまぁやんのこの撫で方が好きだった。

皆でワイワイと盛り上がった。

不意に舞華がクスッと笑った。

「どした?舞華?」

「うん…やっぱりいいな…家族って」

「ん?」

「私さぁ、小さい頃にママが亡くなって、パパがひとりで育ててくれたでしょ?だからこんな賑やかな事って無かったの。だから嬉しくて…」

「お前も、このみんなの家族なんだぞ」

「うん…嬉しい…」

舞華の目に光るものがあった。まぁやんはすぐに気づいたが、何も言わずに舞華を抱き寄せた。

「いい家族だろ?俺たち」

「とても…」

みんな舞華のほうを見た。みんな笑顔だった。


そしてみんなが帰り、再びまぁやんと舞華が2人っきりになった。

「今日…楽しかったか?」

「すっごくいい結婚記念日になったよ」

「よかった」

「ちょっとしたトラブルもあったけどね」

「もう…鍵も閉めたし、誰もいないぞ」

まぁやんは舞華を抱きしめた。

「んもう!エッチ!」

「愛してる証拠だ」

「ちょっと待ってて、歯磨きしてくるから」

「早くおいでよ」

舞華は洗面所に行った。

洗面所で歯を磨こうとした時…

「う!」

胸に激痛が走った…

「お願い…まだ…まだ逝きたくない…お願い」

実は舞華の心臓は…限界を迎えていた…

「はぁ…はぁ…はぁ…お願い!」

遠くから、まぁやんの呼ぶ声がした。

「おーい!まいかぁー」

「はーい!今行くー」

舞華は洗面所にある薬と吸入薬を吸入した。

「ごめんね…まぁやん…」

舞華はまぁやんに、症状が悪化していることを隠していた。まぁやんを心配させまいと思ったからである。

「ふぅ〜…おさまった…」

舞華は寝室へと戻っていった…

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