チャプター3:グラヴィティ・ネオ

 パトカーに乗り込んだ俺はエンジンをスタートさせ、大通りへと飛び出す。

 よく考えろ。安倍たちより先に【勇者の剣】を手に入れるのは大前提だが、まずは相手の動きを読むんだ。

 安倍のやつは俺と鈴が他の警察官同様に再起不能だと思っているはず。これは大きな隙になる。奇襲のチャンスだ。

 ここでうまい具合に観客視点(ザ・ヴィジョン)が発動。右目と左目の視界の違いで事故を起こさないよう気をつけながら、俺は左目に映る映像へ意識を向ける。


   《観客視点(ザ・ヴィジョン)発動中》


 安倍たちは億世橋署から奪ったらしいパトカーに乗って移動していた。安倍が運転し、助手席にセイヴ。ジャンベリクは後部座席にそのデカイ図体を無理やり潜り込ませ、首や身体をひ

ん曲げて天井を突き破らないようにしている。

「【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】の在処へ行く前に、神父様(、、、)に会わせてもらえるかい?」

 安倍が女を誘惑するかのような甘い言い方でセイヴに問う。

「それが剣の在処を教える交換条件?」

 と、手の甲に這わせたエメラルドグリーンの蜂を見つめるセイヴ。

「察しがよくて助かるよ。僕の話を聞けば、彼は必ず僕たちに力を貸してくれる。彼の意思能力(フォース・オブ・ウィル)と【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】が合わされば、例え魔王が相手でも負けないくらい強力な戦力になるからね。そうなれば、君と神父様の理想(、、)へより近づける」

 安倍の言う神父様とは、孤児のセイヴを養子として育て、彼女に宿った意思能力(フォース・オブ・ウィル)を利用して悪事を企む黒幕だ。本当ならパート2のラスボスとして登場するはずなのに、安倍め、パート1の内に接触を図って自分の協力者にするつもりか!

 よほどかっ飛ばしたのか、車は早くも新東京都郊外にある教会へとやってきた。

 この教会は閑静な住宅街の中に広大な敷地を有し、首都で一、二を争う規模の大聖堂がある。

 間違いなく、件の神父がいる場所だ。けど、パート2で登場するキャラクターがそう都合よく現れるだろうか?

「それも全部てめェの能力とやらで知ったことなのかァ? 本当なんだろうなァ?」

 パトカーから降りる二人に続いて、そこらじゅうに青い地毛を擦りつけながら捻り出たジャンベリクが言う。

「今のところ、彼は価値のある情報をくれているわ。もう少し使ってみましょう?」

 セイヴはそう言って、大聖堂のドアを押し開けた。

 無数の長椅子が規則正しく並ぶ大広間を、見上げてしまうほどに高い天井が覆うドーム状を成した屋内。

 黒い法衣に身を包んだ痩せ型の男が、立派な司教座に相対する形で両膝をついて祈りを捧げていた。視界は彼の背中を映すのみで正面に回ろうとしない。だから顔は見えない。

「神父様、ただいま戻りました」

 と、セイヴは神父の背に向かって言い、その場でお辞儀をする。

「――随分早く戻りましたね。あなたがこの施設を巣立って半年。理想へ近づくことはできましたか?」

 振り返ることなく、神父が言う。渋みのある低い声だ。

「いいえ、神父様。教わった通りに資金集めから始めたのですが、邪魔が入ってしまって、うまく進んでいません」

「焦りと怒りを認め、そうしたあとで受け流しなさい。脳のリソースを取り戻し、見るべきものを見落とさないようにしなさい」

「教えの最中に失礼。あなたがスカージ神父ですね?」

 セイヴと神父の会話に、安倍が割って入る。

 ヴィンセント・スカージ。それが神父の名前だ。

「僕は安倍十吾と言います。あなた方の理想への到達に有力な情報を持ってきました」

「……どこの誰か存じませんが、なぜ私たちの理想のことを知っているのです?」

 少しの間を挟んで、スカージが問う。

「彼は未来を見る能力を持っていて、私たちに協力するというので連れてきました。妙な真似をしたらいつでも始末できますので、話だけでも聞いて頂こうかと」

「ほう? 話とは?」

 セイヴの仲介に、スカージは顔を僅かに振り向かせる。耳につけた十字架のピアスが銀に煌めいた。まだ顔はわからない。

「【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】の在処を教えます」

 単刀直入に安倍は言った。

「おお! 信じ難いことが起こりました! ……主よ、恵みに感謝致します」

 言って、スカージは立ち上がる。

「――その話、詳しく聞かせて頂けますか?」

 彼はゆっくりと振り返る。そして顔が明らかになる瞬間――。


《観客視点(ザ・ヴィジョン)終了》


「――なんだよ! なんで途中で止まるよ⁉」

 俺の左目は通常の視界に戻り、それ以上連中のやり取りを見られなくなった。

 まずい。スカージまで安倍たちのパーティに加わったら、戦力差は天地の差になる。

 ただ一つ幸運なのは、連中はまだ【剣】の在処には到着していないってことだ。

 俺はタイヤを鳴かせ、交差点でハンドルを切る。

 向こうが戦力を増やしているなら、こっちも増やす。他の警察署に行って事情を説明して増援を呼ぶのは無しだ。【異能課(ウィルセクション)】自体、配置している警察署が少ない。つまり連中に即応できる意思能力(フォース・オブ・ウィル)使いがいないんだ。そんな中、他部署の警察官を集めたところで、敵の意思能力(フォース・オブ・ウィル)にやられてしまうだけだ。

 俺はある建物の前で車を急停止させた。

 そこは、【八咫烏(やたがらす)】の秘密の詰所がある、洋風の白い外観が洒落(しゃれ)たレストラン。

 この状況下で話がわかって、力になってくれる人物を、俺は一人だけ知っている。

 鴉春介渕(からすばるかいえん)。さっき俺と鈴のピンチを救ってくれた男だ。

 何を隠そう、彼こそが【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】の在処を知る人物なのだ。安倍のやつはこの映画を見て、剣の在処を大体把握しているから、いちいち介渕を訪ねる必要はないと考え、あ

えて別のラスボス級キャラクターを味方につけようという魂胆なのだろう。

 だがな、安倍よ。俺の左目の能力は不規則ではあるが、ハマれば相手の行動や考えを丸裸にできるメリットがあるんだぜ? お前の行動は全部丸見えだ!

 安倍が敵のボスキャラを仲間にするなら、こっちはこっちで頼もしくも謎めいた助っ人を仲間にしてやろうじゃないか。俺一人で【剣】の在処に先行して、万が一【剣】を手に入れられなかったときの保険だ。味方についてくれるかどうか不安だけど。

 このレストランは確か、ドレスコードのある敷居の高い店だったはず。入り口に張ってるガードマンがカードを一枚裏向きに見せてきて、そこに書かれた絵柄を答えられなければ門前払いになるという徹底ぶり。会員制か何かで、会員には事前にカードの絵柄の情報が伝わっているんだ。要するに、絵柄を言い当てることが会員証を見せるのと同義ということ。

 俺はミリタリーシャツにデニムという私服姿で、しかも戦闘を掻い潜ったあとだから所々汚れてる。この時点で外観はアウトだろう。

 だがな、こっちにはこの映画を熟知しているというチートがあるんだ。パート2で鈴がこの店を訪れた際、ガードマンが鈴に裏向きで出したカードの絵柄――俺はそれを覚えてる!

 カードの絵柄を言い当てさせるとか回りくどいことしてないで、単純に会員証を提示させるシステムにしておけば俺に突破されることはなかったものを。ククク。

 ふとレストランの窓ガラスに映った自分を見て気付いたが、俺は悪役みたいなゲス顔になっていた。

 慌てて顔を揉み解し、恵比寿様みたいな笑顔で正面入り口へと向かう。

「お客様、失礼致します」

 そう言って、ふさふさの黒い体毛に覆われた、屈強で縦にも横にもデカイ馬の顔をした獣人のガードマンが入り口に立ちふさがり、やはり一枚のカードを俺の眼前に出してきた。蹄(ひづめ)の手に器用に挟んでる。随分と柔軟性のある蹄ですなぁ。

「二匹のウサギ」

 即答した。トリックスターは安倍だけじゃない。

 俺は得意顔で進もうとしたが、次の瞬間首根っこを掴まれ、

「許可の無い者を通すわけにはいかない」

 そんな風にいわれて、路上にゴミみたいに投げ捨てられた。

 ……そうですよね。絵柄がいつも同じなわけないですよね。

 こうなれば必殺の警察手帳だ。あまり目立ちたくないから飽く迄一般客を装いたかったけど止むをえない。

「警察だ。中に会いたい人がいる」

「通れないとわかったら警察のフリか? 馬をからかうもんじゃないぞ坊や」

 絵柄を外したことで警戒心を持たれ、警察手帳を見せても信じてもらえないどころか、成人

済みなのに坊や扱いされた。警察官の制服だったらまだ説得力があったかもしれないが。

「俺は本物のお巡りだ。この手帳が目に入らぬか!」

「よくできてる手帳だな。徹夜で自作したのか?」

 また首根っこを掴まれ、入り口の横に広がる切り揃えられた生垣にゴミみたいに捨てられた。

「――こっちは急いでるんだ! 公務執行妨害で逮捕するぞ!」

「ならこっちは営業妨害でお前を訴えてやるぞ」

 ぐぬぬぬぬ。ならばいいだろう、手錠掛けてやる! ……手錠持ってないわ。

「わかった、冗談だよ。今度はちゃんと言い当てるからもう一度カードを出してくれないか?」

 俺が仕切りなおすと、渋々といった様子でカードを出すガードマン。

「おい、後ろに不審者がいるぞ」

「ッ⁉」

 ガードマンがまんまと俺に騙されて背後を振り向いた瞬間、

「だりゃァアアアアアアア‼」

 俺は渾身のグーパンを彼の後頭部にお見舞い。吹っ飛んだガードマンは壁に頭を強打してバウンド。跳ね返ってきたところを、

「どりゃァアアアアアアア‼」

 再度俺のグーパンで打ち返し、それを五往復くらいリピートした。

 たんこぶだらけになって失神したガード馬(ウマ)ンを生垣にゴミみたいに捨てた俺は何食わぬ顔で入店を果たす。暴行罪? ノンノン。ディス・イズ・公務執行!

