6-4作品目 主☆人☆公

「こっ、これが……ホワイトストロベリーアイスパフェ!」


 俺達は今、あるスイーツ店の座席に座り、とても大きいパフェを前にしている。とても一人では食べ切れない量だ。多分、これを見越してテルは二人で来たかったのだろう。


「パフェ一つで千マテル……高ぇなぁ……」


 もちろん、割り勘なので500マテルしか払ってないが、それでも高く感じる。


「いただきます。……っ!」


 テルはこのパフェが気に入ったようだ。何かテルに後光が……うん、気のせいだな。そのぐらい美味しく感じてるだけだな。


「ほら、キリムも!」


「あ、じゃあいただくぞ」


 俺は自分の分のスプーンで一口分すくい、口に入れる。


「!!!!」


 濃厚なクリームにフレッシュな苺……。柔らかい生地の下にはサクサクなコーンフレーク!


「何これぇ。美味すぎじゃない?」


「……!」


 テルが無言で……というより、食べながら全力で首を縦に振る。可愛いかよ。


「やべぇ、止まんねぇ……」


「パクパクパクパクパクパク」


「ちょっ!テルほっぺためちゃめちゃ膨らんでるから!落ち着いて!」


 その後もどっちが多く食べたか議論や最後の苺を取り合ったりしながら楽しく過ごし、あっという間に夕方になった。


「あ、ここの公園……懐かしいな」


「ですね。キリムと私……それと、エルミさんが出会った場所です」


 そう、ここでテルとあいつと合った……が、この話はまたいつか。


「キリム、今日はありがとね」


 夕日に背を向け、笑顔でそう言ってくる。だいぶ臭いシチュエーションだが、やはり俺も一人の男。


 素で可愛いテルがより綺麗に見えて、一瞬ドキッとした。


(ふむ……これはテルちゃん√入ったかな?)


(この程度でフラグが建ったら苦労しないだろう……そもそもこいつがハーレム系主人公になる可能性も……)


(二人共五月蝿いぞ)


(((…………))


「ま、幼馴染だからな。これくらいして当然だ」


 クスッと笑うテル。そして「キリムらしいね」と言ってきた。……悪口か?


「それじゃ、そろそろ帰るか」


「ですね」


 俺たち二人は並んで帰る。


 そこにはムードの欠片もなく。


 ただそこに二人の人がいるだけで。


 何気ない日常風景で。


 俺達はこのまま平和な日常が続くと思っていた。


 でも、ファンタジー作品の日常は急に終わる物で……。




「あれ、なんか叫び声みたいなの聞こえない?キリム」


「テルもか。多分あっちだな……向かうか?」


「当たり前です」


 いつもと変わらないテル。そんなテルに俺は続いてく。


「あ、そういえば……これ」


「これって……?」


 俺はシルラさんから貰った月のワッペンを渡す。


「今日楽しかったし、俺からのプレゼントだ」


 それを聞き、顔を前に向けて再び走り出すテル。少し耳が赤い気もするが、見間違いかはたまた……。


「……。どうみても壁だよな……?」


 路地裏に入り奥へと進むとそこは、袋小路だった。


「キリム。この壁、魔力で作られた偽装っぽい」


「おいおい……ヤバイことに巻き込まれそうなんだが。


 そんなこと言っても止まらないんだよな?」


「もちろん」


 俺達は壁を殴ったり魔術で攻撃したりして、壊した。


 その先は地下に続く階段となっており、そこから生臭い鉄分の臭いがした。


「血……?」


 少し吐きそうになる……が、こんなとこで弱気になってはいけない。こんな状況でも進むバカ真面目な奴が隣にいるから。


(いつかこんな感じのところに来るとは思っていたが……こんなに早くとは)


(大丈夫?魔素で精神安定の手助けはしとくね)


(助かる、ありがとう)


(キ、キリムが感謝……相当まいってるようね……)


(俺だって感謝ぐらいするよ!)


 ホントに、こいつのおかげで気分が和らいだからな。


「キリム、行けそう?」


 真っ青な顔で聞いてくるテル。ここで止めたい……が、テルのことはよく知っている。


 止めようとしたらここで能力を使ってきてボコボコにされちゃう。


 だから、せめてテルに付いて行き、守ることに専念することにした。


「あぁ、行ける」




 警察に連絡した後、俺達は階段を降り始めた。


 階段を一段ずつ降りる。静けさと壁の材質が相まって足音が反響する。


 降りるほど臭いが強くなる。吐き気も凄まじく、テルのことをまともに気にかけることが出来ない。


「……と、びら……か?」


「ぽいです……ね」


 覚悟を決めて、扉を開く。


 開くとともに血の生臭さがさらに増す。


 今にも吐きそうだが、まだ早い。


 通れる程に扉を開け、俺から入っていく。



 つまり俺は、テルより先にその光景を見ることとなった。



 一面、血が滴る兎の首でいっぱいだった。




 「………あっ、ああ……」


――――――――――――――――――――――

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