鉄の箱を攻略せよ!

 両側2車線の大通り、道の所々にゾンビの残骸が転がっている。

 猛スピードで走る車が、進行するゾンビを轢いていくのだ。


 そして、ここにももう1台。

 歩道を歩く2人のゾンビにアタックをかけるが、ギリギリで当たらずに通り過ぎて行った。

 車はテールランプの残像を残し、あっという間に見えなくなる。 


(以下、日本語で記されますが、本当はゾンビの言葉で話しています)


「おい、コラァっ! テメー、どこに目付けてんだ! こっちは歩道歩いてんだろうがぁ! 気を付けろ!」


「あっぶなかったねー。すれすれを通ってったよ」


「いきなりハンドルきって、こっちに突っ込んできましたからね。あのヤロー」


「人間って車に乗ると気が大きくなるからね。何だろうね、ゾンビを轢きたくなる病気なのかね」


「何のための歩道かってことですよね!」


「歩道に対する信頼度が高くないかい? セーフティーゾーンではないからね」


「でも、『歩く道』ですよ」


「人間の、ね!」


「ゾンビには、道を歩く権利もないんですか?」


「あるかどうかは、僕にも分からんよ!」


「そんなに、ゾンビを轢き殺したいんですかね?」


「安全だからね」


「確かに車の中に立てこもられると厄介ですからね」


「それも走ってたら、追いつけないしね」


「何とかならんのですか? あの鉄の箱」


「ゾンビ君。何度も言うけど『物量で押し切る』だよ」


「それしかないんすか? ゾンビには」


「逆に他に何があると思うんだい? ゾンビに」


「今日から筋トレ頑張れば、車を持ち上げられるぐらいのムキムキとかになんないっすかね?」


「どこを目指してんの? 正直、どうぞご勝手に」


「いやでも、車があるからって、人間にデカい顔されるのも癪じゃないですか」


「君はよく人間を下に見るよね」


「まぁ、人生2回目を生きてるゾンビは、ぶっちゃけ1回目の人間よりも上位互換ですよ」


「言いたくはないけど、下位互換だよ」


「なんでですか?」


「ゾンビと人を比べれば分かるでしょ。運動能力も落ちてるし、感覚機能だって鈍ってる。思考力も食欲とかが優位になるから低下と言って差し支えないでしょ。武器や銃を持たれたら、すぐにやられちゃうしね」


「先輩、忘れてますよ。ゾンビには、人間を仕留めるストイックさと、それをやり遂げる鋼鉄のメンタルがありますよ!」


「君だけだよ! ゾンビ全般は割と緩く過ごしてるんだよ!」


「でも、確かにメンタルだけでは車には勝てませんよね」


「聞けよ」


「あっ! 先輩。危ない危ない! 車ですよっ」


「おぉー。っぶなー……あれ? さっきの車じゃない?」


「あいつら、一周して戻ってきやがったのか」


「執念だね。絶対にゾンビ轢くマンになってるな。あのドライバーは」


「ふざけんなよ! 上等だ! 戻ってこいやー。ケリつけたらー!」


「あの調子だと、戻ってくるだろうけどね」


「事故れ! 事故れ! スリップしろ! ……ホントに事故ったっ!」


「あーあぁ。あんなスピード出すから。道路の釘でも踏んだんだろうね」


「先輩行きましょう! 動かなけりゃ、あんな鉄の箱はちょっとデカい棺桶ですよ!」


「まぁ、放っておいても事故の音で他のゾンビたちが駆け付けてくるだろうから、焦る必要もないんじゃない?」


「何言ってるんですか! 手柄を横取りされてもいいんですか?」


「だから、人を襲うのを手柄と考えてるのは君ぐらいだよ!」


「でも、先輩。これで車の攻略法は分かりましたね」


「何?」


「道路に釘を撒いてやりましょうよ」


「ゾンビらしからぬ計画!」


「人間を仕留められるなら、『ゾンビらしい』かなんてどうでもいいっ!」


「その君の感情や思考が、ゾンビと関係なかったら異常だよ!」


「人間を滅ぼせと、ゾンビの使命感が叫んでいるんです!」


「ゾンビに、そんな使命感はないっ!」


「そうだ、先輩。これから停まってる車を見つけたらパンクさせて行きましょう」


「ウゼー。小賢しい……が、良い案だと思うね! じゃぁ、その辺りに落ちてる釘とかを拾っていこうか」


「そうですね」

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