 お昼時なこともあり、店内はそれなりに賑わっている。どの客も高そうなスーツに身を包み、お上品な雰囲気を漂わせている。

 一人だけみすぼらしい格好の俺は極力目立たぬよう、自然体且つやや早く歩いてカウンターへと向かう。

「鴉が見たい(、、、、、)。いつものを頼む(、、、、、、、)」

 気品のある笑顔を向けてきたウェイターの姉ちゃんにそう注文する。確か鈴がそんな風に言ってたんだ。

 すると、ウェイターの姉ちゃんは「畏まりました。こちらへ」と、俺を店の奥にあった扉へ案内した。姉ちゃんが扉を開けると廊下が横に伸び、その先に地下へと降りる階段があった。木目の艶々した廊下は薄暗いオレンジの照明で照らされ、昼間だというのにナイトクラブに来たような気分になる。

「階段を下りた先にお部屋がございますので、ノックを二回、一回、二回とお続けください」

 と、姉ちゃんは満面の笑みでお盆を差し出してきた。

 俺はパート2で鈴が手錠をそのお盆に載せていたのを思い出し、代わりに銃を載せた。

 これは、怪しいものを没収する工程だからな。

「――ごゆっくりどうぞ」

 俺は足早に階段を降り、木製の重厚なドアを言われた通りにノックした。

「――入れ」

 男の声がしたので入室すると、そこは西洋を思わせる絨毯や調度が並ぶ、三十帖はあろうかという部屋だった。

 その最奥に置かれた木製のデスクの前に、介渕はこちらに背を向けて立っていた。

 さっき会ったときとは違って、細身の白シャツとトラウザーズに革靴という紳士的な姿だ。

「あんたが捕まえた野郎どもはどうしたんだ?」

「統括委員会に身柄を引き渡した。今頃は首都統括(とうかつ)センタービルに搬送されているはずだ」

「そうか。それじゃあ仕事はひと段落ついたわけだな?」

「そっちはセイヴを確保できたのか?」

 振り向いた介渕の顔は黒い面頬に覆われたままで、素顔はわからない。

「そのことで頼みがあって来た。セイヴの能力で億世橋署のみんながやられた。動けるのは俺一人だけだ。どうにかしてセイヴを止めないと、もっと酷いことになっちまう。あんたの力を借りたい」

「……マクレーンは?」

「鈴もダウンしてる。戦い続きでエネルギー切れだ」

「精鋭の異能課(ウィルセクション)が一人の能力者相手に壊滅とはな。これは警察組織の信用に関わる問題だぞ」

 介渕は徐(おもむろ)に戸棚から鮮やかな褐色をした液体入りの瓶とグラスを二つ取り出し、部屋中央の大きな丸テーブルに置いた。

「セイヴは無数の蜂を操る能力者で、署のみんなの不意を突いたんだ。他にも協力者がいて、どうしようもなかった」

「協力者とは?」

 瓶の中身をグラスに注ぎながら、介渕が聞いた。

 俺は介渕に事のあらましを打ち明けた。俺と安倍の二人が別の世界から来たということや、先の展開を見通す力があるということ。そして【勇者の剣】が狙われていることを。

「……【勇者の剣】の継承者がまだ残っていることを、どこで知ったんだ? セイヴがそれを狙ってるのか?」

 介渕は意外にも、俺が別の世界から来たということよりも、件の剣を俺が知っていることに驚いたようだった。それとも、別の世界から来たくだりはただ単に全く信用せずにスルーしただけかな?

「映画で、――じゃなくて、俺も安倍と同じように、未来を見たんだ。あんたが俺を剣の隠し場所に案内してくれる場面をな。言っておくけど、俺はヤク(、、)なんてやってないからな? 頭は正常で、全部本当のことを言ってる」

 ここが映画の世界だということは黙っておいた。あまりにも話がぶっ飛びすぎると、信憑性

を著しく失うことを鈴や署長とのやり取りで学んだからだ。

「【八咫烏(やたがらす)】は統括委員会の命令で動く。任務以外の物事には干渉しない。お前たち警察が光なら、俺たちは影だ。影は光がある限られた場所で限られた分だけ動き、それが済めばすぐに身を潜める。つまり、外部の人間の指示では動かない。お前に力を貸すということは、俺が個人的理由で動くことになる。この場合、【八咫烏(やたがらす)】としての権限は行使できない」

「何か特別な権限でも与えられてるんだっけ?」

「あらゆる公務と業務に干渉する権限や、器物破損免除などがある。それらはすべて、【八咫烏(やたがらす)】がこの国の機密を最優先で守るための組織たる所以だ」

 それは初めて知ったぞ。

「それじゃあ、戦闘状態に陥ったときに物をぶっ壊しても、責任を問われないってことか?」

「そうなるな。筋の通る理由が必要にはなるが。だが、それは権限が適用されればの話だ」

 なるほど。今回俺に協力した場合は一般人と何ら変わらない扱いになると。

「――下手に動いたら、あんたの首が飛ぶ可能性もあるか……」

「下手に動かなければいいだけだ。……飲め。体力をある程度回復させる秘薬だ。景気付けにもなる」

 介渕は言って、グラスの片方を俺に差し出した。頼もしいったらないぜ。

「ありがとう」

 俺はグラスを受け取り、介渕と同時に一気に呷(あお)った。冷たく、ワインに似たやや甘酸っぱい味わいだ。喉を通過してじわりと体内に染み渡り、仄かに身体が火照る感じがする。

「お前の話を聞く限り、すぐにでもここを飛び出すべきだが、何事にも順序はある」

 グラスを置いた介渕が、黒い瞳で俺を射抜くように見た。

「協力してやるのは構わないが、交換条件として、お前の能力の詳細を教えろ」

「知ってどうするんだ? 俺の能力は不安定で、連携しようにも思うようにはいかないぞ?」

 俺の言に介渕は首を振り、

「能力を発動しているときのお前の目が似ているんだ。勇者の【眼】に」

 気になる言葉を発した。

「似ている? 俺の左目が? 確か勇者の顔って、はっきりとした記録は残っていないんじゃなかったか? 肖像画の一つさえ無いって話だと思ったが、あんたは勇者の顔を見たことがあるのか?」

 百年前、魔王討伐を果たした勇者はどういう心情によるものか、名誉や名声を求めず、それどころか自分の姿を後世に残さないことを望んだと言われている。現代になって、彼の功績こそ文章として残されているものの、その容姿に関する記録はどこにも無いのはそのためだ。

「……質問は今こちらがしている。お前は答える側だ」

 介渕は謎めいたキャラだ。各シリーズに登場しては、意味深な台詞を残している。けど、こ

ちらが詳しい説明を求める度、濁して去ってしまう。彼のキャラクター性に関する映画の設定

なのか、物語の重要な秘密は言えないのかも。

「――俺の左目は、別の光景を見ることができる。映画を撮影するカメラみたいに、いろいろなアングルから、右目では見えないものを見ることができるんだ。ただし、発動のタイミングや持続時間はランダムで、制御できない。さっきわかったんだが、強い衝撃を受けると能力が解けるみたいだ」

「見えないものを見られると言ったが、何が見えるんだ?」

「主には、今言った別のアングルからの映像だ。あと、見たものをスローモーションで捉えたり、意思能力(フォース・オブ・ウィル)のステータスを見ることもできる」

 介渕の目が細められる。

「まさかとは思ったが、彼のものとほとんど同じだ……」

「え? 同じ?」

「勇者が有していた能力の一つと、お前の能力が同じなんだ。お前は一体何者だ? 育ちはどこだ?」

 またしても俺の知らない情報だ。勇者の能力と俺の観客視点(ザ・ヴィジョン)が同じ⁉

「――育ちは千葉だ。どこにでもある平凡な家庭で平凡に育った。純粋な日本人だよ。ここじゃない、別の日本だけど……」

「お前からは嘘を感じない。勇者の血筋とは何の関りもないのか? その能力はどこで、いつ発現した⁉」

 クールな印象の介渕が、語気を強める。

「関りなんて一ミリもないさ。この能力はつい先日、急に発現した。理由は自分でもわからない。……まさか、俺が勇者から能力を継承したとでも?」

「その線も考えたが、あり得ない。勇者は魔王の能力がもとで死んだ……」

 その線も(、、、、)って、……とっくの昔に亡くなった勇者本人がまるで生きている可能性でもあるみたいな言い方だな。

「だが、お前が能力を発現しているのは事実だ。お前には【剣】を継承する適性があるのかもしれん。その安倍という男かセイヴか、いずれにせよ悪用しようとしている輩から【剣】を守るには、連中よりも先に【剣】を彼(、)から継承するしかない」

 介渕が【彼】というフレーズをしゃべったぞ。

「――その彼(、)のところまで連れて行ってくれ。俺の能力についてちゃんと教えただろ?」

 俺の要望に介渕は――。

「【剣】は彼(、)が認めた者のうち、何らかの適性を持った者にのみ継承権が移る。お前が適性の部分をクリアしていると仮定するなら、あとは彼(、)を説得すればうまく継承できるかもしれん」

 腕を組んで目を閉じ、算段をつけたのか、

「――ついて来い」

 黒のジャケットを肩にかけて部屋の扉を開け放ち、地上への階段を上がっていく。

 俺は鈴やみんなの無事を祈りながら、彼に続くのだった。


   ★(ホシ)


 介渕が向かった先はレストランの屋上だった。

 そこで彼は肩掛けしていたジャケットをバサッ! と横に振るった。すると黒のジャケットが、大きな黒い翼へと変化。介渕の片腕と同化した。

「この翼にくるまれ。移動する」

と、介渕は鴉さながらの翼を広げる。

「わかった」

 俺は言われた通りじっとして、介渕と共に黒い翼にぐるぐるとくるまれた。頭から足まですっぽり覆われ、視界も塞がれて思わず目を閉じた。羽毛の肌触りはまさに羽そのもの。ジャケットの生地感は微塵もない。

 前触れなく足が地面から離れる浮遊感と共に、激しい風が通り抜けたような騒音がした。だがそれはほんの一瞬のことで、次の瞬間には足が着地し、騒々しさも収まった。

 翼が解かれ、周囲の光景が明らかになる。

 そこは広大な広場で、前方に大きな建物があった。中央にベルサイユ宮殿を模したようなドーム状の建物を据え、両脇に三階建ての四角い建物が隣接している。新東京都内にある、国内一の大きさを誇る国立博物館だ。

これは本来の展開通りだが、本当ならこうして移動するのは俺じゃなくて鈴だ。

「――継承者はこの中にいる」

 翼から元に戻ったジャケットを羽織り、何事もないかのように介渕が言った。本人は慣れてるから当然かもしれないが、俺は一瞬にして長距離を移動した経験なんてないから、未だに実感が湧かない。目の前の光景は幻じゃないよな?

「幻じゃない。本物だ」

 考えを読まれた。

他人を自分の命令に従わせたと思ったら、翼を出して空間跳躍(ワープ)みたいなこともやってのけるうえに感情まで読み取る。謎多き彼の一番の謎、――それは能力の正体だ。

「あんたの能力って、一体何なんだ?」

「それは極秘扱いだ。基本的に、一人の人間が発現する能力は一つだけだが、他人から継承したり特殊な適正を持つ者は必ずしもそうではない、とだけ言っておく」

さすがに教えてくれはしないが、能力を複数持っているかもしれないことはわかった。

俺も発現するなら空間跳躍(ワープ)がよかった。便利だし酔わないし……。

 休館日なのか、博物館の周囲に人影はない。これはチャンスだ。人目を気にせず動ける。

 介渕の能力で詰所の管理人に協力を仰ぎ(、、、、、)、閉館中の管内へと入った俺たちは、地上五階分はあろうかという高さを誇る、宮殿的なドーム状の中央展示ホールにやってきた。ここは床から天井までが吹き抜けになっており、広大な空間が強調されている。

 ホールの中央には、電話ボックスほどあるガラス張りの展示ケースが置かれ、一枚の青黒い古びたマントが金属製のマネキンに着せる形で展示されていた。

「あれが勇者のマントか?」

「ああ。アメリカで(、、、、、)回収されたものだ。あのマントに継承者の意思が宿っている」

 俺の問いに、介渕はそう答える。

 この青黒いマントは、百年前に勇者本人が魔王討伐の旅で着用していたもので、世界を救った英雄の形見ということで展示されている。そしてこのマントに、件の【継承者】の意思が宿っているらしい。勇者と魔王の戦いはこの日本で行われたはずだけど、マントはどうしてアメリカにあったんだ?

