第11話 ニアの教え


「三つしかくれないんですか?」


 まさか三つも貰えるとは露ほども思っておらず、絶句している私の隣でそんなことを言ってのけたのは、ニアだった。

 そしてそんなニアの言葉を聞いて、トキリが眉を寄せる。


「ここいらで落ちる地耐性装備はその三つしかないのですよ」

「ふーん」

「いやいやいや、ふーんじゃないでしょ。三つも貰えるなんて…………」


 いや、待てよ?なんでニアは貰った装備が三つだってことを…………しかもそれ以前に、私が貰ったのは地耐性防具二つに風属性のアクセサリーだったはずだ。もしかして、トキリは私とニアに三つずつ装備をくれたってことじゃ…………というか、そうなると今の私の発言は「私には地耐性防具を三つくれなかったの?」っていう嫌味にも…………


 そのことにハッと気づいてトキリの顔を見上げると、トキリは申し訳なさそうな顔を私の方へと向けてきていた。


「いやー、申し訳ありませぬ。レギンスの方は一つしか持ってなかったので、うさ公さんには風アクセの方を…………」

「いやいやごめんごめん違う違う。そういう意味じゃないから、ほんと」


 頭が痛くなるってこういうことなのかな。なんて思いながら、私は努めて冷静さを保ちながら言葉を続けた。


「…………ニアにも装備を三つくれたってことでいいんだよね?」

「はい。貰いましたよ」

「私も三つだから、合わせて六つ。装備六つ分も協力しろってこと…………かな?」

「ええ!そうですとも!」

「…………」


 ただでさえ人気がないというトキリに対して、装備六つと対等になるくらいの協力。それは少なくとも一、二回じゃ足りないし、成果が出なくてもドンマイと諦められるような量でもない。

 それに、FWOでは一度プレイヤーからプレイヤーに譲渡されたアイテムはロックが掛かりもう二度と保有権の譲渡が行えないので、貰ったアイテムを返すということもできない。してやられた…………と言うにはトキリにもリスクがありすぎるか。

 などと考えていると、トキリがどこか興奮した様子で私たちに向けて話を始めた。


「いやー。実は様々なテクニック紹介の撮影のために、リリース以来ずっとタリル高原に籠っていたのですよ。そこで手に入れてしまったこの装備たちをどうしたものかと悩んでいたのですが…………この出会いは天啓だと思いませんか!?」

「天啓って…………」

「大丈夫です!絶対人気も出ますから!動画の神様もそう言っています!」


 神頼みってか。

 と内心で悪態をつくと、いつの間にやらスイーツを食べきっていたニアが呆れた眼差しをトキリへと向けた。


「人気は出るものですが、出すものでもありますよ」

「?」

「これじゃあ出る人気も出ないってことです」


 そう言うと、ニアは私たちにあるものを見せてきた。

 それは『ホーリースマッシュの使い方』というトキリの投稿している動画のページで、再生数は…………うん、言わないでおこう。


「このタイトルもサムネも、地味すぎです。内容は結構詰まっていたのでいいと思いますけど、これじゃあまず見てくれる人がいません」

「そ、そうですか?でも、内容が結構コア向けなので、あんまりふざけた感じは出さない方がいいかと…………」

「そんなの関係ないです。人気商売なんですから、まずは一目見てもらわないとお話になりません」

「うぅ…………たしかに…………」


 現役小学生からダメだしされているからか、派手に落ち込むトキリ。

 しかしニアはそんなトキリにも容赦をせずに、加速するように言葉を繋いでいく。


「私も友達にこういうのやってる人がいますけど、見てくれるかどうかなんて内容三割宣伝七割って言ってました」

「宣伝…………ですか」

「はい。トキリさんがどのくらいSNSとかで宣伝してるかは知りませんけど、まずはこのショボいタイトルとサムネからですね。こういうのは、とにかく人気のある要素と唯一性のある要素を前面に押し出すんです。トキリさんの場合は女性で玄人向けってとこですかね。サムネはもっとトキリさん自身を入れて、タイトルもとことん技術的なことを知りたがっている人が見てくれるよなものに振り切るべきです」

「は、はい!」


 わかっているのやらいないのやら、ニアの弾丸のような指示にコクコクと頷くトキリ。


「それと、そもそも人気を出したいならもっと求められていることをすべきです。動画を見る人の大半なんて面白いものを求めてきているんですから、もっとトークを入れましょう。それと、テクニック紹介動画を踏まえての実践動画とかもやった方がいいと思います。そっちは玄人向けじゃなくてただ動画を楽しみに来る人にも向けて、何か縛りプレイでボスに挑んでみるとかそういうエンターテイメント性も入れるといいかと」

「…………」


 人生二回目?

 なんて思わずにはいられないほどのニアの助言を聞きながら、私はその傍らで放心しているトキリに内心で合掌しておいた。私が小学生にここまで言われたら、ショックで寝込んじゃうかも。

 そしてそんなトキリを見て、ニアがさらに追い打ちをかける。


「…………わからなかったですか?」

「い、いえ…………多分…………」

「うーん…………あ、そうだ。その友達も呼んでみましょうか。それも動画への協力ってことで」

「呼ぶって、今から?」

「はい。ちょうど天使族でこのゲームやってるって言ってましたし」

「へー…………」


 小学生の友達ってことは、多分小学生だよね。一体どんな…………という私の疑問に答えるかのように、トキリが慌てた声を出し始めた。


「て、天使族の、小学生の、実況者の友達ですか!?」

「そうです」

「ままま、まさか…………クオン様!?」

「ああ、知ってたんですね」

「…………クオン?」


 ニアの返事で慌てふためくトキリはともかく、クオンという名前は私もどこかで聞いたことある名前だ。それもおそらく、FWOの情報を漁っていた時に。となると、相当有名な実況者なのだろう。

 そしてあわあわしているトキリを更に追い詰めるように、ニアがぽつりと呟いた。


「今から来てくれるみたいです」

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