第2話 ……もしかして、恥ずかしがってます?
「おじゃましまーす……。おぉー! 広々としてていいですね!」
「くんくん……いい匂いもしますね!」
「……すんすん」
「お兄さんも、いい匂いですね……」
「すんすん……すんすん……」
「え? なんでそんなに匂いを嗅ぐのかって?」
「それは……元の姿だと、匂いがわからないんです」
「ですからちょっと新鮮で。……すんすん」
「……もしかして、恥ずかしがってます?」
「お兄さんもかわいいところ、あるんですねー」
「からかうなって? えへへっ」
「すー……はー……すー……はー……」
「やっぱり、いい匂いですね……」
「……やめてほしい? はーいはい。わかりましたー」スッ。
「それならベッドの匂い嗅いじゃいます! えーい!」ボン!
「これは……ふかふかで……気持ちいいですね……」
「あれ……? これは……?」
「これ……お兄さんのスマホですか? そうですよね!?」
「んー……どれどれ……」
「パスワード……?」ポチポチ。
「あっ」
「解除、出来ちゃいました!」
「なんでそんなにびっくりしてるんですか?」
「学生証に書いてたお兄さんの誕生日、そのまま入力したら出来ちゃっただけですよ?」
「こういうことが起こるから、ちゃんと考えて決めないとダメなんですよ!」
「さーて。お兄さんはちゃんと私を撮ってくれてるかなー?」
「んー。これはハリセンボンで、こっちはウツボ。ウニ。タラバガニ」
「うわぁ!? なんですかこれ!? あっカワウソ……すごい角度から撮ってますね……」
「イワシの群れ……美味しそうですね」
「カクレクマノミ……ナンヨウハギ……」
「カレイ……じゃなくてヒラメか……」
「クラゲ」
「アザラシ、ペンギン……」
「ん……? これは……」
「これアシカショーじゃないですか! やっぱりそっちの方がいいんですね!」
「シャー! 本当に食べちゃいますよ!」
「え? この後にイルカショーに行った? ならいいんです!」
「ほんとだ! スタジアムの写真ですね!」
「あ、マイちゃんだ! それにナホ先輩もいるじゃないですか! このツーショットは貴重ですよ!」
「マイちゃんは一番小さい子で、ナホ先輩は一番大きな子ですから!」
「顔しか水面に出てないから、どっちがどっちかわからない?」
「いやいやいや! それでもさすがにこの二人の見分けはつかないとダメですよ! だってそもそも種類が違うんですから!」
「まず、こっちはマイちゃん。カマイルカです! その名前通り、背びれの模様が鎌みたいになってます!」
「背びれ以外にも身体全体がしましま模様で! 小柄で! だから動きも俊敏で! 私よりも! 高く! 華麗に! 飛べちゃうんです!」
「これがどういうことかわかりますか!?」
「そうです! 見た目がわかりやすくて迫力ある子は人気になりますよね!? アイドルドルフィンになりますよね!?」
「も、もちろん一番人気なのは私なんですけど? 後ろを追っかけてくるライバル……みたいな子です!」
「で、こっちはナホ先輩。オキゴンドウです! 体長は五メートルを超えてます! ここまで大きいので、クジラ扱いされたりしてますね!」
「私? 私は……まあ、二メートル……五十……五センチくらいですかね?」
「明らかに二メートルもないじゃないかって? それはそうですよ! だって今は人間の姿なんですから!」
「今のこの姿の身長は……? んー……あんまり測ったことはないですけど……ってどこ行くんですかー!?」
スタスタ。
シャラララッシャー。
「手に持ってるのは……巻き尺?」
「ま、まさか、こ、これで私を縛ってあんなことやこんなことをしようとでも言うんですか!? させませんよ!」
「違う? 身長を測る? 私の?」
「で、でもなんか顔怖いですよ! 本当にそれが目的ですか!?」アトズサリ……。
「わぁちょっと……あっ……」
ダン!
「か…………壁……ドン……」
「わ……私……お兄さんになら……」
「ん……」
シャー。
「あっ、今から測るんですね……。だから私を壁まで……」
「で、でもなんか……顔が近い…………あと……秘密を暴かれる感じがして……ちょっと……恥ずかしいです……」
「あ……あの……」
「ま……まだ……ですか……」
「あの……わざとゆっくりやってたりとかしませんよね……?」
「終わった……? それで……私の身長は……」
「……一メートル五十五センチ?」
「あ、あはは……一メートルも縮んでるんですね……」
「え? ちょっと! 今度は何を!」
「スマホを返してって?」
「ダメですよ! だってまだ肝心な写真を見つけてないんですから!」
「お、ナホ先輩のドアップですね! 見た目はちょっと怖いですけどすごく優しい方ですよ!」
「ちなみに、ナホ先輩は見た目通りパワフルなパフォーマンスが得意で、トレーナーさんを乗せながら泳いだり、空中に打ち上げたりしてますよ!」
「それで……これは……私の姉のリリですね!」
「ん? 姉も人間の姿になれるのかって?」
「なれますよ! というより私たちの水族館にいるイルカはみんな変身できます!」
「あ、あれ? これ言っちゃってよかったのかな……?」
「えっと……他の方には内緒ということで……」
「内緒にする? ありがとうございます!」ペタリ。
「すりすり……すりすり……」
「そろそろ私の写真もあるかなぁ……」クイッ。
「セイウチ。トド。ウミガメ……」
「……あれ!? 私の写真は!?」
「も、もしかしてショーしてないときに撮ったのかな?」
「えっと……とりあえずイルカはいるかな……」
「あ、ああ……。マイちゃんだぁ。で、アイちゃんルイちゃん」
「お姉ちゃん」
「またアザラシ……イルカは!? 私は!?」
「まさか……私を……撮ってない……? 一枚も……?」
「え? ショーを観るのに夢中で撮ってなかったかも?」
「あ、ありがとうございます……」
「でも! ここまで他の子撮ってるなら私も撮っておいて欲しかったです! それこそふれあいタイムに参加してでも!」
「恥ずかしいものは恥ずかしいと……。そうですか……」
「そうだ! 写真がないなら今撮っちゃえばいいんです!」
「いえーい!」カシャ。
「えーい!」カシャ。
「ほいっ!」カシャ。
「あ、ほらほらお兄さんも一緒に!」グイッカシャ。
「えへへっ。ツーショット、撮っちゃいましたね!」
グイッ。
「あ! まだスマホは返しませんよ!」
「だってお兄さんは、私の写真も撮らず、ふれあいタイムにも参加しなかったんですもん!」
「これは重罪です! 罰が必要です! という訳でこれは没収です!」
「返してくれないと困る?」
「確かに、スマホがないと困りますよね。だからこれが罰です!」
「謝るから返して欲しい?」
「んー。どうしようかなー」
「そうだ! これから言う、私の指示に従ってくれたら、返してあげます!」
「普段はずっとトレーナーさんの指示に従ってますからねー。たまには私だって逆の立場に立ちたいなって思ったりするんですよ!」
「お兄さんも、それでいいですか? いいえ、拒否権はありませんよ!」
コクコク。
「うんうん! 素直でよろしいです!」
「それじゃ、一体何をしてもらおうかな……」
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