ふるふるふるふる

六野みさお

第1話 ふるふるふるふる


ふるふるふるふるネタが降る


街を歩いているときも

きゅうりを口に入れたときも

眠る三秒前のまどろみの中でさえも

ネタは容赦なく僕に激突してくる


ところどころ欠けたイメージのかたまりが

僕の足元でちかちか明滅している

「ほら! ぜひ私を使いなさいな!

明日の連載小説にぴったりでしょう!」


でも僕は苦笑いして言う

「あいにくだけど今から軌道修正はできない

次の連載まで待ってろ、気が向けば使ってやる」

そして次の日には忘れている


ふるふるふるふるネタが降る


先生の小言を聞き流しているときも

退屈な公式とにらめっこしているときも

期末試験の大問4を解いているときも

ネタは容赦なく僕を打ちつける


そういうときだけはやけにはっきりしたそいつは

愉快そうに僕の前でダンスを踊り始める

「さあさあ俺を使ってくれ!

次の短編小説にぴったりだろう!」


僕はそいつをちょっと検分してみる

なるほどなかなかの掘り出し物だ

大急ぎで僕は加工を始める

テストの裏紙を道具にして


「あっ! もうあと10分しかない!」

僕は慌てて大問4を解く

なんとか終わってほっと息をつく

あと2分加工時間が残っている


テストが回収される

「さて、さっきの続きを……あれ?」

どうやら加工中のアレまで回収されてしまっている

はたまた何日後に戻ってくるのか


ふるふるふるふるネタが降る


思うようにネタが降ってこない日もある

どこを探してもなんにも転がっていない

昨日のアーカイブはもう色あせている

僕は腹を立てて空を見上げる


「おうい! どうして今日は降らしてくれないのさ!」

「あいにく今日は晴天なんだ」


ふるふるふるふるネタが降る


「ちょっと君、これでは話が違うよ

その流れはこちらの望みじゃない

つくづく君には失望してしまったよ

今日限りで僕の頭の中から追放する」


そんな台詞を気取って吐いた僕は

数日後にはそいつに頭を下げている

「すみません、どうか力を貸してください!

あなたを最重要要素に据えた小説を書きたいんです!」


そいつは向こうを向いたまま、これだけ言う

「もう遅い」


ふるふるふるふるネタが降る


ふるふるふるふるネタが降る

ふるふるふるふる僕は首を振る

だいたいのネタは役立たずで性格が悪い

それでも僕はネタを拾い集め続ける


ふるふるふるふるネタが降る

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