「話しかけてみろ。意思能力(フォース・オブ・ウィル)を持つ者だけが、彼と対話できる」

 映画本来の展開では鈴に言っていた台詞を、介渕は俺に言った。

「ここまでは、俺がこの目で見た通り(、、、、、、、、)の展開だ」

 言って、俺は展示ケースに一歩近づく。ホール内にいるのは俺と介渕だけなのを確認してから、映画で鈴がやっていたのを真似てマントに話し掛けた。

「聞こえるか? 俺の姿がわかるか?」

 継承者も元々は意思能力使いで、自分の意思を物に宿すことができる能力を持っていた。

『……ああ、見えてるぞ。実体が無い状態で見えてるって表現が妥当かどうかは知らねぇがな』

 と、どこからともなく声が聞こえた。独特のイントネーションがあるダミ声だが、違和感なくすらすらと聞き取れる。

 このタイミングで俺の左目に変化。能力発動だ。マントの後ろに背後霊みたいにしてうっすらと浮かぶおっさんの姿が見えるようになった。坊主頭で、タンクトップの白シャツに、履き古したデニムに素足という姿。

「――あ、あんたは!」

 俺は思わず声を上げた。ここは本来、声しか聞こえないはずの場面だ。だから話し手の正体が誰なのか、映画を見たファンの間で憶測こそ飛ぶもののはっきりしていなかった。それがまさか【彼】だったのか!

『名乗るほどのモンじゃねぇよ。ニューヨーク市警でこき使われてたただの警部補だ』

【彼】の名はJ・マクレーン。ある事件現場で発見された幼い鈴を養子として引き取り育てた

男。鈴の義理の父親だ!

「お、俺は磨田栄治。日本の千葉――いや、今は新東京都で警察官をやってる者だ。会えて光栄だよ」

 警察手帳を見せつつ自己紹介。

『俺に話し掛けてくる奴なんざここ数年いやしなかった。介渕、お前さんの入れ知恵か? なにしに来た?』

「【剣】を狙っている奴らがいてな。あんたならそんな連中に継承なんてしないのは勿論わかってる。だが、相手の能力が未知数な分、何が起きるかわからない。あんたが攻撃される可能性だってあるんだ。だから先にこちらで引き取らせてほしい。そうすれば、あんたに危険が及ぶことはない」

 と、介渕。彼にはマクレーンの姿までは見えないのか、目を合わせての会話ではなく、周囲を警戒しながら声だけ聞かせている感じだ。

『狙ってるぅ? 目ん玉飛び出しちまうような別嬪さんなら大歓迎ってもんだが、どうせまたわけのわからねぇ荒っぽい連中が控えてるんだろ? 全員ホモかってんだ! 俺が災難に遭うときはいつもそうだ! まさかとは思うがまた勇者の野郎(、、、、、)が噛んでるんじゃねぇだろうな⁉ 俺と刺し違えてもしぶとく隠れてやがるあのクソタレが!』

 と、早口で捲し立てるマクレーン。いろいろ溜まってるな。彼がここで【剣】の守り人みたいなこと始めたのは殉職してすぐだろうから、もう十年以上になる。そりゃ愚痴も溜まるわな。

「今回は勇者じゃない。どうも【剣】の在処がわかる能力者が現れたらしくてな。その能力に目をつけた犯罪者たちが手を組んで、もうすぐここにやってくるという話だ」

『悪いが、会ったばかりの坊主においそれと継承してやれるような代物じゃないんだ。本音を言うとな、俺の娘にやりたいと思ってる。今はまだそのときじゃねぇがな……』

 ここは本来なら、シリーズパート2で鈴が訪れる場所。そこに部外者の俺が無理矢理押しかけているからか、行われる会話が本来と違う。

「――マクレーン。あんたは勇者と戦ったのか? 今刺し違えたって聞こえたけど……?」

 思わず聞き流すところだったが、今しがたマクレーンはとんでもない発言をした。

 マクレーンは鈴がまだ小学生だったころ、アメリカ史に残る大事件を追い、テログループを丸ごととっ捕まえた際に負った怪我がもとで死んだという設定だったはず。それがまさか、勇者と刺し違えて死んでいたなんて初耳だ。

『ああ。かなり前になるが、カリフォルニアで戦った。奴が自分のことを勇者だと言っていただけで、本物の勇者かどうかは判別しようがねぇが、【剣】を使っていやがったのは確かだ』

「もしこの青年には渡せないというのなら、ここで敵とやり合うことになる」

『やり合うぅ⁉ ――ついてないぜ。この期に及んでまだそんな面倒事が回ってくるのかい。くたばってからも狙われるなんてオチ、誰が考えやがったんだ?』

 介渕の言にがっくりと項垂れ、いつもの軽快なボヤキを吐くマクレーン。

 だけど、大きな疑問が残る。勇者は百年前に魔王と戦い、そのときに受けた傷がもとで死んだとされている。マクレーンが生きた時代よりもずっと過去の人物だ。その勇者とマクレーンが戦った? どうなってるんだ?

「勇者は百年前の時点では死んでいない。死んだことにしておいて、裏で生き続けていたんだ。それも日本から遠く離れたアメリカの地で、ほんの十数年前までな」

 俺の考えを読み取ったか、介渕が言った。マントがアメリカで回収されたのはこれが理由か!

「マジで⁉ 不老不死ってやつなのか⁉」

 衝撃の事実に、俺はつい聞き返した。

介渕は首を横に振る。

「確かに年は取っていなかったが、不老不死の能力を持っているのかはわからない」

 とすると、やはり【剣】の能力による可能性が高い。

「俺がお前の左目に注目したことには、勇者が生きていたという経緯があったからなんだ。お前が彼と何らかの関りを持っていて、能力を継いだのではないかとな」

 なるほど。だから大通りで初めて会ったときに、意味深な問いを投げてきたのか。

「どうして勇者は社会の表ではなくて、裏で生きてきたんだ? 魔王を倒した英雄だぞ? コソコソする理由なんてあるのか?」

 俺が言うと、介渕はふと周囲を見回した。

「――その理由を話すと、更に飛躍したことを教えることになるが、敵の動きも気掛かりだ。時間が惜しい」

 俺は左目に、博物館の外の景色を映すように念じてみる。すると、左目の視界が念じた通りに切り替わり、建物の正面入り口から周囲、そして建物全域を映し出した。やはり、発動のタイミングは操作できないが、発動中はある程度のコントロールが可能だ。

「……今はまだ大丈夫。連中は来てない。今の続き、話してくれないか?」

 介渕はマクレーンの反応を待つ。

『無暗に口外しない約束だが、お前さんが平気だと思ったんなら教えてやれ。俺もこの坊主のことを知る必要があるしな』

 マクレーンは肩を竦めて促した。二人の間で、勇者が生きていたことは極秘にすると以前に取り決めしていたのだろう。

「マクレーンが勇者に会ったとき、彼は姿こそ変わらないが、もはやかつての勇者ではなくなっていた。考え方や信念ががらりと変わって、別人のように冷酷な男になっていたんだ。彼は世界の崩壊を望んでいた。なぜそんな狂気に駆られたのかはわからないが、とにかく彼はマクレーンの敵という立場にあった」

 介渕の説明を聞いて、すぐさま気になることが出た。

「どうして勇者の姿がわかったんだ? 確か現代の資料には、勇者の外見は一切残されていな

いって設定――じゃなくて話じゃなかったか?」

「表向きはそうだ。だが俺のような裏(、)の人間の中には、顔を知っている者もいる。かつて勇者と共に旅をした仲間の子孫たちが存命だからな。憶測だが、勇者が自らの顔が後世に残るのを嫌い、様々な手を尽くしてまで記録を抹消した理由は、世界を滅ぼす己の計画を他者に邪魔されないためだと考えている」

 俺は言葉を失った。勇者はせいぜい、この映画の世界観をより深く壮大にするための演出役的なキャラクターだと思っていたのに、まさかここまで複雑な設定があったなんて!

『介渕の今の話は、事実をただ並べただけにすぎない。懸念しなくちゃならねぇのは、勇者の野郎と【剣】の行方だ。疑似継承(アクティング)ではなく、オリジナル(、、、、、)の方のな』

「裏で生きていた勇者を相手にあんたは戦って、同士討ちとはいえ、倒したんだろ?」

 俺の問いに、マクレーンは首を振る。

『最初はそう思った。だが、俺の下に疑似継承(アクティング)が残ったままな時点で違うとわかった。意思能力(フォース・オブ・ウィル)ってやつは基本的に、その持ち主がくたばっちまえばオリジナルはもちろん、疑似継承(アクティング)の方も消えてなくなるからな。だけどそれが消えてないってことは、奴は今も世界のどこかに隠れて、再起のときを伺っていやがるんだ。だからこっちも、奴がまた現れたときに備えておかなくちゃならねぇのさ』

 マクレーンたちが【剣】の残存を秘密にしてきたのは、情報を知った悪党がこの場所を突き止めて、次から次に【剣】の継承を求めてくる危れがあるからだったんだな。私利私欲で使いまくるために。

『こんな背後霊みたいな透(す)っけ透(す)けの状態になっても楽にはなれねぇ。【なかなか死なない(ダイ・ハード)】ってのが俺の能力名だ。まだ生きてるとは言えねぇが、死んでるとも言えねぇ。皮肉なジョークだぜ』

 でも、どうして勇者はわざわざ自分の切り札の力をマクレーンに疑似継承(アクティング)させたんだ? 自分の邪魔をしてきた相手に、自分の武器を渡しているようなものだ。

「【剣】には、独自の特別な制約があるんだ」

 と、また俺の疑問を感じ取ったらしい介渕が説明してくれた。

 彼によると、【想征剣(ヴァーデン・アイル)】には複数の能力と複雑なルールが備わっているらしかった。

【想征剣(ヴァーデン・アイル)】ルール①、【想征剣(ヴァーデン・アイル)】は、勇者本人のみが所有できる。ただし、勇者とその血族、そして勇者とその血族が認めた人物には疑似継承(アクティング)することが可能。

【想征剣(ヴァーデン・アイル)】ルール②、【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】の持ち主は、第三者に自分の【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】を継承することができる。継承が認められた場合、【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】の使用権は全て継承相手に移り、自分は一切の能力を失う。

【想征剣(ヴァーデン・アイル)】ルール③、【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】を持つ者は、【想征剣(ヴァーデン・アイル)】を持つ者を、自身

の能力の対象にできない。

『三つある条件のうち、三つ目が肝だ』

 と、マクレーンは言った。

 介渕が続ける。

「マクレーンに追い詰められた勇者は彼を脅威と判断し、彼に【想征剣(ヴァーデン・アイル)】を疑似継承(アクティング)させた。どんな手段を使ったのかまではわかっていないが、そうして【想征剣(ヴァーデン・アイル)】の力の一部を与えられたマクレーンに、【想征剣(ヴァーデン・アイル)】の三つ目のルールが適用された」

「つまりマクレーンは、【想征剣(ヴァーデン・アイル)】を持つ勇者を能力で攻撃できなくなったのか?」

 俺の問いに、マクレーンはため息を漏らす。

『ご名答。何が勇者だってんだ。あいつは卑劣な野郎だ。俺は武器を使った攻撃も、能力を使った攻撃もできなくなって防戦一方になった。だから最後の手段として、あいつをダンプカーで轢いた後、ブルドーザーですり潰して、そこへさらに武装ヘリで特攻したあとで石油タンカーを衝突させて中の石油ごとまとめて吹っ飛ばした。そうやってデカイ道具に頼った間接的な攻撃をするしかなかった。おかげで港一つ潰しちまったよ』

 マクレーンと勇者の一騎打ちまでは制作の予算的な都合か尺の都合か別の都合かで映像化されていないから想像に任せるしかないけど、さすがは鈴の義父だ。戦い方もスケールもぶっ飛んでる。オーバーキルにもほどがあるぜ。

「そいつは随分と派手な倒し方だな。ていうか、まだ完全に倒せてないとはいえ、よく善戦できたな! 【想征剣(ヴァーデン・アイル)】は最強クラスの意思能力(フォース・オブ・ウィル)だって言われてるぜ?」

『俺もなんで同士討ちに持ち込めたのかわからん。とにかく死なないために無我夢中だったからな。もうあんな思いは二度と御免だ。この【剣】を守る仕事だって、好き好んでやってるわけじゃない。他に誰もやる奴がいねぇから俺がやってるだけで、代わりがいるなら今すぐ交代してとっとと休みたいくらいだ』

