中学二年生

第2話 私が正しい。

 私は、学校の人間に向いていない。そうあるべきじゃない。


 そう小さな社会に思わされたのは、休み明けでかったるい月曜日の一限。

 週の始め、毎週の恒例行事である朝礼のあとは、私が世界でいちばん嫌いな授業。道徳。


 なんでこんなものがあるのか、私は理解に苦しんでいる。



「では、主人公がどのような気持ちだったかをプリントに書き込みなさい。」


「この場面について、どう思いますか?」


 こんな質問、なんの役に立つか。

 将来取捨選択ができるようになる? 柔軟な考え方? 優柔不断な性格の更生?


 はは、笑えてくる。


 つまらないな。と考え、寝ている生徒も多い中、私は内心嘲笑っていた。

 性格を治すなんて、そんな大層なこと、できっこない。


 ああ、でも。と私は思った。


 こんなことを考えている時点で、私は道徳心に欠けているんだ。


「この問題に答えはありません。」って。

「あなたの解答が正解なのです。」って。

 そんなこと言ってる先生、おかしいと思う。


 お話の中に転がっている、幾つもの心を揺らす判断材料がある中で、一つ二つだけを選び抜くのって、難しくない?


 できるみんなのこと、ソンケイするよ。

 みんなは簡単にこなしちゃうかもしれないけどね、私は大変なの。苦労してるの。


「希音さん、どう思う?」


 グループワークの時間、クラスメートが私に意見を求めてきた。


 私は戸惑った。


 真実を伝えるか、嘘で覆い隠すか。

 白と黒の激しい攻防戦が、私の中でくり広げられた。


 最終的に、勝ったのは――


「何も思わない。」


 白だった。


 私に対してクラスメートは、「早くしろよー。」と茶化しながらも急かしてくる。

 真面目に言ってないと思ってなのか、向こうはニタニタと気持ち悪く笑うだけ笑って、他の話をしだした。

 グループリーダーが話を戻し、「希音さん、どう?」と言ってきた。


「だから、何も思わないって。え、さっきも私言いましたよね?」


 笑って言ってみた。

 男子に対しては敬語とタメ語がぐちゃぐちゃと混じる。緊張と警戒心と仲良くなりたい気持ちでなってるんだと思う。


「えー早く早く。意見まとめないと当てられそうじゃない?」


 それはそうなんだけど。


 私は、私の意見を認めて欲しかった。

 尊重して欲しかった。


 ひとりの人間として、認めてよ。


 これも意見だよ。


 私は他の人よりも承認欲求が強いんだ。これも、私を作る、個性のうちのひとつだよ。


 なんで。


 私がおかしいの――?


 いや、私はおかしくない。


 だって、私の解答が正しいから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る