同僚ふたり

2023年4月まとめ

Twitterへ掲載した短い話を集めました。

基本的には笹木さん視点、時期や長さはまちまちです。

◆ヴァンパイアキス　倉田さん視点

　笹木の首に銀が光る。痛そうだなの次に来たのはどうやったのかで、疑問を口にすればニヤリ弧を描く口。

「ヴァンパイアピアスって言ってな？　ニードルで……」

　微に入り細を穿つ語り口に血の気が引く。笹木じゃなく俺が吸われたに違いない。クラクラするもん。洒落やないからな。

◆水鉄砲再び

　出社してきた倉田の手には大きめのエコバッグがぶら下がっていた。何か縦長のものがそこから、ほんの少しだけ出ていたが正体を推測するには足りな過ぎる。まさかフランスパンじゃねぇだろうし。

「はよ。ずいぶんデカいモン持ってきたな」

　好奇心から余計なことを聞けば、倉田はキーボードを避けてわざわざデスクの上へエコバッグを置き、

「さっさ、去年の夏に水鉄砲で試合したの、覚えてるか？」

　オレの言葉とは到底関係のない話題を持ち出した。エコバッグの中身はまだ見えない。

「覚えてるぜ。そもそも勝敗をどうやってつけるか考えないままに始めて、お互いめっちゃ濡れただけだったやつな、それがどーした」

　まだ水遊びには早いだろ。色眼鏡の向こうにある目とは微妙に視線が合わない。人間は過去を思い出す時視線を上げるって言うしな、こちらも何となく視線を上げたところで、

「あん時は魔法少女のステッキみたいなので戦ったやん。さっさに三百円均一で買ってきてもらったやつ。で、」

　倉田はそこで一度言葉を切り、遂にエコバッグから中身を取り出した。パステルカラーが絶妙に浮いている、ファンタジーでお馴染みの両刃斧がふたつ。

「新作はバトルアックスやって。今年こそこれで白黒つけるで、さっさ」

「……気が早すぎんだろ、だから！　まだ花見もしてねぇんだって！」

　ついでに、どうせならもっと本格的なのがいいと唇を尖らせれば、不自由こそが真の自由やで、よくわからない言葉と共に一挺を渡された。どうせならエコバッグも寄越せ。

◆バナナ

お題ガチャ「あの子に飯を食わせたい」結果「バナナを二本同時に食べる倉田さん」より

　今日の会議、気合入れんと。そう言って昼休みにも資料を見る倉田の右手にはバナナが握られている。片手で食えるしいいよな、言葉は驚きの行動でかき消された。

　バナナがもう一本登場。倉田は両手それぞれに持ったまま器用に皮を剥くと、一度に口へと突っ込んだ。

「いやそれじゃ資料見れねぇだろ！」

　振り絞った声へ、

「時短。これぞ効率化……」

　頬を膨らませた顔が応える。やめろ、こっち向くな。

◆ゼリー飲料　倉田さん視点

お題ガチャ「あの子に飯を食わせたい」結果「inゼリーを10秒で吸い込む笹木さん」より

　リーダーと外出していた笹木が昼休みの終わり際、ばたばたと戻ってきた。どうせならゆっくりしてくれば良かったのに、とスケジュールを確認すると午後には予定がひしめいている。えっぐ、顔を上げた瞬間、

「……っし」

　十秒チャージでお馴染みのセリー飲料が顔の上で握り潰され、ゴミ箱へ消えた。今の何なん。十秒あるかないかの出来事に思わず、

「魔法？」

　瞬きを繰り返せば、

「あ？　食事」

　二つ目が潰れる。え、怪力の間違いじゃないんかそれ。

◆車内の秘密

「悪ぃな日下。車助かった」

「いいよー僕も行きたいとこだったし、あそこ駅から歩くしね」

「そーなんだよな……ん、あ？」

「どうかしたー？　笹木」

「穴開いてるぞ。あー止まってからでいいって、シートの下のところ」

「あーこの間倉田乗せたからかな」

「アイツ、穴開けるようなトコあんの」

「秘密なんだけどね」

「まだ尖ってんのかークラ」

「内緒にしててよ！」