マクレーンの使命は二つ。まず、悪い奴らの手へ渡らないように疑似継承(アクティング)を守ること。そしてまた勇者が現れて悪事を働こうとしたとき、自分が再度戦うため、然るべき相手へ疑似継承(アクティング)を託すことなんだ。――自分の娘に。そういう心情だったのか。

――再度戦うって言っても、肉体を失くしてしまっている彼には無理な案件だ。

「なら、尚更頼む。どうしても【剣】が要る。俺はあんたの娘さんの同僚なんだ。実は、件の悪党たちに億世橋署のみんながやられちまって――」

『なにぃ⁉ 鈴は無事なのか⁉』

 俺の言を遮って、マクレーンが青褪めた顔になった。ここに存在するようになってからというもの、マクレーンは定期的に訪れる介渕から、鈴の日常や成長を聞いて、メンタルの状態を保っていたんだ。

 その鈴や仲間たちがやられたと聞けば、取り乱して当然だ。

 俺は億世橋署で起きたことをできるだけ簡易に説明した。それまで左目は絶えず外の様子を

映してくれていたが、悪いことに、説明中に能力が切れてしまった。いよいよまずいな。もう

敵の接近を事前に感知できなくなったぞ。

『――ああ、わかったよ。そのセイヴって女の蜂をやっつけるか、セイヴ本人をやっつけるかすればみんなの目が覚めるわけだな?』

「だが、セイヴには協力者が少なくとも二人いる。ここに来るときはもっと手駒を増やしているかもしれない。そんな連中を迎え撃って勝つには【剣】の力が不可欠なんだ。あんたが十年以上続けてきた最後の仕事。――その納めのときだ」

 介渕にそう言われ、マクレーンは俺を見た。

『……お前に俺の娘を守れるか? 支えられるか?』

「俺は鈴の相棒(バディ)だ。時々殺されかけたりもしたけど、何度も助けてもらった恩がある。いろんな意味でな。それを返したいんだ。必ず助けてみせる」

 俺は鈴みたいな強い人になりたくて警察官の道を選んだ。もう守られてばかりの俺じゃない。今度は、俺が鈴を守る番だ。

『……わかった。信じてやるよ。今から言う通りにしろ。継承はすぐに終わる。まずは目を閉じてだな――』


「――継承はすぐに終わるのね? 手っ取り早くて助かるわ」


 冴えて潤いのある声がした。俺たちの背後――入口からだ!

 介渕と同時に振り向いた俺は銃を構える。眼前二十メートル先に立つ二つの影に向けて。

「セイヴ・ランバートに、ジャンベリク・デアリガズだな? 探す手間が省けた。お前たちは統括委員会のブラックリストに載っている。デアリガズは数多の犯罪行為、ランバートは自分の能力を、統括委員会が管理するデータバンクに登録する義務を果たしていないからだ。義務に例外は無い。全員に課せられるものだ」

「おいボス、あのスカした野郎をぶっ殺させてくれェ。義務なんざクソくらえだ!」

 血の気の多いジャンベリクがご主人様におねだり。

「これは警告だ。抵抗せず、俺に同行するというのなら無傷で済ませよう。だがもしそちらが攻撃的な素振りを見せれば容赦はしない」

『あいつらが【剣】を狙ってる連中か?』

 マクレーンが囁いた。

「ああ。けど変だ。あと二人、安倍っていうひょろ眼鏡と、スカージっていう神父がいるはずなんだけど……」

 今入り口に現れたのは、セイヴとジャンベリクの二人だけだ。安倍はどこかに隠れて様子を

窺ってるのか? 

 俺に目配せして、介渕は前に出る。なるほど、今のうちに継承を済ませろってことだな!

「どこの誰だか知らねェが、この俺様と戦って無事で済んだ相手は一人としていねェ! 血を見る覚悟はできてるかァ?」

「そこをどいてくれるなら、ジャンもあなた達を痛い目には遭わせないと思うわよ?」

 戦わないという選択肢を用意するセイヴに対し、

「命じているのはこちらだ。俺の指示に従え(、、、、、、、)」

 出た! これは相手に自分の言うことを聞かせる介渕の能力!

「知ってるわよ? 意思能力を発動していない相手に対して有効なのよね? 相手の敵意を奪う類の能力でしょう? でも、わたしはあなたに敵意なんて抱いてないわ。ただそこにある【剣】に興味があるだけなの」

 と、セイヴは顎に人差し指を当てる仕草。

 安倍め、俺が介渕を仲間にすることを予想でもしていたのか、介渕の能力についての仮説をセイヴたちに話したな⁉ 謎の多い介渕の能力も、さも知っているかのように話せば映画(こっち)の世界のキャラクターたちは信じてしまうだろう。

セイヴは当然、ジャンベリクもほとんど動じていない。二人ともわざと感情を殺しているか、或いは既に能力を発動しているのか、介渕の能力が効いてないっぽい!

「……警告はした。従わない場合は、次の手段に移るまで」

 対する介渕はそう言ってジャケットを脱ぎ、再び黒い翼を出現させる。

「俺の能力――【黄泉鴉(ナイトレイヴン)】は――」

 そうして一歩、また一歩、介渕はセイヴ達との距離を詰めていく。

「お前たちの能力を殺す」


「あなたの相手はこの私が勤めましょう。鴉春介渕」


 そのときだ。今度は入り口とは真逆の方向――博物館の奥の方から声がした。

 中央展示ホールから北側の展示棟へ続く渡り廊下。そこに二つの人影がある。

「……挟撃(きょうげき)か」

 半分だけ振り向いた介渕が横目で渡り廊下を睨む。

「セイヴが言ったように、私たちの邪魔をしないというのであれば、見逃してもいいのですよ? 私たちの目的は無益な殺傷などではないのですから」

 声の主は言いながら、中央展示ホールへ足を踏み入れる。天窓から差し込む日差しが、その姿を足元から頭へと照らし出す。

 五厘狩りの頭。水色の瞳。皺を刻む白い肌。痩せた身体に黒い法衣を纏い、首からロザリオ

を下げている。

 パート2のラスボス――ヴィンセント・スカージが、その姿を現した。

 その隣にいるのは、やはり安倍だ。

「私たちは悪事を働くために【剣】を欲しているわけではありません。すべては崇高な理想を実現するため。理想とは則ち、蔓延る格差社会を意思能力(フォース・オブ・ウィル)によって破壊し、不平等な世界を平等へと導くこと。すべての差別と生命の重さを均等に見つめ直すことで、人々の格差を取り除くのです」

 スカージは渋みのある低い声で言いながら、安倍と共にこちらへ歩み寄る。目測で十メートルのところまで来た。

「考えれば解るはずです。この世界を取り巻く不平等の理不尽さが。【魔王討伐大戦(ワールド・ウォー・S)】以後、半世紀に渡って獣人族は魔族と混同され、差別の対象となりました。今まで幾人の獣人が不平等なまま過ごして、解消することなく生涯を終えてしまったことでしょうか?」 

 両腕を広げ、演説をする政治家のように間を挟み、神父は続ける。

「獣人たちだけではありません。私たち人間もまた、生まれながらにして格差が発生しています。親の経済事情に環境を左右され、受けられる教育のレベルに差が生じ、それが結果として社会人となってからの収入に格差を生んでいる。多くの人々は得る物も無くただあくせくし、それが格差カーストのトップに君臨する輩の思惑とも知らずに積み上げる。そうして知らないうちに格差が広がり続ける社会構造になっているのですよ」

 ある程度の距離を保つ位置で立ち止まり、スカージは天井を振り仰ぐ。

「成功を収めた者たちは誰もが口を揃えて、理不尽に縛り付けられ、うだつの上がらぬ人々に希望的観測を植え付けています。それは何故だと? ……生かさず、殺さず、適度に持ち上げては落とし、そうして絞り出した甘い蜜を吸い上げるためです。そんな彼らが、誰もが平等に権利と可能性を秘めていると豪語している矛盾ッ! それがこの世界の真理ッ! 私はそれを覆そうとしているのです!」

「――確かに、世界にはそういう一面もあるだろうさ。だけどな、それを変えるためだからって、他人を消していいわけがないだろ! それじゃ、かつての魔王とやってることが同じじゃないか!」

 俺は言いながら、それとなくマクレーンの意思が宿るマントへとにじり寄る。

『スカージって言ったか? 俺は人が増えりゃそれだけ差が出て当然だと思うが、おたくは違うのか? それと、ちっとばかし世を拗ねすぎじゃねぇのか? 確かに差別はダメだがよぉ、個性ってやつと不平等をはき違えて、どエライこと考えちまってる気がしてならねぇんだが?』

 スカージの主張も理解できなくはないが、マクレーンの言う通りだ。スカージの過去は明らかにされていないけど、よほど酷い経験をして傷つき、世界そのものを憎むようになってしまったのだろう。

「スカージ神父。あのケースに展示されたマントです。あのマントに継承者の意思が宿ってい

て、【想征剣(ヴァーデン・アイル)・疑似継承(アクティング)】を持っています」

 俺に向かってニヤリと笑みを浮かべつつ、安倍が説明してやがる。

「安倍! 掻き回すのも大概にしろ! 出番がまだの奴まで引っ張ってくんな!」

「どうします? あなたが継承しますか? それともセイヴに?」

 無視かよ! 安倍は俺をニヤニヤ笑いで見つめながら神父に話しかける。

「私とセイヴが鴉春とかいうエージェントを無力化する間に、あなたが継承者を説得しなさい。セイヴに【剣】を渡すようにと。どうやら彼は、私には良い印象を持ってくれない様子ですからね」

「わかりました」

 ダメだ。とてもこっちのペースに持ち込めそうにない。

「介渕、どうする⁉」

「俺が全員を抑えてやる。お前は早く継承を済ませろ」

 マクレーン並みに頼もしいなこのお兄さん! 焦り一つ無いよ!

「わかった。済まんが頼んだ!」

 俺は安倍に銃を構えつつ、マントの展示ケースに一気に近づく。

「マクレーン、急いで継承を頼む!」

 俺が言った途端、

「――行くぞおらァアアアアアアアアアア‼」

 相当我慢してたのか、本来の気性の荒さを全開にしたジャンベリクが能力を発動して動いた! 躊躇も恐怖もなく真っすぐ突っ込んでくる!

 対して、介渕は落ち着き払った所作で応じる。

 片手に一体化させたジャケット――もとい黒い翼を大きく振るい、木の巨人に変身したジャンベリクを迎撃。すると、翼に触れられたジャンベリクの片腕が虹色の粒子をまき散らしつつ変化、元の毛むくじゃらの腕に戻った。

「ッ⁉ オラァ‼」

 ジャンベリクはもう一方の木の腕を繰り出すが、介渕は難なく翼でいなした。

「なにィッ⁉」

 両腕の変身を解かれ、予想外の事態に狼狽えるジャンベリク。

 どういう原理なのかわからないが、介渕の黒い翼に触れると、能力が解けるらしい。

『おい坊主! なんだかよく見えないが、虫みてぇなのが大量に湧いて出てるぞ!』

 マクレーンが声を上げたと思ったら、俺と介渕の周りに無数の蜂たちが出現。縦横無尽に飛び回りながら次々に襲い掛かってきた!

 ちくしょう! これじゃ継承できない!

