第5話 強盗?

 会社の人たちも事情を聞かれて、多分江田君の不倫相手の旦那が嫌がらせしてるんじゃないか、と誰かが言ったようだった。


「前に派遣の女性と交際なさってましたよね?」と、警察に尋ねられた。


 でも、旦那はタクシーの運転手だからバレてないと思うと、俺は話した。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 会社では、あの派遣さんが殺されてるんじゃないか、とみんな盛り上がっていた。彼女は同性から嫌われてたらしい。本当に亡くなっているかもしれない、と俺は心配だった。目を閉じると彼女の裸が浮かんでくる。俺を大げさにほめてくれる明るい声色。愛はないけど、彼女のことが好きだった。


 警察の人に怒られるかもしれないけど、彼女にメールを送ってみた。そしたら、すぐ返事が来た。


『今すぐ会いたい』って。

『無理だよ。会社にバレちゃってるし。減給とかになったら困るから』

 俺は送った。

『愛してないの?』

『ごめん』


 俺はそのまま仕事を続けた。後は警察が何とかしてくれる。

 でも、仕事なんか手に着かなかった。書類の同じところを何分も見ていた。

 警察から連絡来ないかな・・・俺は電話を待ち続けた。


***


 夕方くらいに、会社のエントランスで女の人の悲鳴が聞こえた。


「ギャー!!!」

「警察呼んで!!!!」


 多分、総務のおばさんだ。エントランスはセキュリティがあるから、応対に出て刺されたんだ。


 声の調子から、尋常じゃない事態が起きていることがわかる。みんなで顔を見合わせたが、誰も出て行かない。隣の人が冷静に110通報していた。


「強盗です。今すぐお願いします!殺される!」

 

 ドアの近くに座っている人が、オフィスのドアをキャビネットで塞いだ。

 出て行ったらヤバイことはそこにいる全員が気付いたいた。


 俺は咄嗟に机の下に隠れた。旦那がこれから部屋に入って来て、俺を探して歩き回る。それで、俺を見つけて刺すんだ。きっと殺される。俺は恐怖でそこから一歩も動けなかった。


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