第11話 女勇者、デザイナーと出会う
「本当に申し訳ないです.....。全ては僕の落ち度なんです...アダム様には大変な無礼を...」
俺の目の前には、地面にめり込みそうなほどに深々と土下座をキメているシャルの姿があった。本当にこいつは良い意味でも悪い意味でも一国の王子とは思えないほど物腰が柔らかい。腰が低過ぎるとも言うけど。
まさしく一人で平身低頭を体現するかのごとき最高の土下座をされてしまえば、もう俺だって叱る気にもなれなかった。まあそもそも初めから少しも怒ってなどいなかったが。
「いや、別に怒ってねーよ全然。そんなの聞かずにスライム討伐しに行って勝手に寝込んだ俺が悪い。それにお前、しばらく内政であちこち走り回って忙しそうにしてたろ?じゃあお前の落ち度じゃないから謝るな」
「し、しかしですね...」
「良いから。こんな姿国民に見られたら王族の威信に関わるぞ?」
ほら立った立った、と無理やりシャルを引きずり起こす。ううううと子犬のような唸り声を上げながらようやく立ち上がったシャルは、すぐさま切り替えたらしくキリッとした顔で俺を見た。
「ですので!!もう既にそのリカバリーをするために今日は専門家を呼んでいます!」
気を取り直すためか、やや大袈裟な声と身振り手振りでシャルが扉を開け放つ。こいつがやけにノリノリなのが気にかかるが、まあ一々気にしてもな。シャルから目を離して扉の方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
妙齢の女性だ。後ろへ撫でつけられたシルバーブロンドは老いの象徴であるはずなのに、見た目のイメージのどこにも老いを感じさせない。タイトなズボンに赤いハイヒールが眩しい。おそらく老齢であろうはずなのに年齢を感じさせない眼光は、彼女の輝かしいキャリアを感じさせた。ゆっくりと紅が塗られた艶のある唇が開く。
「ほう。あたしを見てビビらないとは。暴れたい盛りのお転婆小娘だと思いきや随分と理知的じゃないか。嫌いじゃないよ、アンタみたいな目をする子は」
「あんたは...ああ、先に名乗るべきだな。俺はアダム。王子シャルルヴィルに召喚された、勇者一年生だ」
「かっかっか、なかなか弁えてるじゃあないか。良いだろう。殿下の顔に泥を塗る訳にもいかんしねぇ。あたしはカロル・ブリジットさね。王宮お抱えのデザイナーさ。他のガキ共にはマダムと呼ばれているが。まあ好きにお呼び」
なるほど、専門家って服飾のってことか。カロルの後ろでふんふんと興奮気味に目を輝かせているシャルをちらりと見る。王宮お抱えってことはさぞ腕のいいデザイナーなんだろうな。シャルもえらく可愛がられてるみたいだし、この懐きようも納得だ。
こういうタイプは...。
「分かった、カロル。よろしく頼む」
「!あんたで二人目だよ、初対面であたしを呼び捨てた命知らずは。...良いね。想像以上に当たりを引いたもんだよ、殿下は。さて、それじゃあ始めるとしようか」
カロルがそう言った途端、空気がひりついた。部屋の中が数度下がったかのような錯覚を覚える。パチン、と彼女が指を鳴らした瞬間に複数人の侍女たちが部屋に大量の衣服を持ってきた。一体どこにしまっていたんだと思うぐらいの量だ。常々広いと思っていた自室があっという間に衣服や装飾品で覆い尽くされる。
「さあアダム。あんたの最高の防具を見繕うとしようか!」
明るい部屋なのにギラギラとカロルの目が怪しく光る。ああ、そういや前世にも居たな。俺を着せ替え人形か何かだと思ってあれこれ服を押し付けてきた奴。じりじりとカロルに追い詰められ、背筋に走る悪寒を押さえ込みながらも、俺はかろうじて首を縦に振った。
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