「気をつけろ介渕! セイヴの蜂だ! こいつらはいくつも毒を持ってる。刺されたら一撃で

アウトだ!」

 俺は蜂が放つゾッとするような羽音に思わず首を縮こまらせ、両腕をブンブン振り回して必死に追い払いながら叫ぶ。

「やかましい群れだ」

 介渕は翼を器用に丸め、自身を頭から靴まで覆うことで、飛来する蜂から身を守る。彼の翼に触れた蜂は、やはりジャンベリクの木の腕と同じく虹色の粒子を散らして消滅する。だが防御に回れば攻撃ができず、防戦一方になる。

「――よそ見してる余裕があるかなッ?」

「うっ⁉」

 後頭部に衝撃。見れば、安倍が俺の背後から殴りかかっていた。威力が大して乗っておらず、意識を奪われることはなかったが、バランスを崩すには十分だった。

 俺は床にひっくり返り、狙いすましたように蜂たちに群がられた!

「きゃああああああッ⁉」

 情けない悲鳴を出しちまったと思いながら、俺は火が燃え移った人みたいに転がってのたうち回る。

「ちくしょう! あっち! あっち行け!」

 安倍の方を指さしながら蜂たちに訴えるが、当然ながら通じない。

 一方の介渕は蜂を防ぎつつ、時に翼を広げて宙を舞い、華麗にジャンベリクの攻撃を躱している。

「なかなかやるじゃねェか! 楽しませてくれよなァ⁉」

 戦闘狂のジャンベリクが目を血走らせる。

「俺がお前を仕留めるのが先か、お前の体力切れが先か見ものだな。どのみちお前の敗北に変わりないが」

 クールに返す介渕だが、そんな彼を更なる危機が襲う。

 スカージが徐に、中央展示ホールの壁に沿って広がる展示ガラスへ手を翳した。

瞬間、ガラスにひび割れが生じて破砕。

そうして散ったガラス片と、中に展示してあった槍や剣といった歴史的展示品がひとりでに浮き上がり、介渕目掛けて一直線に飛び掛かったのだ。

「ッ!」

 それに気付いた介渕は遅れることなく、翼を一瞬羽ばたかせてホール内を飛翔。マントを翻すような動作で翼を振るい、飛来した武器をすべて弾いてみせた。しかも、スカージ、セイヴ、ジャンベリク、安倍のいる四方向へ打ち返す形だ!

 スカージは即座に鎧へと手を翳し、ひとりでに浮き上がった鎧が彼のもとへ飛び込んで介渕

の反撃を防御。セイヴは蜂の群れにガードさせ、ジャンベリクは木に変身させた両腕で受け止めるが、いずれの面々も驚愕の表情を浮かべている。ちなみに安倍は飛んできた槍をくねくねしたキモい動きで器用に躱しやがった。

しかしながら、介渕の場慣れ感半端ないな。一瞬不利な状況になっても即座に持ち直して反撃に転じる対応力はさすがの一言。悲鳴の一つも上げやしない。

 それに比べて俺はなんてザマだ! 走りながら介渕の立ち回りに見入っちまって足元の注意が疎かになり、散乱したガラス片に滑ってまたしてもひっくり返った。

「ぎゅえッ⁉」

 今度は腹に衝撃。安倍に蹴られた! その、横合いからちょっかい出すの何なの⁉ 

「どうしたお巡りさん! 僕を捕まえて連れ戻すんじゃなかったのかい? そうやって這いつくばってる間に、僕が【剣】をもらっちゃうよぉ⁉」

 とかって煽ってきやがるし!

「おい継承者! 姿は見えないけど、そこに居るのは知ってる! スカージ神父は【剣】を世界中のみんなのために使うんだ! そこにいる磨田栄治はごく一部の人間のために使うことしか考えていない! どちらがより大勢を救えるかなんて、言わずともわかるだろ!」

『俺、髪の毛ないからわからねぇな。世界は一人の人間が作り変えられるような単純なものじゃない。てめぇらの価値観を世界中に押し付けた日には、みぃんな視野が狭まってなぁんにも見えなくなっちまうぜ?』

 マクレーンはマントの裏側から身を乗り出すような姿勢で言った。髪の毛がないのは関係ないと思った。散々な目に遭いまくって戦ってるうちに、自分の毛根もぶっ壊れたのかな?

「悪党をとっちめた警察官のご褒美知ってるか? 怪我するだけ。大金持ちになれるわけでもなけりゃ、可愛い女の子と飲んで遊んで暮らせるわけでもない。それでも俺はこの仕事を続けてる。こんな汚れ仕事でも、尊敬できる人とか、自分なりの目標があればやれるんだ。救いってやつはな、いろいろと満たされない世の中にだってたくさん眠ってる!」

 マクレーンに続けて、俺は安倍に語り掛ける。俺には今までもこれからも、鈴という憧れの存在がいる。彼女みたいな強い人間になるという目標があれば、多少の理不尽なんて何ともないんだ。

「安倍。お前がどうしてこの世界に入り込んだまま出たがらないのか、俺に話してくれないか? こんなこと止めて、どこかに座ってゆっくり語ろうぜ? やっちまったことにちゃんと向き合って反省すれば、そこから先はまた新しい人生が待ってる。目標だって見つかるはずだ」

 気付け安倍。俺もお前もいい大人だ。大人が逃げてどうする! まずは理不尽と向き合うんだよ!

「目標ならあるさ! この世界で無双して好きに生きることだ! お巡りさん、あんたの言ってることは僕にとって、希望的観測の範疇を出ないんだよ。現実世界で生きても、九十九パー

セント以上の確率で社会の奴隷にされるだけだ。僕は奴隷なんて御免だね! 一度きりの人生

なんだから、好きなことして生きたいじゃないか!」 

 安倍は叫び、俺に襲い掛かってきた。俺は尚も蜂に狙われながら、安倍にも対処せざるを得ない。銃を構えて撃つだけの余裕もなく、徒手格闘を余儀なくされる。

「僕には映画に入る能力があった! 僕は選ばれし者なんだ! 神様が見込んでチャンスを与えてくれたんだ! だったら行動を起こして、チャンスを存分に活かさなきゃ損だ!」 

 安倍のやつ、ヒートアップして俺をぶちのめすこと以外眼中にない。マクレーンの説得もどこへやらだ。

「あんたは僕が現実から目を逸らして逃げてると思ってるのかもしれないが、断じて違う! これはテクニックだ! 辛いから活躍のステージを変えたにすぎない。重要なのは変えていくことだ! 辛いのに、それに気付いていながら流れに身を任せている奴のほうが逃げてるね! そんな奴はストレスに脳のリソースを奪われて、人生の幸福度が低いまま老化していくだけだ! あんたら警察組織はそんなこともわからないのか⁉」

 安倍の拳を躱しながら、俺は言い返す。

「その考え方も一理あるが、お前は罪を犯してしまった! 自分の理想のために、他人の命を犠牲にしている! それはやってはいけないことだ! その罪は償わない限り消えない! 消えない限り罪人だ! 罪人は捕まえる! それが俺の、――警察官の考えだ!」

「力があるのにそれを活かそうとしない方が罪だ! 力を活かしている人を邪魔するのも同罪だ! 僕の能力はいずれ最強になる! その邪魔をするなぁああああああ‼」

 安倍の大振りが迫る。俺はそれを屈んで躱し、がら空きの腹に拳を思いきり叩き込んだ。

 自分の理想を実現するためなら他人を苦しめてもいいなんて道理は通らないし、俺たち警察官が通さないぜ、安倍よ。

「うぐぁあッ‼」

 鳩尾へ完璧に入ったらしい。安倍は体内の酸素を吐き出して倒れ、うずくまった。

「くたばれ鳥野郎! 目障りなんだよォオオオオッ‼」

 一方、介渕側ではジャンベリクがヒートアップしていた。

「その図体の方が目障りだと思うが?」

 文字通り木の根みたいに伸びてうねるジャンベリクの腕は、相手を殴ったり絡め捕ったり縛り付けたりといった芸当にかなり優れているが、そのジャンベリクの技も、介渕の翼に触れた瞬間消えてしまうのでは無力だ。

「降伏しろ。さもなければ命をもらう。今の俺は非公式で動いている。つまり何をしても記録には残らない。当然、組織に知れれば罰せられるのは俺の方だが、証拠が残らなければ何の問題もない。ちなみに監視カメラは管理員に頼んで(、、、)切らせてある」

 と、介渕に勧告されたジャンベリクは、しかしゲラゲラと笑う。

「そいつは好都合だァ! つまり俺がてめェをぶっ殺す記録も残らねェってことだよなァ⁉」

「勧告はした。時間切れだ」

 介渕が言った瞬間。

「――なにッ⁉」

 介渕の翼から、ジャンベリクが操る木の根が生え、ジャンベリクに襲い掛かった。どんな仕掛けかはわからないが、介渕は相手が使う能力を自分の翼から出現させられるみたいだ!

「お前が今まで他人に負わせてきた苦痛を、自身で味わってみろ」

「ぎゃァアアアアアアアアアアアアアッ⁉」

 介渕の翼から生えた木の根が獣人の巨体を圧倒的な力で締め上げ、瞬く間に締め落とした。

 先ほどまでの威勢が消し飛び、白目を剥いて倒れるジャンベリク。

 よし! 残りは二人だ!

「これ以上邪魔をされては困りますねぇ」

 と、スカージがどこから集めたのか、大量の水でできた球体を飛ばしてきた。水の球体で介渕を包み込み、呼吸を奪うつもりか!

 介渕が翼で絡め取った槍をスカージへ向け投擲するが、滞空する球体が庇って槍を呑み込む。球体内は激流(げきりゅう)で満ちており、槍が球体に刺さった瞬間に激しい水圧に見舞われ、中でぐるぐる回ってしまう。あれに呑まれたら脱出できないぞ!

「ッ!」

 だが介渕は気迫と共に自ら球体へ飛び込んだ。そして次の瞬間、激流渦巻く球体が幻であったかのように、綺麗に消滅した。

「な、何をしたのです⁉」

 これにはスカージも狼狽えたような声を上げる。

「俺はさっき、お前たちの能力を殺すと言ったがな?」

 水に濡れた様子すらなく、片翼をはためかせた介渕は間を置かずスカージへ特攻。再び槍を拾い上げ、今度こそスカージの身体を捉える。

「ぐぁああああああッ⁉」

 介渕の槍を腹部に食らって吹っ飛び、壁に縫い付けられる形となったスカージは、血反吐を散らしてがくりと項垂れた。

 す、すごい! ちょっとやりすぎだが、介渕はスカージを殺してはいないようだ。これであとはセイヴ一人!

