ホームセンターという名の戦場
ゾンビの襲撃を恐れた人間たちは、それぞれ建物に立て籠る。
そして、ゾンビたちは大型ホームセンターへと足を踏み入れた。
(以下、日本語で記してますが、本当はゾンビの言葉で話しています)
「ここ、人間だった頃によく来てました。懐かしいーなー」
「ここ品揃えがいいもんねぇ」
「先輩も来たことあるんですか?」
「ゾンビになってからだけどね」
「あー、確かに何度もここにゾンビが現れたってニュースで見ましたよ」
「ここに置いてある海外製瞬間接着剤が欲しくてね」
「瞬間接着剤っすか?」
「体がちぎれた時とか、それが一番いいのよ」
「あ、だから、今回も来たんですね」
「腕がちぎれかけてるからね」
「でもゾンビは、痛覚もないし、ちぎれてもくっ付けられて、便利ですよね」
「君のそういうポジティブな所にも慣れてきたよ。でも、ここは結構、人間からの抵抗があるから、大変なんだよね」
「そうなんですか?」
「ここはさー。工具類とかが充実してるからね。全部が武器になるんだよ」
「でも俺ら、攻撃されても痛くもないですし、この辺の物ならさほどダメージもないんじゃないですか?」
「いやいや。僕らは頭だけは脆いからね。シャベルとか振り回されると、一発で頭飛んじゃうよ」
「なら、そこにあるヘルメット被れば、無敵じゃないですか!」
「え? ヘルメット被っていいの?」
「なんでですか?」
「いや、今までの君の発言的に『防御にまわるマンチな奴はクズだ!』ぐらいのこと言いそうだから」
「え、先輩、バカなんですか?」
「ゥオイッ! ビックリしたー! 抜き身の刃物が飛んできたかと思った。そんな直接的に貶されることがあるかね?」
「自分の身を自分で守ることの何がいけないんですか? むしろ、それを怠ることって、どうなんですかね?」
「ド正論だよ! ぐうの音も出ないよ。でも君から言われると腹が立つよ!」
「あらゆることは準備で8割が決まるんです。8割ですよ! 事前準備をするゾンビと、しないゾンビの生存確率にそれだけ差が開くわけです。そんな当たり前のことなのに、どうしてリスクヘッジしないのかが理解に苦しみませんか?」
「正論で畳みかけるなよ! 地味に凹むから。分かったよ。ヘルメット被るよ!」
「まぁ、僕はダサいから被りませんけどね」
「チクショーがぁ!」
「でも、その接着剤。そんなに必需品なら、ここのホームセンター、俺らでもらっちゃいましょうよ。そうすれば取りたい放題ですよ!」
「発想、ギャングかよ!」
「ゾンビ界のギャングスター。いいかもしれませんね!」
「よくないよ。ゾンビになって悪の道を極めるなよ!」
「1人が3人に噛みつけば、下の者たちの功績の20%を上の者が得られるシステムにしましょう!」
「それはギャングと言うよりは、マルチ商法みたいになってるよ。まぁ、実際にゾンビなんてネズミ算的に増えていくもんだけどね」
「確かに、ギャングの場合は下の者の功績は100%、上の者が取ってくシステムでしたね」
「よくは知らんけど、ゾンビよりも世知辛い人間の社会だな」
「俺たちでデカい組織を作りましょうね! で、接着剤を俺らが牛耳るんですよ」
「あらかじめ人間たちから奪っていくわけね」
「で、他のゾンビに高値で売り付けましょう!」
「ゲスの極みっ! なんでゾンビ同士で溝を作るようなことすんのよ。まず、高値って、僕らにお金は必要ないよ!」
「同種だろうと馴れ合いはできませんよ。物資は有限ですからね」
「まぁ、人間はそれでお互い殺し合うぐらいだからね。とはいえ、まだあるうちは……ん?」
「先輩、接着剤……無いですね。棚に1本もないですよ。説明書きによれば、ゾンビが持っていくから、取り扱いが禁止になったらしいですね」
「な……有限の物資……」
「これは取り合いになりそうですね。しかも、人間どもも焼却に走るかも……」
「僕のちぎれかけた腕……」
「この辺りに、ホームセンターってあとどれくらいあったっけな……。先輩急ぎましょうか?」
「…………くぞ」
「はい?」
「周辺にある接着剤は、根こそぎ牛耳っていくぞ!」
「先輩がキレた……」
「戦争じゃぁっ! ギャングスター目指してくぞ!」
「そう来なくっちゃー!」
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