第33話 新婚旅行

まぁやんと舞華は新婚旅行をどこにしようかを話し合っていた。

「俺は舞華の身体のことがあるから、海外はちょっと無理だと思うぞ」

「でもほら、まぁやん、前に言ってたじゃん。スペインとかに行きたいって」

「まぁな。確かに言ったけどよぉ」

「だったらさぁ、せっかくの新婚旅行なんだし、思い切って行こうよぉ」

まぁやんはもし旅行先で舞華の身体に何かあったら…

その事がとても不安だった。

そのため、即答が出来なかった。

(舞華のやつ、言い出すときかないからなぁ)

「もう少し考えさせてくれ。なっ?」

「…わかった…でも私の事を気遣って、妥協するのだけはやめてね」

「わーたよ!」


まぁやんの心の中は、どこへ行くという[場所]にこだわってはなかった。

むしろ近場でも、舞華と楽しく過ごせて、舞華の身体が癒える事が大事であった。

「困ったなぁ」

実はまぁやんが行きたかった新婚旅行は湯治旅行であった。

舞華の病が少しでも良くなることを願って…


「…なぁ、舞華」

茶碗洗い中の舞華にまぁやんが話しかける。

「ん?なぁに?」

「新婚旅行なんだけど…俺に任せて…くれない?」

「それはいいけど、行き先だけは一緒に考えようよ」

「うん…じゃあ、俺の話を聞いてくれるか?」

「ちょっと待ってね」

舞華は洗い物を終えると、お茶を淹れてから、ソファに座った。

「はいっ!お待たせ!」

「おう。俺な、海外旅行はやめる」

「えぇ!どうして?私の病気のため、気を遣って…」

「違う!それは断じて違う。お前はもう俺の嫁さんなんだ。気を遣うことはしない」

「だったら…」

まぁやんは舞華が言おうとしたところでそれを制止させた。

「なぁ、俺は別に海外には全くこだわってないんだ。俺が大切なのは舞華、お前だよ」

「まぁやん…」

「俺が行きたかったところは湯治だ。お前の病気が少しでも良くなることが、俺の一番なんだ。わかるか?」

「うん」

そう言ってまぁやんは舞華の手を取った。

「ふたりでさぁ、時間忘れてのんびり過ごすのも良くないか?爺さんみたいか?」

「ふふふ。まぁ爺だね」

「そうだな。まい婆」

『ふふふ…あはははは!』

ふたりは心の底から笑い合った。


ふたりの新婚旅行は湯治巡りに決まった。

調べた湯治場でゆっくり温泉に浸かって、そしてまた違う湯治場へ向かう。

若いふたりには似合わない新婚旅行ではあったが、彼らはとても楽しそうに…まるで付き合いたてのカップルの様に…仲良く過ごしていた。


そして2週間の新婚旅行も最終日を迎えた。

「舞華、何か俺にして欲しい事あるか?」

「して欲しいこと?」

「あぁ!なんでもいいぞ!今日の俺はお前の下僕だ」

「な〜んかその表現に違和感があるけど…ん〜…あっ」

「何かあったか?」

舞華は顔を真っ赤にしながら

「いや…やっぱいい…」

と拒否した。

「何だよ!今思いついたんだろ?早く言えよ」

「…笑わない?」

「笑わないよ」

「…絶対約束?」

「あぁ!絶対約束だ」

舞華は俯いたまま、小さな声で

「お…お姫様…抱っこ…」

「え?聞こえない。はっきり言えよ」

すると舞華はまぁやんの耳元で大きな声で

「だから!お姫様抱っこだってば!」

「耳痛っ!何だよそれ」

「だってさ…恋ちゃんにはしてくれたんでしょ?」

頬を膨らませ、むすぅっとした表情で舞華は言った。

「はぁ?恋にそんな事したっけ?」

「恋ちゃん言ってたよー!助けてもらった時にしてもらったって」

「あぁ〜。いや、あん時はさぁ。状況が状況なだけに」

「いーえ!状況なんて関係ありません!したか、しなかったかの事実の問題です!」

「どしたんだ?舞華。恋にヤキモチか?」

「恋ちゃんは妹なの!妹が経験したことを姉が経験していないというのは不公平だと思います!」

手を上げて高らかに舞華は言った。

ほんとに不公平なのかどうかは別として、舞華は真剣ですあった。

「わかったよー。今度ね」

「今度っていって、はぐらかす気でしょ!」

「ちょっと!俺トイレ!」

「んもう!」

舞華は膨れてツンっとした。

まぁやんはトイレに向かおうとしたが、

「トイレに行くと見せかけて!おりゃ!」

まぁやんは膨れてしまった舞華をひょいっと持ち上げた。

「きゃ!びっくりした!」

まぁやんは舞華をお姫様抱っこして

「こういうのって、するよって言ってやるもんじゃないだろ?突然やるからいいんだ…なっ」

「…すごく…照れる…」

「何言ってんだよ。自分から言っておいて。ほれ、こっち見ろ?」

「ん?」

まぁやんは舞華に口づけをした。

「まぁやん…」

「舞華、愛してるよ。俺がお前の人生全て背負ってやるからな。だから…ヤキモチなんて焼くな。俺にとっては何に換えてもお前が一番だ」

「ば…ばぁやん…」

舞華はまた大号泣して、言葉にならなかった。

「ばぁやんって何だよ!ふふふふ…」

「だってぇ〜ずてきなごどいうかだー」

(だってぇ〜素敵な事いうからー)

「わぁーたから!もう泣くな!」

「ぐず…う、う、う、」

「ほんと泣き上戸だな。まぁそんなとこが可愛いんだけどね」

「ほんど?ほんどにそうおぼうど?」

(ほんと?本当にそう思うの?)

「もちろん。だから…」

そう言って、まぁやんは舞華を優しくベッドに寝かせた。

「まぁやん…」

「おっ!泣き止んだか?この泣き虫が!」

「まぁやん…私…うっ」

舞華が何かを言いたそうだったが、まぁやんがキスで塞いだ。

「舞華、抱くぞ…」

舞華は静かにコクっと頷いた。

その夜、ふたりは…

  熱烈に愛し合った…

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