「セイヴ! こんなことはやめろ! スカージ神父は君を利用しているだけだ! 君の理想を叶えてくれはしない!」

 と、俺はセイヴの説得を試みる。

「あなたはわたしの何を知っていると言うの? わかったような口を利かないで!」

 セイヴが眉を吊り上げた。普段は落ち着き払っているように見えても、彼女はまだ十代。意

思も揺らぎ易く、道を見誤りがちだ。けど、だからといって更生への道が無いわけじゃない。

「君のことだって何度も見てるから、ある程度は知ってるぞ? 君はとても優しい子だ。誰かのために悲しんで、誰かのために笑って、努力して、行動を起こすことができる! そういうのってな、誰にでもできることじゃないんだぜ?」

「黙って! 神父様以外の大人は信用しない。わたしが酒に溺れた親に酷い扱いを受けていたとき、あなた達お巡りさんは誰も助けてくれなかった! わたしがこの能力に目覚めて、自分で制御ができなかったときも、やっぱりあなた達はわたしを見捨てた!」

 かつては、そういうこともあったのだろう。これが人間社会に蔓延る理不尽な闇。セイヴ達が壊そうとしているものだ。

 言い分はわかる。わかるよ、セイヴ。君を見捨てたお巡りさんは、確かに間違ってる。

「――わかってる。言葉にできないくらい、辛い思いをしてきたんだろう? お巡りさんを代表して謝らせてくれ! 君は今でも、俺たちを許せないか?」

「当然よ! 今更善人のフリ? 反吐が出る! その口が二度と利けないようにしてあげる!」

 俺が呼びかけたことで気持ちに揺らぎが生じたか、緩んでいた攻撃の手が再び強められた。

 それでいいさ、セイヴ。俺たちが悪かったんだ。憎むだけ憎んでいい。

 俺は蜂たちに袖まくりした腕の数ヶ所を刺されてしまうが、もう払うことはしない。

 ほとんどの人は、歩み寄ろうとして今みたいに攻撃されたら、それ以上は寄って来られない。火傷するとわかっていて熱湯に手を突っ込む人がいないのと同じ。君を危ない人と判断して、みんな離れていってしまう。

「――そんなもんかよ」

 けどな、正しいお巡りさんは違う。

「俺の口、まだ動くぜ?」

 刺された激痛で泣きそうなのを堪え、俺は強がってみせる。

「――このッ!」

 セイヴの蜂たちが更に俺に群がる。腕や顔をめった刺しにしてくる。

かつてセイヴを見捨てたお巡りさんは、ここで背を向けちまったんだ。

 でも俺は、逃げない。背を向けたりしない。

「誤解しないでくれ、セイヴ。全員がそうだとは言い切れないけど、正しいお巡りさんはな、傷つくのが仕事なんだよ」

「――――ッ!」

 怒りに震え、歯を食い縛るセイヴが、攻撃の手を止める。

「ありがとうな、セイヴ。俺の話を聞いてくれて」

 あ、やべ。毒か、あるいは何なのかわからんが、意識が朦朧としてきた。

「――無抵抗でやられる阿保がいるとはな」

 そこへ介渕が来て、黒い翼で俺の身体を包み込むと、ものの数秒で取り払った。

「痛みを取ってやった。毒は仕込まれていないようだな」

 ああ、なるほど。介渕の得体の知れない能力に助けられたらしい。

俺ったら、あまりの激痛で気を失いかけてたのね。よくそれで会話できたもんだ。

セイヴに向き直る介渕の肩を引き戻し、俺が入れ替わるようにしてセイヴの方へ近づく。

「君の傷はあまりにも深すぎる。せめてもう少し、痛みを分けてくれないか?」

「――来るな! ……来ないでよ……」

「君はどうして、警察署のみんなを殺さずに眠らせたんだ? 今だってそうだ。君の蜂の毒は何種類かあって、その気になれば殺傷性を持った毒も打てたはずだ。でも君はそうしなかった。それは君が、本心から望んで警察署を襲ったんじゃないからだろう?」

「……うるさい!」

 拒絶するように叫んだセイヴが片手を俺に向けると、また蜂たちが突っ込んできた。

「セイヴ! 君はまだやり直せる!」

「信じない! 信じないんだから!」

 反応からして、確実に俺の言葉はセイヴに響いてる。けどまだダメだ。さすがにそう簡単にはいかない。

「――死ぬ気か?」

 そう言って翼を一振りし、俺の近くを旋回する蜂を撃墜する介渕。

「死んでも死にきれない。セイヴには攻撃せず、優しく足止めしといてくれ。俺は今度こそ継承を済ます!」

『お前ら仲良しごっこかぁ⁉ 後ろからまた蜂の群れが来てるぞ!』

 マクレーンが教えてくれて、俺と介渕は同時に左右へ身を投げ出す。俺たちがたった今まで立っていた場所に、セイヴが蜂で形成した【針(ニードル)】が突き立った。危ねぇ!

「【剣】の継承者! 今の会話を聞いたでしょう⁉ わたしに【剣】を継承しなさい! さもないと、あなたのマントを八つ裂きにするわよ⁉」

「やめろセイヴ! それは君の本心じゃないはずだ! そうだろ⁉」

 俺はマクレーンのいる展示ケースに駆け寄り、セイヴに通せんぼの構えを取る。

『お嬢ちゃん。お前さんの蜂、随分と綺麗に光ってるじゃねぇか。とても悪さするために光ってるとは思えねぇ。俺が言えた口じゃねぇけどな、この汚れきった世界にも、綺麗なものはあるんだって改めてわかった。お前さんの蜂たちのおかげでな。こんな小さなところにいつまでも閉じこもらせてねぇで、もっと広いところで飛ばしてやるべきだと思わねぇか?』

 ポロリ、と。

 マクレーンの言葉に、セイヴはその目から大粒の光を流した。

「……そこまでだ、セイヴ・ランバート」

 セイヴの背後に回り込んだ介渕が、セイヴの首に黒いナイフを突きつけた。ナイフに一瞬ヒヤリとしたが、彼に念を押しておいてよかった。勝負あったな。

『こいつは、【剣】を継承するまでもなかったかぁ?』

 マクレーンがほっとしたように言った、そのときだった。

「…………⁉」

 俺はその現象(、、、、)に気付き、一点に視線が釘付けになる。

 介渕も、俺と同じ方向を見つめている。

 中央展示ホールの広大な空間。その中(ちゅう)空(くう)の中心辺りに、黒い穴(、、、)が空いていた。

 周囲のあらゆる色よりも濃く浮き立った黒い穴の周りには、何というべきか、七色をした渦のようなものが見える。七色のドロドロしたオイルみたいな物質が、黒い円の外周に沿って縁取っているようにも見える! 穴の大きさは拳大以上ありそうだ。

 俺はこのシリーズを何度も見てきたが、あんな穴は見たことがない! 

「あ、あなた方は、神が定めた運命を信じますか?」

 呻(うめ)き交じりの苦し気な声。振り向くと、スカージ神父が自身を刺し貫く槍を引き抜いて、壁に磔(はりつけ)られた状態から脱出している!

「私の能力、……【グラヴィティ・ネオ】は、たった今進化を遂げた。これを運命と言わずなんと言えましょうか? 神は私を見ておられるのです。……それ故に、神が、直接手を下さずとも、運命が私に味方する! 神を信じ続ける私に、道を切り開く力を、与えるのです!」

 血に濡れた口をゴボゴボ言わせながら、スカージは中空に出現した黒い穴を振り仰ぐ。

 いろいろと展開が本来と変わっているせいで、スカージの能力が進化する要因を作ってしまったのか⁉

「すべては崇高なる、理想のためにッ‼」

 よくわからないが、得体の知れない異様な雰囲気が漂い出している。

 まるで天からの祝福を全身に浴びるかのように、スカージは両腕を広げて目を閉じる。

「――感じます。もはや恐怖など不要! 我が意思に曇りなし! 意思能力(フォース・オブ・ウィル)よ、運命よ、どうか私を導き給え!」

『野郎、ぶちのめされてイカレちまったかぁ⁉』

 判然としない恐怖に支配されかけていた俺を、マクレーンのぼやきが引き戻してくれた。

「あれはスカージの、重力を操る意思能力(フォース・オブ・ウィル)の新しい能力だ。あいつが言っているように、進化したんだ! 何が起こるのか全くわからない!」

 こんなときに限って、俺の左目は何の能力も発動しない。これじゃパラメータもわからない!

「――片付ける」

 介渕がセイヴに突き付けていたナイフをスカージへ投げつける。だが、ナイフは神父に命中

することはなかった。

 突如、中空に生じた黒い穴の周りの空間が歪み始めたのだ。黒い穴を中心に回転し、渦を巻くような形で。

 スカージ本体に向かったはずのナイフは黒い穴の方へと軌道を変えた。そして穴に近づくにつれて移動速度が遅くなっていき、渦状の空間に沿ってねじ曲がり、そのまま穴の中へと、まるでスローモーションのようにゆっくりと消えていく。

『おいおい、ありゃどうなってやがるんだぁ⁉』

 恐らくここにいる全員が思っていることをマクレーンが言った。

「展示ケースから降りろセイヴ! あの穴から離れるんだ!」

 俺が呼ばわると、涙を拭いたセイヴは展示ケースからひらりと飛び降りる。が、彼女の落下速度が異様にゆっくりだ! 

 俺は側に落ちて――もとい舞い降りてきたセイヴを両腕でキャッチする。

これは、穴が引き起こした何らかの現象によるものか⁉ 介渕が投げたナイフが急に軌道を変えたことも含め、あの穴に何かあるに違いない!

「よし、セイヴ。このままホールの隅まで離れるぞ!」

 言って移動しようとしたが、

「な、なんなの⁉」

 セイヴが怯えたような声を上げた。彼女もそれ(、、)を感じているらしい。身体に強い抵抗があるのだ。まるで重い荷物を背負って歩こうとしているみたいに。移動しようとすればするほど、反対方向――穴の方へ引っ張られる。

「あれは、……あの穴は⁉」

「――あれの正体がわかるのか⁉」

 思わず声を上げた俺に、床にしがみつくようにして伏せた介渕が聞いた。

 スカージの意思能力(フォース・オブ・ウィル)――【グラヴィティ・ネオ】はその名の通り、重力を操る能力だ。

 スカージが身体的に追い詰められて命の危機に瀕した反動からか、【グラヴィティ・ネオ】は主を守るとでも言うかのように、ここへ来て進化を遂げた。確か設定資料集のパラメータでも、【進化性】の部分が高い能力だったはず。

「俺の勘違いじゃなければ、あれは極小のブラックホール! どんなものでも空間ごと歪めて吸い込む! 光さえ呑み込まれてしまうって話だ!」

『ブラックホールってのはあれか、星をスパゲッティーみたいに細く引き伸ばして食っちまうっていうやつか⁉』

「一説では引き延ばすんじゃなくて、粉々に引き千切ってるらしい!」

 俺がマクレーンに説明している隙に、セイヴが俺の手を振りほどいて神父に近づく。

「――神父様! そんな危険な能力を使う必要はありません! わたしたちはまだ負けてな

い! わたしは戦える! 理想へ近づくことができます!」

 スカージはセイヴの呼びかけに振り向くことなく、虚空に発生させた黒い穴に見惚れている。

「なにを言うのですかセイヴ。理想はたった今叶いました。私はこれよりこの世界を、勇者に代わって改変するのです! この力はそうする資格のある者にしか与えられない!」

 くそ、ダメだ! まるで会話にならない。今のスカージは完全に自分の世界に没入して、他者の言葉を意に介さない。

「だんだん引力が強くなってる! 磨田、制圧した連中に注意を向けておけ。穴に吸い込まれるかもしれん!」

「少しくらい俺の心配してくれてもよくないか⁉ 蜂刺されで斑点塗れなんだぞ⁉」

『介渕! 栄治! 俺が入ってる展示ケースも押さえろよ⁉ 透っけ透けだからって影響がないとは言い切れねぇだろう⁉ このままじゃハゲおやじの挽き肉が完成だぜ!』

 左目の能力が切れたせいで姿は見えないが、マクレーンもパニック状態らしい。中空に生じたブラックホールの引力なのか、彼が暴れてるせいなのかはわからないが、マクレーンが叫ぶ度、マントを飾る展示ケースがひとりでに揺れている。

 そのときだ。中央展示ホールの南側――玄関口のドアが勢いよく開かれた。というより、蹴破られた。大破したドアが吹っ飛んで俺たちの頭上を通過し、ブラックホールの引力に捕まった。重力の渦に沿って捻じれ、次第に動きがゆっくりになり、ナイフと同じように消えていく。

 俺は一旦、顔を玄関口に戻す。そこに、綺麗な蹴りのフォームを維持したままの人影が立っていた。


「――冗談みたいなことになってるわね」


 聞き馴染んだ澄み渡る声。ワインレッドのおさげを靡かせる引き締まった身体。

 ホールの壁や床は戦闘によって至る所が抉れ、砕け、展示品は散乱し、おまけにブラックホールまで出現しているこの状況を見ても、髪の毛一本ほども動じない。それほどに戦い慣れたキャラクターといえば一人しかいない。

「鈴! 回復したのか!」

「お、おかげさまでね! ちょっと寝たらよくなったから、来てあげたわよ!」

 俺が呼ばわると、蹴り足を降ろした鈴は何故か顔を赤らめて目を逸らす。

「よくここがわかったな」

「警察がやる捜査方法の基本――聞き込みをやっただけよ。ブロンドの美少女と紺色の獣人とガリガリ眼鏡のトリオを見なかったかって聞いて回ったの。大博打だったけど、何とかなるものね……」

 介渕の言にサバサバと答えつつ、鈴は肩をグルングルンと回す。

「栄治。ここから先はわたし達の仕事よ! まず状況を報告!」

「――【剣】を先に確保しようとしたらセイヴ達が来て、ご覧の通り戦闘中だ! 安倍とジャンベリクはどうにか倒したが、スカージっていう、あそこにいる丸刈りの野郎の能力がたった今覚醒して、ブラックホールを発生させたところ!」

 俺はできるだけ簡易にまとめて説明した。

現実の世界ではテンパっちまって、報告する内容を整理できずに、しょっちゅう警部補や先輩にどやされたっけ。

「器物破損と殺人未遂で現行犯逮捕(ゲンタイ)取りたいところだけど、まずはあの穴を何とかしないと始まらないわね」

 鈴が状況を把握する間にも、空間の歪みは進行し、中空の穴へ向かって、ホール全体が徐々に渦状に捻じれていく。俺たちはもう、全員が重力の渦に捕らわれてしまっている!

