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――黒髪黒眼の男、キリムはただの学生。もちろん、このような状況に耐えれるわけもなく……
その場に膝から崩れ落ち、嘔吐した。
扉の向こうでテルメランは待っているが、状況を察したのか彼に対して心配の声をかける。
彼の心の声を聞いているガヴリエルもただ黙っているだけの冷酷な存在ではないようで、同じく心配している。
(大丈夫?)
(普通の学生がこんな状況を目撃したらこうなることもわからんでもないが、取り敢えず落ち着け。
お前は悲鳴を上げた奴を探しに来たんだろう?ちゃんと働け)
(ハーデス!もっと他にかける言葉とかあるでしょ!?)
怒りを隠す気もない声でハーデスに威嚇を行うガヴリエル。その姿は優しさ故に全力で守ろうとする、母のような存在だった。
「……はぁ……はァ……」
キリムは少し慣れてきたらしく、ゆっくりとだが、立ち上がり始める。
「……テル、こっちには来るんじゃ……ないぞ?お前はその階……段を見張っておけ」
途切れ途切れだが、強く発するその言葉はテルメランをその場に留めるには充分だった。
「っ……キリム、気をつけてくださいね!」
「言われなくても」
……。
キリムは背伸びをし、見栄を張り、虚勢を張り……それは大切な者に心配をかけたくないという意思の表れだった。
彼は主人公。僅かな光ですぐ元気になる者……
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(……精神安定の魔術、付け焼き刃でも使える?)
(いや、私たちがかけるから)
(……ホントに、ありがとうな)
(いや、利用して利用されての関係だし、これくらい当然だよ)
フフフと笑うガヴ。今後変なこと頼んできそうで怖いな……。
(ほい、だいぶラクになったはずだよ)
(……ん、ホントだ)
(元々精神すり減ってた気もするけどね)
(ただの学生がコレで減らないわけないだろ?
……これからも、こんなことが続くのか?)
(んー……)
(今このような事態に巻き込まれてる時点でお前の物語の方向性は定まってるだろうな……。今後もこんなことが起こるに決まってる。もちろん、仲の良い奴等も死ぬかもな)
(ハーデス、いい加減に……)
(ガヴ、大丈夫だ)
(……)
(ハーデスの言うとおりだな。こんな事件に巻き込まれたんだ。これはバトル作品なんだろう。
でもさ、こっから頑張ったらジャンルって変わらないのかな?)
(……前例があるかどうかも知らんし、だいぶ無謀なことだろう)
冷酷に事実を述べている。と、思いきや……
(つまり、お前がそれに成功する可能性もある。主人公ならそれぐらいやってみせろ)
……まさか、ハーデスに慰められる日が来ようとは思わなかったな。
そもそも合うことすら思っても無かったけどな!
(うし、気合い入れるぞー!)
(おー!)
バン!
「警察です!大丈夫ですか……ってうわっ!ホントに大丈夫かい!?」
俺は覚悟を決めたが、嬉しきかな、空振りで終わったのだった……。
……少なくとも、今日は。
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次回へ続く
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