第3話 お兄さんが……好き……なんです……
――ザッパァァァン!
――クルクルッ。
――シュタッ。
「お兄さん! 今日のショーも最前列で見てくれて、ありがとうございました!」
「スマホを返してもらうためだから? 相変わらず素直じゃないですねー!」
「一週間毎日、ショーを毎回最前列で、私だけを見続ける。そしてふれあいタイムにも必ず参加する!」
「それが私の指示でしたね!」
「そして今日で、私がこの姿でお兄さんの家に来てから、ちょうど一週間になりますね」
「つまりこれで、私はスマホを返さなければいけません……よね」スッ。
「はい、どうぞ……」
――ヒョイ。
「……」
「あの……えっと…………もし、よかったらなんですけど……感想を聞かせてくれたらなぁ……なんて……あははは……」
「プールから出た瞬間人の姿になるのが不思議? イルカのときは裸なのになんで人の姿では服を着てるのか? た、確かにそう思うかもしれないですけど!」
「そうじゃなくて、純粋にショーの感想を聞きたいです!」
「うんうん! すごかった……綺麗だった……」
「ありがとうございます!」ガバッ。
「えへへ……抱きついちゃいました。すりすり……すりすり……」
「すりすり……え? なんですか?」
「視線を感じる……? まさか!」バッ!
「よ、よかったぁ……他に人は来てないみたいですね……」
「でも、それならなんで……?」
「……あ」
――チャップン。
「ちょっとマイちゃん! こっち見ないで!」
「アイちゃんもルイちゃんも! お願いだからあっち行って!」
――ザパッ。
「ふぅ……どうにか出て行ってくれましたね……まさかイルカの姿のままプールで私たちを見ていたとは……」
「別に見られててもよかった……? だ、ダメです!」
「お兄さんはよくても、私がダメなんです!」
「だ、だって……その……」
「お兄さんには……私だけを見て欲しい……」
「私は……お兄さんと……二人きりでいたい……」ギュッ。
「……」
「……ごめんなさい……私……隠していたことがあるんです……」
「お兄さんは……学生証を……落としてなんて……いないんです……」
「……私が……お兄さんのポケットから……抜いたんです……」
「なんでそんなことをしたのか……? そうですよね……」
「それは……私……」
「私が……ショーのときのお兄さんについて……知っていたのは……私が意識を向けていたからです……」
「意識せずにはいられないほど、ショーを観ていたお兄さんは魅力的でした」
「この人に触れたい、触れて欲しいと思いました。でも、お兄さんは来てくれなかった」
「だから……私の方から……お兄さんに会いに行くための口実が欲しくて……それで……」
「ごめんなさい……でも……私……」
「お兄さんが……好き……なんです……」
「もっと私を見て欲しい、もっと話したい、もっと一緒にいたい。そう思わずにはいられないんです」
「お兄さんは……どう……ですか……?」
「私のこと……どう……思います……?」
「私の……彼女に……なってくれますか?」
「え……もう……彼女がいる……?」
「だから……気持ちには応えられない……」
「そうですか……」
「で、ですよね! お兄さんかっこいいですし、彼女さんとかもいますよね! あ、あははは……」
「今まで、ご迷惑をおかけしました!」
「あっ、もうすぐ閉館時間ですね! お気をつけて!」
「……」
「ほらほら早く! 早く帰らないと怒られちゃいますよ!」
――カッカッ。
「も、もしよかったら、またショー観に来てくださいね……!」
「……」
「やっぱり……嫌……です……」ギュッ。
「私……お兄さんと……もっと……これからも……一緒に……いたいです……」
「私……お兄さんが……好き……です」
「……答えはいらないです……だって……もう……わかってますもん……」
「だ、大体おかしいですよね! イルカが人間に恋愛感情を抱くなんて! あははは……」
「……」
「……」
「はえ? 今……なんて……?」
「彼女なんていない……? 全部嘘……?」
「それ……本当……ですか……?」
「そ、そうですか……」
「なんでそんな意地悪するんですかー!」
「わ、私、すごくショックだったんですよ!」
「が、学生証を取ったお返し……ですか……」
「で、でもひどいです! こんなことするなんて!」
「私……私……お兄さんともう会えないんじゃないかって……」
「……え?」
「い、今のもう一回! 言ってください!」
「お兄さんも……私のことが好き……」
「それは……嘘……ですか?」
「……本当……?」
「そ、そう……ですか……」
「え、えへへ……私も、お兄さんのこと、好きです」
「私の気持ちも、本当です!」
「あ、あの……お兄さん……」
「今度はラビングじゃなくて……人間の方の、愛情表現……をやってみたいなぁ……なんて……」
「いい……ですか……?」
「で、では……」
「んー……」
「お兄さん……改めて見ると……背……高いですね……」
「とどかな……」
――ザッパーン!
「わわぁ!? マイちゃん!?」
「な、なんでまだいるの!?」
「だ、ダメダメダメ! マイちゃんまで人の姿にならないで!」
「わー! わー! うわー!」
「お、お兄さん! 私の手を握ってください!」
――ギュ。
「急いでここから出ましょう!」
――タッタッタッ。
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