主人公は私。

希音命

中学一年生

第1話 拝啓、意地悪な神様。

「命は恋愛しなそうだよね。」

「それな。命が恋したら地震来るって。」


 友だちによく言われる。


 見た目にこだわらない。自分の男っぽい口調も行動も気にしない。

 周りから見たら、そう見えるかもしれない。


 でも、私だって女の子だから。恋がしたい。片想いしている人だって、いる。

 それでも私は怖がりだから、こう答えた。


「大丈夫だ、安心しろ。そんなん、私が一番わかってるから。」



 好きなのは私の席よりも十分遠い席のあいつ。

 身長が高くて、ニキビだらけでイケメンには程遠い。

 バカにしてくるし、蹴ったりしてくるけど、同じ塾に入ってきたから、自然に一緒にいる時間が長くなった。だから、私は好きになってしまった。


 部活は男女別だけど、名目は一緒だし、あいつの話好きだし、話しかけてくれるし。あと、頼ってくれるし。


 だから、あんな告白を受けた時は驚いたんだ。


「俺さ、好きな人いるんだよね。」


 頭の中が真っ白になって、後頭部を殴られたような感覚になった。

 なんて、小説の中みたいな感じはしなかった。

 なんとも思わなかった。

 人に無関心なんだって、気付いた。

 だから私は、この人のことが好きじゃないんだ、って思った。


 とりあえず、なんと返せばいいかわからなくて、今できる力で笑顔を取り繕った。


「へ~。」

「お前と同じ部活にいるんだけど。」


 やっぱり、私なんじゃないか。

 私のことを想ってくれているのかな。


 胸がどきどきした。

 初恋、なんてきれいなものではないけど、この人に告白されるかもしれないと思うと、いつもより体がおかしくなった。


 私は意地悪だから、こいつから言ってほしかった。

 私の名前を出すのは、こいつの口から出して欲しかったんだ。


「えー、あ、あの子? やっぱそう? かわいいしさ、面倒見いいから?」


 あの子、というのは同じ部活の中で、唯一同じクラスの子。

 ボブに切りそろえられた髪と、黒ぶちフレームの眼鏡、あと黒マスクをつけている子。

 本が好きで、静かな人だと思ったのに、話してみると全然静かじゃなかった。面倒見がいいお母さん気質で、私のことも助けてくれるいい人。


 そっか、あの子か。と、独り納得する私に、否定の言葉をかけて欲しかったんだ。

 違う、あの子じゃなくて、このクラスにいる他のやつ、と。お前、だと。


「違う、このクラスにはいない。」


 あぁ、神様。

 私は何かしましたか。

 私は普通の女の子と同じなんです。生理だってくるし、恋だってするし、ちょっとしたぶつかり合いもします。口が悪くて、顔はダメダメでも、女の子の端くれなんです。

 なんで。


 心の中でそういっても、あいつの瞳に描かれている私は考える仕草をした。


「んー、あ、じゃあ隣のクラスのさ、○○ちゃん? めっちゃかわいいもんね。」


 あいつは顔を赤くした。刹那、私は悟った。私の片想いは終わらされたんだ。


 違う、やっぱり違う、このクラスって言ってほしかったのに。


 それでも私はポーカーフェイスがうまいから、まじで! と笑顔をつくった。


「おめ~! え、もう告ったん?」

「それをお前に頼みたくて。」


 どこまで神様は、私に意地悪なんですか。


 こいつに意地悪をした、私への当てつけですか。


 ○○ちゃんは、話せるけど向こうから話しかけてくることもなかった。私とそんなに趣味があうと思っていなくて、あまり話さなかった。


 まさか私が、自分で自分の想いを終わらせないといけないなんて。


 でも私は、それでも私は好きなんだ。こいつのことが。


 だから。


「えー、まじー? そんな重要な役目、私が担っちゃって大丈夫なわけ?」

「まじでお願い。お前だから、頼んでるんだって。」


 両手を合わせて、女子の中でも身長の低い私にむかって頭を下げた。


 純粋に、嬉しかった。私だから頼んだって。私はそれくらい信用されてるんだ。心の底からうきうきした。


 欲張りな私はずるいなあと、泣きそうになった。でもここでどこかに行ってしまえば怪しまれて、このお願いだってなかったことにされるかもしれない。


 すぐそこの教室の入口のところで、私が更衣室に行くのを待ってくれている部活の友達だっている。

 その中に、あの子だっている。


「りょーかい。いつ言えばいい?」

「できれば早く。」

「おけ、今日ね。」

「え、早くね?」

「だって早くって言ったのそっちじゃん。」


 くよくよと悩むこいつの背中を押したのは誰だ。

 お母さん気質のあの子でも、○○ちゃんでも、こいつ自身でもない。まぎれもない、この私だ。


「じゃー明日、休み時間に報告会ね。よろー。」


 準備してあった荷物をひっつかんで、私は逃げるように教室を出た。

 廊下で待っていた友達と合流して更衣室に向かった。あの子の顔は、見れなかった。



 拝啓、意地悪な神様。私は。

 普通の女の子になりたいです。 

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