『鈴! 俺の声が聞こえるか⁉ パパだ!』

 義理の娘といえども愛は本物。マクレーンが長年見守ってきた娘を前に声を張り上げた。

 彼の声を聞いた鈴の目が驚愕に見開かれる。

「――今の声、……パパ⁉ パパなの⁉」

 鈴はマクレーンの意思がマントに宿っていることを、誰からも知らされていない。そも、マクレーンの意思がまだ消えずに残っていることを知る人物がほとんどいない。せいぜいニコラス署長と介渕くらいだろう。

 そこにマクレーンを加えた三人は葛藤の末、そのときが来るまで鈴には黙っておくことに決めていたのだ。

 そのとき(、、、、)とは、鈴がより成熟し、【剣】を持つべきピンチに陥ったとき。

 それに、二十一歳になったとはいえ、マクレーンたちから見れば彼女はまだ若い。

『そうだ。パパだ! 覚えていてくれたのか!』

「わかるわよ。わたしのパパだもの」

『お前の成長は署長から聞いていたが、実際にこうして見てみると、……大きくなったもんだな』

「マクレーン、……あなたには娘がいたのね。しかも、あの綺麗な赤髪のお巡りさんだったなんて……」

 父子の再会に心を動かされたのか、セイヴは神妙な面持ちだ。無理もない。彼女は自分の親との間に良い思い出を持っていないのだ。

 マクレーンが勇者の陰謀を防ぐために暴れまくって殉職したのは、鈴が小学校に上がりたての頃だ。

 鈴は鈴なりに、義父の死に見切りをつけた。そしてマクレーンの意思を継ぐかの如く警察官になったのだ。そんな、苦難を努力で乗り越えた一人の人間に、重い過去を振り返らせるよう

なことがあっては、メンタル的な意味で将来に響くかもしれない。

 数多の故(ゆえ)あってこその秘密。

 しかし、マクレーンは今ここで、娘に近づいた危機的状況を目の当たりにし、鈴に直に話しかけるという選択肢を取った。話しかけて自分を認識させることで、鈴を【剣】の継承対象にしたのだ。

 確かに、鈴のメンタルへの影響は計り知れない。今でこそマクレーンはマントに意思を宿しているものの、【剣】の継承が済めば消えてしまうからだ。辛い別れを、もう一度鈴に負わせることになる。

 だが、もはやこの状況を打ち破れる可能性があるのは【剣】くらいだ。

 ――したんだな、マクレーンは。別れの辛さと引き換えに、鈴に立ち向かう力を与える覚悟を。

 本来の展開だと、マクレーンは鈴に会い、自分が姿を消してしまったことを謝り、和解するだけなんだ。だから彼が消えることはないし、能力の継承も為されない。そもそもスカージの能力が覚醒せず、【剣】にすべてを賭けるような展開にならないからだ。でも、今回は違う。

『今まで寂しい思いをさせたろう? 悪かった。本当はな、今はまだお前に話しかけちゃいけないんだ。お前の決意を揺らがせちまうかもしれない。後に引きずる、なにか悪いものを残してしまうかもしれない。だけど、そうも言っていられない状況になっちまった』

 マクレーンの意思が宿るマント。それが入れられた展示ケースの上端が、ブラックホールの吸い寄せの影響下に入ったのだろう。少しずつではあるが確実に形を歪ませ、中空の黒い穴の方へと渦状に細くねじれ、吸い寄せられていく。

 このままでは、マクレーンの意思が宿るマントも吸い込まれてしまう。

『鈴、パパの言うことをよく聞け。これからお前に意思能力(フォース・オブ・ウィル)を継承する。この能力を使えば、今のクソったれな状況を打開できるはずだ。でも一つだけ注意点がある。この能力のことは秘密だ。絶対に誰にも言うんじゃないぞ?』

「パパが、能力をわたしに? こう聞くのもなんだけど、それならパパが能力を使えば……⁉」

 察しのいい鈴は言葉を切った。違和感から何かに気付いた様子だ。

『パパはな、もう身体を失くしちまってるんだ。このマントに俺の意思が残っているに過ぎない。だから姿も見えないし、俺自身は能力を使えないんだ。お前に能力を託したら、パパはここからもおさらばしなくちゃならなくなる』

だからこそ、継承するなら今しかないのだ。愛する娘に最後の希望を与えたいと思うのは、きっと、父親として当然なんだ。

「――そんなの嫌よ! せっかくこうして話せたのに!」

鈴がマントの展示ケースへと駆け出す。

「うぉおおおおおおおおおッ!」

俺は気合の叫びと共に、マントの展示ケースに飛びついた。介渕に倣(なら)って床に伏せるので精

一杯だったが、こうなったらヤケだ! 吸い込まれないようにすればするほど手一杯になるなら、むしろ吸い込まれながら動き回って、起死回生を狙ってやる! 

 展示ケースは既に上半分が捩じ切られてバラバラになっており、その破片群(はへんぐん)が十メートルほど斜め上方に位置する穴へと移動中だ。

「――行かせてたまるか!」

 俺は手元に意識を集中。まだ形を保っている展示ケースの下半分――ケースと床とをボルトで固定する、滑らかで上品な造りのステーを両手で押さえた。ていうか、ボルトが緩んでガバガバだぞこれ! そりゃ揺れるわけだよ!

どうにかケースが浮き上がるのを阻止――しようとしたんだが、ほとんど無意味と言ってよかった。空間全体が歪み始めてるんだから、たとえケースを押さえたとしても、床や俺自身が次第に巻き込まれてしまう。

空間の歪みが増すにつれ、視界も奇妙な感じになってくる。平坦なはずの床が少しずつUの字型に湾曲し、天井も同様にひん曲がって見える。ホール全体がブラックホールを中心に球状になり始めてるんだ!

「よせ磨田! 下手に動くと逆効果だ!」

 さすがの介渕も俺の無茶に声を荒げる。彼の姿も、床に沿う形で湾曲して見える!

「パパ! ケースの中にいるの⁉」

『ああ。パパはケースの中だ! 鈴、拳を出せ。意思能力(フォース・オブ・ウィル)の継承は人によっていろんなやり方があるが、俺の継承の場合は、互いの拳と拳を突き合わせるんだ。直に触れられなくても、位置さえ合えばできるはずだ! 急げ!』

「嫌だって言ってるでしょう⁉ あの穴はわたしがなんとかするから、継承なんてしないでよ! もうわたしの傍(そば)から離れないで!」

 鈴が子供の頃に、心の奥底に理性で押さえつけたもの。それが今、鈴もまたマクレーンを父として愛するが故に溢れ出してしまっている。

『……聞くんだ、鈴。パパはいつでもお前の傍にいる。約束する。だから今はパパの言うことを信じて、能力を受け取ってくれ。それであのクソ神父をとっちめるんだ』

「……っ!」

 鈴は歯を食い縛って顔を伏せた。そして、

「――わかった! これからもわたしの活躍、見守っててよ?」

 決意に眉宇を引き締め、固く握った拳を展示ケースに向けて突き出した。

 そのパワーで展示ケースのガラスが粉々に砕け散る。

『鈴、そっちじゃない。拳をこっちによこせ!』

「こっちってどっちよ⁉」

『もうちょっと上だって! 今度は左! いやそっちは右だろ! 行きスギィ‼』

 所々不器用なのも、親子って感じだ。二人でわちゃわちゃやってるよ。

『よし! ぴったり合ったぞ! これで継承されたはずだ! どうだ? 鈴。頭の中に能力の使い方が浮かんできて、わかるようになるだろ? 自分の能力が発現したときと同じように、誰に教わるでもなく、なんとなく頭の中で理解できているような感じがするはずだ!』

「……あれ⁉ ダメみたい。なにも浮かんでこない!」

『なぁにぃ⁉ 畜生ッ! 継承しないたぁどういうことだぁ⁉ この【剣】め、よくわからんが、人を選びやがるのか⁉』

 焦りの声を上げる鈴とマクレーン。

 嘘だろ⁉ 継承失敗か⁉ 鈴には継承する適性が無いってことなのか⁉

 俺たちの脳裏に【絶望】の二文字が過った、そのときだ。

「――ッ⁉」

 拳を突き出した鈴の腕が、突如急接近してきたスカージによって切り裂かれた。スカージの移動スピードが速くて、間近に迫るまではっきりとは視認できなかったが、多分短剣かなにかを使ったんだ!

「鈴ッ!」

『鈴ッ!』

 俺とマクレーンが同時に叫ぶ。

 スカージは腹部に槍の大傷を負って重傷のはずだ! 今の高速移動はなんだ⁉

 次の瞬間、

「ぐあッ⁉」

 今度は俺の肩が、横方向から迫ったスカージに抉られた! 接近は察知できたが、奴のスピードに反応しきれない! どうなってる⁉

「栄治!」

 肩をやられた衝撃でよろめいた俺を鈴が片手で支え、共にケースの側で体勢を保つ。

 そんな俺たちの傷口に、セイヴの蜂どもが引っ付いてきた!

