第4話 私はキングで、クイーンで、メインキャラクターで。
夜の風が私の頬に突き刺さる。
冷たい空気の中を、スピードを出して自転車でつき進んでいく。
私はいつだって主人公だ。
学校の帰り道。
街灯もない、暗い、道路わきの歩道を立ちこぎですいすいと泳ぐように家に向かう私は、ふと突然そう思った。
誰もいない道に、ひとつの光がぽっと浮かびました。
その正体は、自転車のライトです。
自転車をこいでいたのは、学校から帰る途中の、制服姿の女の子です。
髪を後ろでお団子にして、長そでの夏服を袖まくりして、ヘルメットもつけている子でした。
そんな子がいたら、私は間違いなく真っ先にこう思うのだ。
あの子は、キングだ。
クイーンだ。
トランプの十一と十三だったっけ。あれ、十二?
なんてアホなことを考えながら、他のことに目を向けて、ゆっくりと目の前のことから目を逸らすのだろう。
私は教壇に立って話すことが好きだった。
一日一人が教壇に立ち、一分間お題に沿った内容のことを話すスピーチの時間が設けられている私の学校。
一クラス三十人程度だから、私が話すのはだいたい二か月に一度。
その時間が本当に楽しみで、楽しみで、しょうがない。
だって、私みたいな人間が、一斉にクラスメートの視線の的になるんだ。嬉しい。
永遠とオチがないようなつまらない話をしても、女子らしからぬ変な話をしても、誰もが私の話を聞いてくれる。夢のような時間。
適当に右から左に聞き流している人もいるのかもしれないんだけど、それでも私は、どうしようもなく嬉しいんだ。
友だちに誘われて、私は生徒会に立候補した。
信任投票、定員ぴったりの人数が集まったときはそういう決め方をするのが私の学校のルールだった。
それでも、体育館の高い壇上で演説をすることにはなんら変わりなんかなくて、いつもよりもずっと、心が躍っていた。
変なこと言おうかな。でもみんな他の立候補者の話で疲れてるから、簡潔に済ませようかな。しっかり話したほうがいいのかな。ちゃんと話聞いてくれるのかな。
いつもよりも考えることは多くて、ぐるぐると頭の中で情報が行きかっていた。
それでも人前で話すことはやっぱり楽しくて、にこにこと笑顔で演説を終えた。
そんなことを思い出して、暗い空間に浮かぶひとつのライト、それがついている自転車をこいでいる女の子を見つめるんだろうな。
あの子みたいにひとりぼっちでいることは好きだけど、友達をいることも好き。先生と話すことも好きだし、お母さんたちと話すことも好き。
あふれかえった好きの中から一番好きなひとつを選び抜くのは難しい。
全部を持っているのは、メインキャラクターだけ。
私は全部ほしいから、私の人生のメインキャラクターになる。
もちろん、サブキャラクターも、みんなみんな、私の人生っていうドラマの登場人物は私が決める。
だって私の人生だから。
私の人生の舵は私が切る。
だって私の人生の主人公は私だから、サブキャラクターのあんたたちに左右されない。
主人公は、私なのだ。
主人公は私。 希音命 @KineMei
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