9-1作品目 イルヴェント・ポッロフリット

 あれから、数日が経った。


 相変わらず怪我だらけのホープ、人当たりがいいコハルさん、ウザいニケとエルミ、そして……


「帰る準備できた?」


「おう、いつでも行けるぞ」


 ……いつも通りの、テル。


 正直進展が無いからどうしようと思っていたが、俺は『描写を飛ばす』という能力を手に入れた。


 しかし、今は飛ばせないということは……


(この後、なんか起きるな)


(まぁ、多分だけど起きるだろうねー)


(もしかしたら、飛ばしすぎるのが駄目だという可能性もある……が、これまでの長さ的にもそろそろだろうな)


(やっぱりお前らもそう思うか)


 そんな感じでシリアスな空気だったが、何も知らないテルが飲食店を指差す。見た感じ、肉がメインなんだろう。


 指差す先には看板があり、そこには「お持ち帰り可能!」と書かれている。


「あのからあげ美味しそうだし、ちょっと買ってきます」


「俺もついていくよ。なんか美味しそうなのあるかもだし」


 その店にはからあげの他にステーキ、ナゲット、骨付き肉があった。


「……いらっしゃ〜い」


 なんか陰湿な女性が受付をしている。髪も長くてボサボサで、目の下にくまが出来ている。


「店内で食べますかぁ?お持ち帰りですかぁ?」


「このからあげ15ピースを持ち帰りで!」


「かしこまりましたぁ……720マテルですぅ」


 テルは慣れた手付きで財布から小銭を取り出して渡す。


「80のお返しとレシートですぅ。出来上がるまで5分ほどお待ち下さいませぇ……」


(5分……早いな。からあげってそんなものだっけ)


(もう既に種は作ってあって、それを揚げるだけなんじゃない?)


(なるほど。……ここ見た感じレジの人とキッチンの人の二人しかいないのかな?)


 奥の目つきの鋭い男性は、軽やかに肉を揚げていく。


(……ん?)


(キリムも気づいたか)


(え、何どういうこと?)


(あぁ、いや、まだ可能性何だけどさ……


 あれ、鶏肉じゃないよね?)


(……いや私にはわかんないんだけど!?からあげ一つでわかるものなの!?)


(からあげのほうじゃなくて、後ろにかかってるやつ……ほら)


 後ろにかかってるやつ……それは、一見ただの鶏肉に見えるが、鶏とは少し形が違う。


 他の鳥の可能性、とと思ったが羽に当たる部位がない。


 そして、形から俺はあの肉が、に気がついた。


(……あー、うん。疑わしきは罰するの精神

(いや罰しないから。確認だけしてみるだね)


 俺はレジのお姉さんに話しかける。


「すみません、ここで使ってる肉って何肉ですか?」


「んー?えっとね」


 お姉さんは後ろを警戒しながら、俺にしか聞こえないぐらいの声量で教えてくれた。


「カイ……キッチン担当からは鶏肉って言われてるけど、絶対違うよ、あれ。もっと言うなら……多分、兎だと思う。間違ってたらごめんね」


 そう言うやいなや、お姉さんは……



 胸元を後ろから刺されていた。


――――――――――――――――――――――

次回へ続く

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