天敵は暑さと湿気

 大量に発生するゾンビの大群に、ついにホームセンターは陥落。少なくなった人々は、建物に火を放って脱出を試みる。

 対するゾンビは、燃え盛るホームセンターと共に焼かれる者もいれば、逃げる人間を尻目にただただ我が道をひた歩く者たちもいる。もはや興味を失ったようだ。

 外はホームセンターに負けず劣らぬ猛暑。

 カンカン照りで、噎せ返るような暑さだ。



(以下、日本語で記されますが、本当はゾンビの言葉で話されてます)



「あ、先輩。腕、落ちましたよ」


「完全に千切れちゃったよ……」


「でも、生き残れただけ良かったじゃないですか」


「あいつら、最終的に火を放ってったからね。いっつもそうだよ。不利になったら、燃やそうとする」


「俺ら、よく燃えますからね」


「ロウソクみたいなもんだからね」


「でも、熱さも感じないんですけどね」


「感覚自体がないから、結局のところ燃やすのは有効打ではないんだよね。しばらく動き回れるし。それに火をつけた時の周囲への被害の方が大きいから」


「バカなんっすよ。人間は。脳みそ、腐ってるんです」


「実際に、腐るのは僕らの方だけどね」


「え? 俺らって腐るんですか?」


「動く死体だからね」


「確かに体がグジュグジュしてる気がしてたんですけど、そういうことですか」


「損傷した場所から腐りだすよ。特に日本の夏は高温多湿でしょ。今日みたいな日は腐りやすいのよ!」


「日本に生まれたことを後悔しますよ。物価は高くなっても、消費税が高くなっても、給料が上がらなくたって、それでも日本が好きだったのに! 人間だけじゃなく、日本までも俺たちを苦しめるんですか! 裏切られた気分です!」


「それは君の勝手な妄想だよ! 日本は元々、そういう気候の国だから」


「腐るとどうなるんですか?」


「あまりに酷いと、体が崩れて消滅するかな」


「チックショー。神様は俺たちにとんだ試練を与えたもんですね!」


「なんで、少し嬉しそうなのよ?」


「苦難があると嬉しくないですか? 何もしないと自分の体が腐るんですよ」


「変態かよ。お前! いや、薄々気付いてはいたけどね」


「自分、逆境でこそキラリと光るゾンビなんで」


「ゾンビになりたてなのに、よくそんなに自信を持って言えるもんだね。君には羞恥心と言うものは無いのかね?」


「恥ずかしがって、人間の包囲網を突破できますか? 自分に自信のない奴が、何かを成し遂げられますか? でも、俺ならできます!」


「ヤバい逸材じゃん!」


「しかし、暑さや湿度って、どうすりゃいいんですかね……」


「方法はあるよ……あぁー、千切れた腕からウジが湧いてきてるよ」


「キモっ!」


「やめろよ! シンプルに傷つくわ」


「だって、ウジですよ。で、それがハエになるんですよね」


「そうそう。それでまたそのハエが卵を産んで、ウジが湧くんだよ」


「でも、考えようによってはですけど」


「うん」


「自分の体から出てきたと考えれば、我が子みたいな感じで、ウジやハエにも愛着がわきますよね」


「わかねぇーよ! ポジティブが極まってるな。どっから出てきても虫は虫だよ!」


「自分の体で育てたんですよ。いわば、その虫の体は、俺たちの肉で構成されてるんですよ」


「だから、何だよ! 発想が異次元過ぎるよ」


「ただ、先輩のウジはノーセンキューです。あっちに行ってください」


「他人に厳しすぎるだろ! なんでそんなに言葉を選ばないのよ」


「ハッキリと言わないと伝わらないこともあります!」


「伝わることもあるよ! もう少し優しさを見せてくれよ」


「これが俺の優しさです」


「改めるんだよ! 優しさを舐めるんじゃない!」


「哲学っすね」


「言葉のまんまだよ!」


「なんか、余計に暑くなってきました……」


「君のせいでな。ちょっと、涼みに行こうか」


「そっすね」

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