「――セイヴ⁉ な、なにする気だ⁉」

「落ち着いて。今のわたしに、あなた達への敵意は無いわ。蜂たちを使って血を拭き取って、蜂蜜(はちみつ)で出血を抑えてあげているのよ」

 狼狽える俺にセイヴが言った。彼女は俺たちから数メートル離れた場所にある展示ケースに背中を預けて上方への引力に耐えていた。セイヴの背後に立つ展示ケースも、マクレーンが宿るマントの展示ケースと同様、上部が削り取られて舞い上がっている。

「――わたしの蜂は能力で生み出している架空の種(しゅ)。だから蜂が持つ能力は大抵扱えるの。ミツバチにしかできない蜂蜜の生成も例外ではないわ。そして蜂蜜は、傷の治りを早くできる」

「大人しく反省する気になったの?」

 鈴の問いに、セイヴは鼻を鳴らす。

「敵の敵は味方というだけよ。神父様の理想とわたしの理想には齟齬があると判断した。だからあの方(かた)はわたしの敵。……すべての恵まれない子供たちを助ける施設を作る。それがわたしの理想なのに、あの方の力は破壊しか生み出さない」

「それじゃぁ、あんたが裏で悪党どもを利用して大量の資金を集めてたのは、養護施設のためだったの?」

「……そうよ。神父様にお金をたくさん集めるように言われたの。それがわたしの理想に近づく行為だと信じていたわ。あの方についていくことがわたしの希望だった。けれど、今になってわかった。神父様の理想は、子供たちの救済とは違う別のもの」

 語るセイヴの眼差しは、とても悲し気だ。

「――セイヴ、私は残念です。共に理想の実現を目指そうと思っていたのに、ここへ来て寝返るのですか? この私の能力で、差別化されて歪み切った世界を破壊し、一から作り変えるのですよ? 審判の日が始まるのです。それを生き残るのは、私に忠実に従った者だけだというのに」

 どこからともなく、神父の声がする。彼の姿が見えないと思ったら、なんと、ブラックホールの中から顔だけ出してる! なにあれ⁉ 超不気味で恐いんですけど⁉

「あなたは、不平等を平等にすると言いました。差別され、理不尽な思いをした人々を救うとも。けれど、実際にやっていることはただの破壊行為。それでは、恵まれない子供たちを救うことにはなりません!」

 セイヴの主張を聞いてか聞かずか、スカージはブラックホールを抜け出し、展示ホールの端へと飛翔する。出だしはゆっくりとした動きで、それから次第に加速していき、円形のホールの壁際に到達した途端、目で追うのも困難な速さでホールの外周をグルグル回り始めた。とても重傷を負った者の動きには見えない。

「セイヴ、貴方はまだ年若い少女に過ぎない。視野そのものが狭いのですよ。木を見て森を見ていないのです。子供たちを守り育てる養護施設を建てた程度で救いがあると? 否! この歪んだ社会構造そのものを打ち砕かなければ、真の救いなど無いのです!」 

神父の声が俺たちの周りを駆け巡って、全方位から順繰りに聞こえてくる。

「人生の幸福度(こうふくど)に差があるのなら、皆平等に不幸になればいい! そうした後、私に付き従う者により多くの幸福を与える仕組みを構築することで、正しい人々のみが救われる世界が誕生するのです!」

『お前さんが神様にでもなるってのかぁ?』

「慎みなさい、顔も名前も不明の継承者。私は飽く迄、神のご意思を代行する身に過ぎない。運命が私に味方するのは何故か。それは私が神のご意思に従い、信じているからに他ならない。

これが正しい行いであるが故に、私は傷を負った今もこうして立っていられるのです!」

「うぅッ⁉」

 今度はセイヴの悲鳴が上がった。見れば、彼女の背後の展示ケースに短剣が突き刺さっている。セイヴを狙って剣が投げられたんだ。

 首筋を切られたらしく、苦悶の表情で自分の首を抑えるセイヴ。その白い手の隙間から、赤い血が流れ始める。

 スカージめ! 長年自分を信じて働いてきた少女を、躊躇いなく傷つけやがった!

「――負ける、ものか!」

 と、セイヴは白い歯を食い縛り、青緑(エメラルド)に輝く蜂の大群を展開。神父の動きを妨害しようというのか、広大な展示ホールに散開させる。だが、中空のブラックホールのせいで蜂たちも思うようには飛べず、ホールの隅々には行き渡れない。

「全員で円陣を組んだほうがいい。孤立していては方々(ほうぼう)から攻撃される!」

 介渕の冷静な分析と指示で、鈴、セイヴ、介渕、俺の四人はマクレーンの意思が残る展示ケースのすぐ側で背中合わせに円陣を組んだ。

「おお! 【グラヴィティ・ネオ】よ! 私に更なる力を見せてくれるのですね!」

 とかなんとかぶつぶつ言ってる神父の動きが、もっと速くなった!

 ホールの外周――壁際を移動するスカージの動きが、最早肉眼では捉えられなくなったのだ。それだけじゃない。ホールの中心に浮かぶブラックホールの引力までもが強化されている。【グラヴィティ・ネオ】が更に進化したに違いない!

「まずい! スカージの能力がこれ以上進化したら手に負えなくなる! 全員穴に吸い込まれちまうぞ!」

 と、俺が警告する間に、床に倒れ伏していた安倍が、続いてジャンベリクが、意識が戻らないまま中空へと浮き上がり、そのまま流れるようにしてブラックホールへと吸い込まれていく。

 二人は音もなく身体を引き延ばされ、本当にスパゲッティーみたいになってしまった!

「これはすごい! 人がスパゲッティーのようだ!」

 とかって、スカージが嬉しそうに叫んでる!

 畜生! 俺の左目のスロー再生能力が使えさえすれば、スカージの動きも捉えられるのに!

「栄治! セイヴ! 介渕! 互いに手を繋いでちょうだい! わたしの能力で守るわ!」

 歯噛みするしかない俺の手を取って、鈴が叫ぶ。

「【わたしの信念は揺るがない(スティール・フェイス)】‼」

すると、全員の身体を銀色の膜が一瞬覆い、肌や服に溶け込んで見えなくなった。なるほど、コーティング(、、、、、、)することで、敵の斬撃から身を守る作戦だ!

「これで防御策はできたわ! あとは誰かが【剣】を継承する間、あの方の攻撃を防ぎ続けるのよ!」

 セイヴが言うと、鈴が介渕に振り向き、

「あんた、ご自慢の黒い翼から敵の技とか出せるんじゃないの?」

「……俺の能力は吸収(、、)と放出(、、)。他人の能力をコピーしたり、盗んだりするものじゃない。一度攻撃を受けた相手の能力であれば使えはするが、一度きりだし、能力の種類にもよる。基本的に一度だけ使えるのは、物理攻撃の能力だけだ」

 自分の能力を口外することを極力避ける介渕も、さすがにこの状況では情報を共有せざるを得ないみたいだ。

 なるほど。さっきジャンベリクの根っこを出現させたあとでそれ以降出さないのは、一回限りしか使えないからか。

「それなら、スカージの能力はどうなんだ⁉ 使えるのか⁉」

「奴の攻撃は能力を直接使ったものじゃない。無理だ」

 俺の問いに介渕は首を振った。飽く迄【グラヴィティ・ネオ】自体はブラックホールを発生させているだけで、攻撃らしい攻撃はしてきていない。俺たちが巻き込まれているだけなんだ。

「他人に言うことを聞かせる妙な話術は?」

 鈴が言った。

「あれは意思能力(フォース・オブ・ウィル)使いが自身の能力を発動していない状態でなければ効果が出ない」

『作戦会議が重要なのはわかるが早くしやがれってんだ! マントが攫(さら)われちまう!』

 と、マクレーンが悲痛な叫びを上げたときだった。

「ぐッ⁉」

 突如、介渕が苦悶の声を発したのだ。彼の右胸に、ロープフェンスに使われている金属製のポールが突き刺さっている!

 博物館内で列整理のために縄を使ったレーンを形成するときに用いる、細い棒状の柱だ!

【スティール・コーティング】は薄い金属皮膜。ある程度の物理攻撃には耐えられるが、ポールのように、激突時に威力が一点に集中する細い獲物はダメか!

「悪足掻きは止めて、その場に跪きなさい。私に服従すれば命までは奪いません! これも神のご意思なのです!」

 ホールの外周から、高速移動するスカージの声が響く。

「――か、介渕ッ‼」

 俺は左隣で頽れる介渕を支える。肉を抉られた肩に強烈な痛みが走るが、どうにか耐えて、展示ケースの残されたガラス窓に彼を寄り掛からせた。

「――済まない、不覚を取った。一旦消えるが、後で駆けつける。持ち堪えろ」

 介渕がよく意味のわからないことを言ったと思ったら、彼は無数の黒い砂塵に姿を変え、消滅した。

「あの忍者なら平気よ。簡単に死んだりしないわ」

 鈴の言で思い出した。介渕は日本で古くから続く忍者の家系で、忍術的な意思能力(フォース・オブ・ウィル)を継承

しているって設定だった。つまり、今の介渕は分身の術だか変わり身の術だかを使った偽物だ。

「くそ、こっちは生身だってんだ!」

 ホルスターから銃を抜く俺だが、呆気(あっけ)なく引力に攫われてしまった!

「なにやってんのよ!」

「すみません握力二十五なんです」

 俺は小さな声で言った。

「あなた、女なの?」

 セイヴにまで呆れ顔をされた。

「男です……」

 俺はもっと小さな声で言った。

「もう! こうなったら栄治! あんたが【剣】を受け取りなさい!」

 鈴が周囲を警戒しつつ叫ぶ。

「今の攻撃で、神父様がこっちに投げた武器の到達時間がわかったわ! 二秒よ! 神父様の手を離れてから二秒で、わたしたちの誰かに命中する!」

「なら、周りにある武器になりそうなものを監視するのよ! その中のどれか一つが消えたら、二秒後に攻撃が来る!」

 セイヴの分析を基に、鈴がすぐさま対抗策を指示。スカージ本体を目で追えないなら、動いていないもの(、、、、、、、、)の変化を見るしかない!

「――ん? 時間?」

 セイヴの時間という言葉を聞いて、俺はあることを思い出した。

 極度なホラーと極度なスプラッター系以外の映画ならジャンルを問わず好きな俺は、SF映画もよく見る。それで【インターステラー】という名作の影響を受けて、ブラックホールについて調べたことがあったんだ。

「そうだ! 時間だ! 時間の流れが違うんだ!」

「急に何を言い出すのよ⁉」

 俺の素っ頓狂な発言で、鈴の額に怒りマークが浮き出た。

「ブラックホールは、中心部の穴に近づけば近づくほど時間の流れが遅くなるんだ。鈴がぶっ壊した玄関のドアとか、安倍やジャンベリクが穴に消えるとき、ものすごくゆっくりとした動きだっただろう? 外側にいる俺たちの方が時間の流れが早いから、中心部のものはゆっくり動いているように見える状態なんだよ」

『てことはあれか? クソ神父の野郎はこのホールの壁際を主に移動していやがるから、ホールの中心付近にいる俺たちよりも時間の流れが早くて、その分移動スピードも速いって認識で合ってるか?』

「あんたの言う通りだ、マクレーン。スカージは一度、ブラックホールの中から出てきたよな? 

あの時、最初はゆっくりだったが、外側にいくに連れてどんどん速くなった。あいつの動きが速くて俺たちが遅れを取ってるのは、位置の違いによって生まれる時間の差によるものだ!」

「それじゃ、わたし達がホールの壁際に移動すればいいってことよね? 時間の流れの差が無くなるんだから、あいつの動きも見切れるようになるわ!」

「そうだ。外側へ移動するんだ!」

 鈴の言に俺は頷いた。

「神父様がそれを許してくれるかわからないけど、やるしかないわね」

 蜂たちの動向と静物(せいぶつ)の監視に集中しているからか、振り向かずにセイヴが言う。

『とっとと継承して壁際へ行きやがれ! 早いとこ奴をぶちのめさねぇと、みぃんなやられちまうぞ!』

 マクレーンが叫ぶ。

「マクレーン! 拳を頼む! どこへやればいい? ここか⁉」

『違うそこじゃない! こっちだこっち!』

「いや、だからこっちってどっちだよ‼」

『こっちって言ったらこっちだろ、上だ!』

「だったら最初に上って言ってくれよ!」

『ちがうそっちは行きスギィ!』

 またもわちゃわちゃ状態に! 俺の左目よ、頼む! 今この映画の正念場なんだ! 力を貸してくれ‼

 俺が祈ったその瞬間、運よく左目に変化があった。

「――ッ⁉」

 目の前に、片膝をついて拳を構えるマクレーンの姿が観えた(、、、)のだ。

『その様子、見えてる(、、、、)な?』

「ああ。あんたほどタンクトップが似合う男はいないぜ」

 互いに不敵に笑い、俺たちは拳を付き合わせた。

「あんたの【剣】、覚悟を決めて受け取らせてもらうよ」

『ああ。……娘を頼んだぞ、栄治』


 途端、俺の視界は真っ暗に閉ざされた。

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