第2話 転生先は推しの悪役令嬢でした。

「お嬢様⁉もう起きられていたのですか?」

 入って来て早々侍女さん、容姿から言ったらメイドっていった方がいいかな?がこちらが驚いてしまうほどに驚かれてしまって、朝から心臓に悪いよ。


「おはよう。えーっと……名前何だっけ?ゴメン、忘れた。」

 と、素直に謝った途端。彼女の顔に驚愕の色が色濃く出ていた。

 ほんとにごめんね。人にあったら彼女の記憶とかから情報が出てくると思っていたんだけど、まったくなんですけど?小説とかそうやって、周りの人たちの名前とか分かるじゃない?結構そういうシーンあるもんね。けど、今回はそういうことはなかった。


「あわわわ⁉お嬢様が私のことをお忘れになってしまった⁉ど、どうしましょうか!?」そういえば、彼女さっきから挙動不審。私が悪いんだけど。

「お嬢様!」

「はいぃぃ!?」いきなり呼ぶな、メイドA。名前が分かるまでそう呼ぶ。

「お嬢様はご自身のこと等も分からないのでありますか!?」

 なんか言葉遣い変?それはいったん置いておこう。

「そう……だねぇ。まず『私は誰?』って質問したらよかったか。」とつぶやいたとたん、余計にメイドAさんが狂ってしまった。


 大急ぎで部屋を出ていったかと思ったら、すぐに戻ってきて後ろに人ぞろぞろ侍らして帰ってきちゃった。

 一番前にはさっきのメイドAでその後ろに医者らしき人と?

 今の私と同じラベンダー色の髪持ちもいるなー。多分家族なんでしょう。

 メイドAから皆話を聞いたんだな?ものすごく悲しそうな顔をしている。


「ヴェア!俺が誰かわかっているだろ!?そんな小芝居して父上や母上を困惑させるな!」と力いっぱいに怒鳴っているのは多分兄であると思しき青年。髪も瞳も同様に紫色。

 うーん、分かるだろと申されましても申し訳ないくらいに『お前誰なん』状態になってます。それが顔にもろに出ていたのでしょう。母親らしきご婦人が、

「ちょっと!ヘルト!妹に対してどんな口の利き方なの⁉ ごめんね、ヴェア。気にしないで。」とか言ってますけど、あなたの方がどうかしたほうがいいんじゃない?私の隣に座って頭なでられているのは良いんですけど、その頭上で彼女が彼を睨みつけているのはどうしたらいいですか?

 因みに、睨まれている青年は、怒りなのか悲しみなのかはわからないけれども、手を握って全身が小刻みに震えている。多分泣きそうなのをこらえているのだと思う。可愛いとこあんじゃん。


 それにしても、先ほどからみんなが言ってるヴェアという私を指すのであろう呼び名も、兄である青年:ヘルトの名もどこかで聞いたことがあるんだけど……

 それがどこなのかが分からない。


 落ち着いて振り返れば、この部屋も見たことある気がするし。

 ……うーん。もう少しで何の世界観に居るのか。もとい、私が今誰に転生しているのか分かりそうなんだけど?


 えーっと?

「お嬢様……。ガレナ・ヴェア・オルタンシア様……。私の大好きな憧れの人なのにー…。」と急に泣き出したのは先程までメイドAと言っていた可憐なブロンドヘアーと紫紺の瞳を持ったメイド:アーリントン・パソナ 愛称:アリンがそうつぶやいた。

 その言葉を聞いたとき、一瞬で体の力が抜けていくのを感じた。

 一気に青ざめてしまった私に、慌てふためくアリンやその他の従業員。後ろで終始泣いているだけの父親。そして、私が彼女の憧れの人だということなどは、今はどうでもいい。そんなことは今私の眼中に一ミリも入っていない。


 問題は、彼女の発言で発覚した私が転生してしまった人物だ。

 ガレナ・ヴェア・オルタンシア

 彼女は、私が現世で遊び倒していた乙女ゲーム【ときめき・ロイヤルロード】略して【ときロイ】の中に出てくるキャラクターだ。一言付け加えると私の推しだ。

 藤の花のように麗しすぎる紫色の髪とサファイヤのように輝いている瑠璃色の瞳を持ち合わせている美少女だ。

 彼女の家は人によって濃さは変わるが紫紺の髪が大の特徴である侯爵家だ。


 つまり彼女を一言で表すと、『容姿端麗・権力も十分・財力も申し分ない、そんなオルタンシア侯爵家の令嬢』なのだ。


 なら、喜べばいいではないかと思うかもしれない。

 私だって本当は彼女のような美少女になれてうれしい。

 しかしながら、彼女にはゲームキャラクターならではの悲しき運命がある。

 それは、乙女ゲームではメイン攻略対象とされる皇太子の婚約者で、プレイヤー即ちヒロインを虐めて邪魔する、ラスボス的な悪役令嬢様なのだ!!!!


 おまけに、全攻略ルートを制覇した私だから言えることだが、彼女の婚約者である皇太子の攻略だけでなく他のキャラクター攻略のバットエンド・ハッピーエンドにかかわらず何かしかの理由で死んでしまうのだ!


 この人は必ず死んでしまうキャラクターなのである。

 だが、私は死にたくなんかない!!!!

 これは絶対である。

 現世で一回アル中かなんかで死んでるのに、転生先でも死ぬなんて絶対ゴメン何ですけど!

 なので、この世界では死なないように生活していきたいのです。


 どうしよう…。

 そういえば今いつ?分かんないや。

 これじゃあ死亡フラグ回収できないじゃん⁉

 ということで、今でも困惑状態にある人たちをどうにかして今までの状況を確認しなきゃ。

 そうじゃなきゃ、私は二度目の死を迎えてしまう。それは何としても阻止しなくては!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る